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二年に上がったばかりの頃、大学の語学のクラスでちょっとした騒動が起きた。
クラスメイトの男子の一人が、DMで別のクラスメイトに告ってフラれた。ありふれた話だ。――その相手もまた、男でなければ。
噂はあっという間に広まり、彼は、瞬く間に学内で有名人になった。あいつはゲイだと言われる一方、いや、あれは単なる罰ゲームだったんじゃないかって言うやつもいて、本当の所はどうだったのかわからないけれど、そのうち、彼は学校に来なくなった。
地獄だと思った。
あんな風に噂され、面白半分のネタとして消費され、笑われて生きていくなんて。同じ人間として扱われることなく、「ゲイが来たぞ」って、恐ろしい伝染病の患者か何かのようなリアクションに、自尊心をズタズタにされて。
「キッショ」と彼を嘲笑う男の声や「まじー?あの顔で?」と驚いてみせる女の声が、その一件に1ミリも関与していない僕の心を、冷たく閃く刃で何度も切り裂いていく。
僕はすっかり怯え、息を殺し、身をすくめ、地の底深く潜った。人の輪の中で悪目立ちせぬよう自我を消し、浮かないように、指差されぬように、可能な限り空気となって、モブ1として人生を生きることを心に決めた。
そんな日々を送り始めてすぐ、胸やけや胸元がヒリヒリするような感覚がとれなくなった。そのうち呼吸の仕方もよくわからなくなって、度々吐いた。息が吸えない。咳き込む。冷汗が噴き出す。意味もなく涙が出る。眠れない。
苦しくて苦しくて、もういいだろう、と言う声が頭の中でどんどん大きくなって、家を出て、線路上にある歩道橋に向かった。そこでしばらく、目の前のターミナル駅に入っては走り去る電車を眺めていた。西日が強く差す中、小刻みに震えながら。
ハルが僕に声をかけたのは、まさにそんなタイミングだった。
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