第2話(2)いったいどこへ連れて行くつもり…?
「では行こうか」とシエロは言った。
「え、本当にその恰好で行くの?」
メイリンが怪訝な顔をしながら、シエロの一張羅を上から下へ、下から上へ視線を往復させた。
「なにか問題があるかな」
「なにそのよれよれのストライプのTシャツは。しわが寄って箱の中で横倒れしたミルフィーユみたいになっているわよ」
「ミルフィーユなんてどうでもいいが、私にもそれなりにポリシーというものがあるんだ。それをとやかくいわれる筋合いはないね」
「ポリシーってその可愛らしい身長を目の錯覚で補おうとしてること?」
メイリンに言われて、シエロは押し黙った。どうやらシエロの小細工はメイリンにはお見通しだったようである。
「ストライプのシャツもそうだけど、その不自然に長い丈のズボンもどうにかした方がいいわよ。なにか考えがあってのことかもしれないけど、お互いがお互いに足を引っ張りあってる。前に私があげた服があったよね?それを着たらいいじゃない。サイズもぴったりのはずよ」
「それは君が小学生のときに着ていた服だろう。絶対にごめんだね」とシエロは言った。
「それにいいよ、足を引っ張っていたって、裾を引きづってたって。知り合いの結婚式にいくわけでもない」
「もう、わかったわよ」
メイリンはお手上げだと言わんばかりに手を上げた。
「その不自然に高いヒールは?」
「もちろん」とシエロはうなづいた。
シエロは革製のヒールに足をいれ立ち上がった。少し歩いただけでも、コツコツと音が鳴った。慣れてない靴に、シエロは何度も足首を思わぬ方向へ折りそうになった。
「ちょ、ちょっと気をつけなさいよ。転んだら足の骨を折るわよ」
メイリンは心配そうな表情をしていたが、シエロは構わず進んだ。次の四回目の右足をだしたとき、シエロは大きくバランスを崩し部屋の端のゴミ袋の山に突っ込んだ。
「あらあら、言わんこっちゃない」
メイリンは心配よりもさきに飽きれたといった感情が勝ったようである。しばらくゴミ山に身体を突っ込んだシエロの姿を、博物館の入り口にある奇抜なオブジェを見るような目で眺めていた。
シエロは起き上がると、右足の状態を確認した。幸いゴミがクッションになってくれたおかげで、大事にはいたらなかった。
「せっかくのストライプが水玉模様になっちゃったわよ」
メイリンはベッドに腰かけながら、シエロの腹回りを興味深そうに見つめていた。
シエロの腹の周りには、ゴミ山の中で潜んでいた何かしらのソースだか汁だかが付着して、すっかり汚れてしまっていた。
「はぁ……」とシエロは溜め息をついた。
結局、メイリンが用意していた服で出かけなければいけなくなってしまった。
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