第2話 いったいどこへ連れて行くつもり…?

「で、どう思う!?」とメイリンは言った。


「どう思うもなにも、人の家に勝手に上がり込んで、優雅にお茶を呑んでいる非常識な人間だと思うね、一般的な意見として」


 シエロはベッドに身体を横たわらせたまま、冷ややかな視線だけを唯一の抵抗としてメイリンに送った。

 ベッドから身体を起こさないのは、この状況に対してどう反応するにせよ、ほとんど意味をなさないことをシエロは理解していたからだ


「そんなのいいじゃない!私達幼馴染なんだか! そんなことよりもマリーさまが消えちゃったんだよ⁉ 本当に大事件なの!」


「マリー様?」とシエロは言った。


「ええ……、さっき説明したじゃん。なんにも聞いてなかったの? 広場の噴水の石像のことだよ。ちゃんと聞いていててよ」


「広場?」


「はぁ? 小さい頃に一緒に遊んだじゃない。わたしは今も登校のときに通るけど、そういったことはあなたには身近なことじゃないことかもしれないけど、いろんな意味でね」

と、メイリンは口を尖らせて言った。


「やれやれ……」とシエロは溜め息をついた。


 なぜ、朝っぱらから押し入って来た人間に、ムキになって嫌味を言われなければいけないのかシエロにはまったく分からなかった。幼馴染という生き物はなんとも厄介で、多少雑に扱っても人間関係に致命的に壊滅させることはないが、一方で簡単に断ち切ることができないのもまた幼馴染の宿命なのである。

 ただし、まあ起床するには良い時間だ。朝靄はとっくに消え失せ、世界は陽気に満ちている。あとはやかましい幼馴染をつまみ出し、食べかけのスコーンを朝食とするとしよう。


「喋ってたらなんだかお腹すいてきちゃった! このスコーンもらうね!」


 メイリンは机にあったスコーンを手に取りパクパクと食べると残った紅茶を飲み干して、満足そうな表情を浮かべた。


「どうしたの、雪山に取り残された子犬みたいな顔しちゃって?」


 メイリンはわずかに口に残ったスコーンの欠片をなめとるように口の中をもごもごとさせながら言った。


「いままさに朝ご飯失ってしまったんだ。だれかのおかげでね」


「朝ご飯? さっき見た時は冷蔵庫にはなんにも入ってなかっよ?」


「…………」


 シエロはもう一度冷たい視線をメイリンに向けた。「ん?」とメイリン。そのままゆっくりとスコーンに視線を移した。


「ああ、これ⁉ まさか朝ご飯だとは思わなかったよ!だって、公園でおじいちゃんが鳩にやる餌のパンよりちっちゃいんだもん!」


「マリー様かなんだか知らないが、広場の石像がなくなることよりも、私にとっては朝食のスコーンがなくなることの方がよっぽど大きな事件なんだ。」とシエロは言った。


「なんだ、ちゃんと話聞いてるじゃない。そんなに怒らなくても朝ご飯くらいおごってあげるわよ。もちろん、忘れかけのスコーンよりもマシなやつね」


「鳩の餌よりも?」


「鳩の餌よりも」


そう言って、メイリンは可愛らしくウィンクをした。




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