おにぎりと森の音

遥かなる戦争の時代から数百年の時が流れた現在。


 人類は魔族との戦争に勝利し、世界のバランスを保つためになくてはならない存在となっており、現在では人類に敵はいないと思われるが、魔族に代わる新たな勢力、『幻獣』が世界各地の至る所で被害を出していた。


 魔族との戦争の間に現れた第三の勢力が何の因果か、その数を膨大に増やし新たな勢力となっていたのだ。


 しかしながら魔族との戦いほど世界に広がるものではないものの生息範囲が広く、腕利きの人間が対処していくという事でバランスがとられている現状である。


 主力となる幻獣ハンターは都みやこである『バーシュ』に多く集まっている。


 バーシュには大型のハンター酒場があり、幻獣の討伐依頼やその他の依頼なども多くがここに集まるため、ハンターにとってなくてはならない場所の1つである。


 都から離れた小さな町『スピリア』、ここに最近幻獣ハンターになったばかりの少年、『ダイス・ネクロイド』がハンターとして旅立とうとしていた。



「それじゃあ母さん行ってくるぜ!」


「本当にアンタが幻獣ハンターになるなんてねぇ。やっぱり父さんの子供なんだねぇ。」


「色んな幻獣を探すついでに父さんも探してくるから、父さんの事は気にすんなって。」



 ダイスの父も幻獣ハンターだった。


 まだダイスが10歳の頃に幻獣の中でも高位の存在である者を討伐するために家を出て早8年が過ぎていた。



「父さんがどんな幻獣を討伐しに行ったかわからないけど、8年も帰らないんじゃああの人はもう…ね…。」


「大丈夫!父さんはきっと生きてるから卑屈になるなよ。俺がちゃんと連れて帰ってくるから。」


「そうだね。母さんもそう信じるわ。」


「よーーーーっし!!それじゃあ行ってくる!」



 珍しい幻獣を探すため、そして父を探すためダイスは家から旅立った。


 まずはここから都に行き、ハンター酒場で情報を探しつつ当面の生活費を稼ぐことが目標となる。


 町中を走り出していたダイスの前に1人の少女の声が響く。



「ダイス!!」



 声を聞き立ち止まるダイスに呼びかけた少女が近寄る。



「ダイス、本当に行っちゃうのね。」


「リリン!見送りに来てくれたのか!?」


「ち…違うわよバカ!この町でも幻獣ハンターとして活動できるのに、わざわざ都に行くバカを冷やかしてやろうと思ったのよ。」



 ダイスの幼馴染の『リリン・マクレーシア』。


 紅葉のような綺麗な髪を持つ美少女であり、ダイスの幼馴染である。


 彼女も小さな頃からダイスと一緒に育ちダイスの影響もあってか、幻獣ハンターの資格を取っていた。



「朝からお熱いねー。」


「しっかり話しとけよー。」



 町の人たちの声がダイスとリリンにかけられ手を振ったりしてダイスは挨拶をした。


 そしてリリンと話の続きをする。



「しょうがないだろ。都に行けばこの町じゃ手に入らない情報とかもたくさん手に入るんだから。」


「それはそうだけどさ。都まで遠いから餞別を渡しに来たのよ。はい。」



 そう言ってリリンはダイスに袋を渡した。


 ダイスが中身を見てみると、水筒とおにぎりが3つ入っていた。



「わざわざ作ってくれたのか?ありがとう!」


「感謝しなさいよね!でもそれだけじゃ今日のお昼ごはんになって終わりなんだから、後は自分で調達するのよ。」


「分かってる!本当にありがとうな。それじゃあそろそろ行くよ。」



 ダイスは貰った袋を自分のリュックに詰め込むと、リリンに別れを告げてまた走り出した。


 大通りを抜けて町の出口から広い街道へ駆け抜けるダイス。


 ここから都まで馬車で1週間と1日ほど。


 人の足では3週間前後かかる道のりとなるのだが、ダイスは走り続けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 走り続けて数時間、やがて疲れが見え始めてきたダイスは街道の途中にある分かれ道の小さな岩場で休憩を取る。



「そろそろご飯にして休憩するかーー。」



 岩場に腰掛けリュックの中からリリンに貰った袋を取り出す。



「ありがとうリリン!いただきます!」



 町の方角を向き両手を合わせ感謝の気持ちを伝えた後におにぎりを頬張る。


 食べ終えたダイスは一息つき、自身の腰にある剣を手に取る。


 静寂な時間の中でダイスは目を瞑り何かを思う。


 だがその時ダイスの耳に小さな音が聞こえる。



「これは、魔法の音…?あっちの森から…?」



 都とは違う方向である道の先には薬の原料となる薬草や小動物の住処となっている森がある。


 小さくはあるが、確実にした音は森の方から聞こえた。



「今の時期は葉がついたりするよりも前だから、誰も森には行かないよな。でも何で魔法の音がするんだ?う~~ん…。」



 興味を持ったダイスは森の方向へ走り出していた。


 街道から逸れて少々進んだ先に広がる薬の森。


 現在の季節は大量の草などが育つ時期であるため、人が入る事はほぼない。


 ゆえにこの季節に森に入るのはダイス自身初めてであった。


 森に入る前と後も音は止まず、確実に聞こえるほど大きくなってきた。


 森の中に入ると速度を落とし歩くダイス。



「こっちの方から聞こえてくる。何が起こってるんだ?」



 木々をかき分け進むとやがて広い緑の広場が見え始めダイスは立ち止まる。


 その広場の中心では人間と幻獣が戦っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る