悪しき獣に神罰を
らんペル
1章・幻獣ハンター
古の時代1
古の時代に3人の神がいた。
それぞれがそれぞれの視点で世界を見守り続けてきた。
その内の1人の神、白き神『アルカライド』。
温厚な一面を持ちながらも、己の正義を貫く確固とした勝気な性格の持ち主。
彼は生命が誕生し、幾重もの進化を遂げてゆく中で1つの悩みを抱えていた。
弱肉強食の摂理の外の暴力。
弱い者が強い者に狩られ、また更に強き者に狩られるという自然の摂理。
それは生命が新たな命を生み出すために、個ではなく種族として存続してゆくために無くてはならない事であるがゆえの摂理。
しかし永い進化の過程で知を持つ獣が誕生し、知があるがゆえに無用な欲が生まれ、無益理不尽な殺生が行われるようになってきていた。
明らかな摂理に反した行動。
本来ならば世界の均衡を保つ神である者が、迅速に対処せねばならない問題である。
だがアルカライドは動けずにいた。
自分以外の二人の神。
蒼き女神『ブランクリース』、黒き神『ゲルフォート』、この二人の同意無くして世界の理に干渉する事、それは対立を意味する事であるために動く事ができないのである。
幾度となく話し合いをしたものの、二人も譲らず答えは常にこのまま見守っていくという結論。
「世界はこのままでいいのだろうか…。」
いつまでも納得ができないアルカライドが呟いた。
それから更に時が過ぎ、やがて人類が誕生した。
神たちは人類に一切手を加えていない。
人類は魔力、体力、筋力など戦闘における能力に関しては低めながらも、知力が他の生物より長けており、知の力によっておよそ数万年の時の流れの中で、人類は食物連鎖の頂点に君臨した。
アルカライドはその過程を観察していた。
世界が良い方向に向かっていると信じて。
その願いは叶う事はなく、時が経つにつれ変化が起こる。
きっかけは何だったのか、人類ともう一つの大きな勢力の種族である、魔族との間に戦争を起こった。
魔族には魔族の、人類には人類の正義があり、これも生物にとっての摂理の1つとして神は干渉できない。
魔族が他の生物との戦闘で絶滅させた事もあったが、この時も神達は動いていない。
しかし人類と魔族の戦争は神々の予想を上回る事態を呼び起こす。
戦争が始まり数年が経った頃にはあらゆる数の種族が絶滅していた。
魔力に長けた魔族と、知に長けた人類との戦争の余波に、他の生物が耐えられなかった。
アルカライドは二人の神に強い言葉を投げかけた。
「こんな事があっていいのか…。これでは人類か魔族のどちらが勝っても被害は甚大だぞ!それでも動かず黙って見ていればいいと思うのか!?」
黙り込み考える二人の神。
しばし沈黙した後にブランクリースが口を開く。
「では私達の代わりとなる者を介入させ、出来る限り他の種族を守る事にしましょう。」
「ほう?それは人類と魔族にはあくまでも自分達で決着を着けさせるという意味で捉えてもよいのか?」
意外にもその提案に反応したのが黒き神ゲルフォート。
「その通りです。私達が介入すれば、人類や魔族だけではなく、間違いなく他の生物の大半も滅してしまう。そうならないためにも、私達の分身を生み出し世界に放つのです。第三の勢力として目を向けさせれば他の種族への影響も少なくなるはずです。私ができる提案と譲歩はここまでですがいかがでしょう?」
(自分達が直接動いた場合の方が被害が大きくなる…。ならば新たな勢力を生み出し、戦争を分断させて規模を小さくして少しずつ終わらせる戦争にしてしまう。確かにブランクリースの言う事も一理あるか。)
初めてのブランクリースの提案はお世辞にもいい策とは言えなかった。
しかし自分達が動けば…という事に関してはアルカライド、ゲルフォート共に同意のもの。
ならばこの提案に乗った方が良い結果に結びつくのではとアルカライドは考え始める。
「いいだろう。その案に私は賛成だ。」
ゲルフォートはブランクリースの出した提案をあっさりと受け入れるのだった。
あまりにもあっさり認めてしまうゲルフォートに対しアルカライドは驚きを隠せない表情をしている。
「何を迷うアルカライドよ。我々が動いては世界が壊れてしまうのだから致し方あるまい?ならば分身共にやらせる以外道はなかろう。」
「確かにそうではあるが…。」
「貴様が迷っている今この時も人類と魔族の戦争により死すべき生物がいるのだぞ。決断は早い方がよかろう。」
(少しでも今よりマシになるのなら仕方がないのか…。)
「よし、わかった。ブランクリースの案で戦争の被害を減らす方法を取ろう。」
こうして3人の神がそれぞれの分身となる『幻獣』を3体ずつ、計9体の幻獣を生み出し世界に放つ。
時間はかかったものの幻獣達の働きにより戦争による被害は少なくなっていった。
長きに渡る人類と魔族の戦争も終わりの時が近づいていった。
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