第41話 魔王激おこ

 紗良のせいで、真理亜が酷く怒っていたような気がする。それに……

 ジークリオンは紗良に気を遣いすぎていると思う。女神さまの玉が割れてしまったのはジークリオンのせいではないし、そもそも紗良には何の力もないのだから、皆から聖女だと思われなくて当然。侮られて当然。紗良ですら自分が聖女では無いと思っているのに。


 あー、ジークリオンに悪いことしちゃったなあ……


 何とかして、私からジークリオンを解放しなければ……。




 紗良は自分の身体の元へ戻るためにジークリオンに憑いて行く。

 憑いて行きながら、自ずとジークリオンに目を向けてしまう。ジークリオンは、進行方向だけを見据えて歩いている。ジークリオンの顔はどこか強張っていて、思い詰めたような少し危うい感じがした。

 

 紗良がいつも見ていたジークリオンは、穏やかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。だからこそ、こんなジークリオンには違和感しかない。


 ……私のせいなのかな?

 私が襲撃されて瀕死になんかなったりしたから。


 責任感が強くて優しいジークリオンは自分自信を責めてしまったのかもしれない。


 ……うわあ。本当にごめん、ジークリオン。


 



 そして、その日の夕暮れ……

 思っていた通りに紗良は、紗良の身体が眠る聖フィーレ神殿へ戻ることができた。


 紗良は、祈りの間へ向かうジークリオンから離れ、自室へと一直線に向かう。


 戻れるかな?

 どうやって身体にもどろう? 

 戻れなかったらどうしよう?


 紗良は、目の前に次々と立ち塞がる壁をすり抜けていく。


 いいえ。戻るの。

 自分の身体に何としても戻らないと。


 遂に、紗良は最後の壁をすり抜けて自室に入った。


 お、わあっ!


 紗良はドキッとした。


「ニャアア!」

『フラフラしすぎだ!』


 不機嫌そうなアルの声がしたのだ。


 ふひゃあ!

 ……アルう?


 見遣ったベッドの上で黒猫のアルが紗良を見据えていた。


 うっ。

 何でそんなにご機嫌斜め?

 気のせいかアルの周囲がどす黒いオーラで覆われている気がする。

 

「ニャオ、フニャア、フギャア」

『お前、身体ほっぽいて……死にたいのか?』


 アルの地を這うような低い声に、紗良はブルブルと身体が震える。


『……えっと、アルは……怒っているのかな?』


「フニャアオ、ンニャア、ニャオニャオ」

『は? なぜ微塵でも怒っていないと思うのかがわからん』


 ひぇぇ。

 凍てつきそうな冷気を纏った声に紗良は恐れおののく。


 何ていうか、魔王さま降臨?

 猫ちゃんのくせに……

 小っちゃいくせに……

 アルが正しく魔王に見えるよ。

 何か怖い。


「ニャオ、ニャオ、ンニャア」

『言ったはずだ。お前は俺のものだと。それにもかかわらず……なぜ俺に断りもなくここから居なくなった?』


 怒ってる、怒ってる、怒ってるよね?

 だけどさ、理不尽じゃない?

 そもそも好きで身体から離れたわけじゃないんだし。

 それに……


『アルは魔王なんでしょう? なら、私を連れ戻しに来てくれたら良かったんじゃないの? 魔王なんだから、そんなの簡単でしょう?』


 ちょっと腹が立ったので、紗良は煽り気味にアルに言った。


 ふーんだ!

 勝手なこと言わないでよね!

 何が『お前は俺のものだ』よ? だいたい……アルの餌認定認めてないし。

 認めてないのに、勝手に私の体液食べているんじゃないの!

 我が物顔しないでよね!


「ナーオ、ナー」

『お前の身体を守る必要があったからだ。そうでなければ直ぐさま回収に行っている。まあ、良い。最悪お前の身体を魂の元へ運ぶつもりだった。ついでに、俺の城に持ち帰り監禁してやろうかと思っていたところだ』


 へ?

 ちょっと待って?

 猫語と副音声の長さが合っていないけど大丈夫?

 いやいや、そうではなくて、なに? その不穏な……『ついでに』の後。


 魔王アルベルト・ルーフェイの監禁エンドとか嫌なんですけど?


 ……ん?

 あれ? 私、何か大事なことを思い出したような?


 魔王アルベルト・ルーフェイで……


 魔王……魔王、魔王?


 

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