第40話 魔王と紗良と
ジークリオンが居なくなった後も、プカプカ宙を漂いながら紗良はアルのことを考えていた。
決して、話が通じないヤツでもないんだよなあ。冷酷かといえば、猫ちゃんの姿だったけれど、子どもたちには優しくしていたし。
紗良をセクハラ紛いのやり方で補食するけど、痛くはしないし。ああ、ちょっと常識からずれてるところはありそうかな? 素っ裸で平然としてたから。あれは、酷かった。
それなのに、人ごと村を五つも凍らせたんだね……アル?
無理だ。やっぱり、そんな残虐非道なアルを想像できない。
取り敢えず、アルに会って話をしたいな。
だけどなあ。身体から魂が抜けちゃっているのよね。どうやったら、戻れるのだろう?
ううんんん。
勝手に身体から引き離されちゃったしなあ。
一人でプカプカ浮遊しながら帰るのは大変そうだよね? まず場所がわからない。一番良いのは、フェルリアンさまの守護天使としては任務不履行になってしまいそうだけれど、紗良の身体のところへ連れていってくれそうな人に憑いて行くことだよね。
どうしようかなあ? だれか良い人がいるかなあ?
………あ!
いたよね。さっきまでここに! ジークリオンが!
ジークリオンなら紗良の身体のある神殿に戻るよね?
ジークリオン、まだ近くにいるかな?
紗良はフェルリアンさまの執務室の扉をすり抜けてジークリオンを探しに行くことにした。
キョロキョロしながら紗良は、お城の中をさ迷う。
お城って広いんだよね……
こんなに広くてジークリオンが見つかるのかな? 見つかって欲しいんだけど。
……ん?
向こうの方で何やらざわめいているような?
何かあったのかな?
「……へ案内しなさい! 何をぐすぐずしているのです」
聞き覚えのある声がした。
真理亜だ。……そうか、聖女だから王宮で保護されているのね。
神殿でも思ったけど、なかなか、堂に入った聖女っぷりだ。
真理亜のお付きらしい修道女は、あたふたしていて大変そうな様子だった。見ていると、向から騎士が急いでやってきた。
「聖女さま、ジークリオン・オブリージュ教皇さまが聖女さまのお部屋に向かわれました」
「そう。それなら、お部屋でお待ちしたほうがいいわね」
真理亜の声色が機嫌良さそうなものに変わった。
真理亜もジークリオンに会いたかったのね。良かった! これでジークリオンに憑いて帰れそう。
紗良は真理亜に憑いて行くことにした。
『わあ!』
紗良は感嘆の声を上げた。
さすが王宮!
真理亜の部屋に入った紗良はその豪華さに驚きながら、キョロキョロと室内を見回した。
上品で高級そうな家具ばかり置いてあり、内装もとても豪華だ。
部屋の扉を守る騎士もいたし、部屋の中では、メイドも修道女も真理亜にかしづいている。真理亜はとても大事にされているみたいだった。
そんな中、真理亜はそわそわと落ち着きなくチラチラと扉の方ばかり見ている。
……ジークリオンに会いたくて仕方がなさそう。
あれかな? フェルリアンさまにも好意を寄せているみたいだったけれど、ジークリオンにもかな? 攻略対象者だし……
程なく扉が開いて、ジークリオンが現れた。
「お呼びと伺いました。お待たせして申しわけございません」
ジークリオンはふんわり微笑んだ。
フェルリアンさまの執務室に居たときとは違って、何時ものジークリオンだった。
真理亜は嬉しそうに目を輝かせた。
「ジークリオンさまにお会いしたかったのです。私の傍で、私を聖女としてお導きくださいませんか?」
胸のまえで手を組んで首を傾げた真理亜の色っぽいこと。
紗良には到底真似のできない妖艶さだった。
「聖女真理亜さまもご存知とは思いますが、紗良さまが重態なのです。私は、紗良さまを守らねばなりません。聖女真理亜さまのお側にはノルディ殿下がいらっしゃいます。殿下が聖女真理亜さまをお導きになるでしょう」
ジークリオンは、真理亜の魅力に全く靡いていなさそうだ。
ストイックすぎるよ? ジークリオン。
それより、わざわざジークリオンが紗良を守らなくても良いんだよ……って言いたい。
ジークリオンは教皇なんだから聖女の真理亜を守るべきなのだ。
ほら? 真理亜だってショックを受けた顔をしている。
「申しわけございません」
ジークリオンが目を伏せた。
「……聖女の私よりも紗良さんを優先させるということですか?」
問いかける真理亜の声は心なしか震えているようだった。
「どちらかを優先させるということではありません。それに、女神さまの玉で証明することはは叶いませんでしたが、紗良さまもまた聖女なのです」
ジークリオンは静にこたえる。
「聖女真理亜さまも、紗良さまも大事なお方です」
「何の力もなく、役にも立っていないのに?」
真理亜は不快そうな顔をした。
それは、そうだよね。ジークリオンがおかしいよ。
本当に、紗良には何の力もないのだから。
うん。私のことなんて放って置いていいのに……ジークリオン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます