第38話 守護天使は推しの傍に
フェルリアンさまは、夜明け前に就寝……そして、小一時間ほどで起床した。
なんと……守護天使で、フェルリアンさま見守り隊一番隊隊長の紗良は、フェルリアンさまの寝姿を余すことなく堪能してしまった。寝ているフェルリアンさまの色っぽいこと色っぽいこと。思わず拝んでしまった。目を閉じた尊い推しの長い睫毛や寝衣の合わせから覗く首もと、鎖骨……ひゃあああ! 紗良は、フェルリアンさまが起きるまで顔を真っ赤にして悶えまくったのだった。
それは、さておき……
紗良は、フェルリアンさまを眺めながらヤキモキしていた。
もうさ、絶対身体に悪いって!
こんなにフェルリアンさまが不摂生な人だとはゲームでは気がつかなかったよ。
ご飯だって、こうなの。
フェルリアンさまは起床後すぐ身支度をすませると再び執務室で仕事を始めた。
『え? 朝ごはんは?』と思っていたら、侍女がやって来て執務机の上にサンドイッチとお茶を用意した。
それをね、フェルリアンさまときたら書類を見ながらつまんでいるの。もう一度言おう。書類を見ながらつまんでいるのよ!
フェルリアンさま……
朝食くらいちゃんと食べようよ。
『……私の推しが不憫』
フェルリアンさまのために何かしてあげたいのに……守護天使なのに紗良は見守ることしかできない。
ため息をつきながら、自分の不甲斐なさに紗良が嘆いていると、扉をノックする音がした。
「入れ」
フェルリアンさまが、書類から顔も上げずに応える。
扉が静かに開き……紗良は目を見張った。
銀糸の流れるような長い髪に切れ長の涼やかな目。白くきめ細やかな肌の麗しい天使……ジークリオンが部屋へ入ってきたのだ。
うわあ。
ジークリオン?
何だろう? このお久しぶり感。
……そのせいで、ジークリオン耐性が初期化しちゃっている。
ジークリオンが綺麗すぎる。キラキラしていて眩しい。
ん? あれ?
ジークリオンに違和感を感じた。
……いつもの優し気な慈愛に満ちた表情がジークリオンの顔から消えて、思い詰めたような強ばった顔をしているのは何故?
何ていうかジークリオンらしくない。
「それで、紗良さまの容態は?」
フェルリアンさまは、書類から顔を上げて、ジークリオンへ目を向けた。
へ? 私?
「……手は尽くしました。傷も治癒しました。ですが、まだ意識が戻らないのです」
憔悴しきった様子のジークリオンに、紗良は何とも言えない気持ちになる。
えっと、これは、まさか私の話なの?
嘘でしょう?
「……そうか」
フェルリアンさまの顔は憂いを帯びていて……
待って? もしかして、私、フェルリアンさまたちに多大なる迷惑をかけているの?
うっかり襲撃に倒れてしまったことで面倒なことになっていたりする?
「昨日、聖女真理亜さまに神殿で祈って貰ったよ。……だが、祈りは届かなかったみたいだ」
もしかして、私が回復するように?
メチャクチャ心配かけている感じ?
推しに迷惑をかけるくらいなら……いっそ、死んでしまったほうが良かったのでは?
「気候の件と魔王に五つの村を凍らされた件ですね?」
………………はあ?
私の回復のためでなかったのは良かったけれど……えええ? 何それ?
魔王が五つの村を凍らせた?
凍らせたってなに? 昨晩のフェルリアンさまとエクスが話していた事だよね? ええっ! それって魔王がやったの?
うわあああああ!
あり得ない! あり得ない! あり得ない!
何やってくれちゃっているのおおお! バカアル!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます