第36話 守護天使爆誕

 良く考えたら、死んだらなんて生ぬるい。うん、今からフェルリアンさまの守護霊になろう!


 唐突に紗良は決めた。


 紗良は宙に漂いながらフェルリアンさまに憑いて行く。


 フェルリアンさまは赤い髪の騎士と共に神殿の裏側から外にでると、


 うひゃあ!


 嘘お!

 白馬に乗って帰るの? 

 馬車ではなく?

 ヤバい! ヤバい! ヤバい!

 格好いい!


 紗良はその光景に目を輝かせた。


 フェルリアンさまが、雄々しくて逞しい!


 見た目スマートで麗しい王子さまのフェルリアンさまが、馬に颯爽と跨がる姿を見ることができるなんて!


 魂を揺さぶられるような興奮に、ガツン!と紗良の理性がヤられた。


 その途端、紗良は独断と偏見でフェルリアンさまの守護天使になった。一気に守護霊から守護天使に紗良の中でランクアップしたのだ。たいして変わりはなさそうだけれど守護天使の方が尊いフェルリアンさまには相応しい気がした。折角なら綺麗な呼び名の方が良いし。


 だから、いいよね?


 理性の壊れた紗良は欲の赴くままに暴走する。


 守護天使の特権を行使します?


 紗良はフェルリアンさまの後にフワリと舞い降りると、馬に跨がった。

 そして、思いの丈をぶつけるように透ける自分の腕をフェルリアンさまの腰に回した。


 遂に、やってしまった。

 ……フェルリアンさまと馬に二人乗り。


 ぷるぷると紗良は歓喜に震える。赤らめた透ける顔でフェルリアンさまの背中に頬擦りする。


 どうしよう。すごく幸せだ。


 身体と魂が離れてしまって、もしかしたら紗良はもう死んでいるのかもしれないけれど、推しの守護天使になれたのなら結果オーライだよね。


 馬に揺られながら、間近でフェルリアンさまの端正な麗しい顔を後方から眺める。


 フェルリアンさまのこんな近くにいられるなんて、幽体離脱に感謝だ。

 あ、そうなると感謝すべきで一番の功労者は、紗良を襲撃した人かもしれない。


 能天気にも程があり、端からみたら、とんでもないことを考える紗良だった。

 けれど、紗良は知らないのだ。自分のせいでジークリオンが打ちひしがれていることや彼を取り巻く面々が複雑な気持ちを抱えて苦悩していること、魔王がチャッチャとやらかしたこと、紗良が瀕死になった余波が色々なところに影響を及ぼしていることを。


『それにしても、私はなぜ襲われたのだろう? 私を襲っても得られる物なんて何もないのにな』


 紗良はポツリと呟いた。


 いっぱい血が出たから絶対に死んだと思ったのに、守護天使として復活するなんてアレかな? 異世界転移者チート。

 聖女より断然フェルリアンさまの守護天使がいいよね。

 誰に憚ることなく推しを愛で続けられる。ハッ! これって、もう天職といっても過言ではないのでは? 


 紗良はその結論に満足して、ニヤニヤしながらお城へ向かう白馬の上で透き通った身体をフェルリアンさまの身体に預けた。


 

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