第35話 紗良は浮遊する
真理亜は、フェルリアンさまへの言葉通り女神フィーレさまに祈りを捧げた。
祈りを捧げる真理亜の姿は聖女然としていてとても清らかで絵になっていた。
宗教画が幾らでも書けそうだ。
聖女さまの祈りだから、さぞや凄いエフェクトがくるのではないかとワクワクしていた紗良だったが……呆気なく普通に終わった。
まあ、現実はこんなものよね?
少しガッカリした。
「聖女真理亜さまに心からの感謝を」
フェルリアンさまは、胸に手を当て目を伏せた。
金糸の髪がサラサラとフェルリアンさまの頬に落ちて……その美しさに見惚れる。
容姿も所作も全てが優美すぎて紗良は自分でも呆れるほどフェルリアンさまに見惚れ続けた。
麗しすぎて溜め息しかでない。
フェルリアンさま……はぁ、好き。
「叶うなら、神殿の前に集まっている私の民たちに声をかけ安心させてやってはくれないだろうか?」
フェルリアンさまの言葉に真理亜は力強く頷いた。
真理亜は、勿論そのつもりだった。折角のこの機会を自分の存在を知らしめる為に有効に使いたいと思っていた。
真理亜がフェルリアンさまからお願いされたことは二つ。
気候の急激な変化と魔王復活による被害の緩和を女神フィーレさまに祈りを捧げて願うこと。
このことで怯える人々に聖女真理亜が語りかけ人々の不安を払拭することだった。
極めて簡単なミッション。
けれど、聖女真理亜の存在を知らしめるには効果は絶大。
これまで以上に人々は聖女真理亜を崇めるだろう。
「では、私、フェルリアンさまの民の心を癒してきますわ」
真理亜は、舞台女優のように仰々しくお辞儀をしてこの場から去って行った。
真理亜さん何をしても本当に絵になるなあ。
紗良は真理亜を目で追ったあと、まだその場に留まっているフェルリアンさまに目を向けた。
え?
紗良の心臓の鼓動が強く脈打ち、紗良は一瞬にしてフェルリアンさまに目を奪われた。
紗良の黒い瞳が蕩ける。
そこには、凶悪に美しいフェルリアンさまがいた。
表情の無いアンティークドールのような顔の真冬の冴えた月のように美しいフェルリアンさま。
ああ、フェルリアンさまの背景に氷の結晶がみえる。
……これは、きっとご褒美だ。
異世界転生させられた紗良への神様からのご褒美。
紗良は陶然とした。
いつもギャップ萌えで悶えまくっていた推しのかもし出す『背筋が凍るような冷気』を体感できるなんて……ここは天国?
ん?
あれ?
……えっと、
あ!
ちょっと待って? 本当に天国なのかもしれない!
うっかり、浮遊が楽しすぎて忘れていたけれど、幽体離脱って……魂が身体から抜けている状態よね? 夢だとおもっていたけれど、夢ではなかったら? 何だかリアルすぎるし。
『私の身体は一応生きていたよね? 呼吸はしていたし。だけど魂で移動している間に天国へ辿り着いていてもおかしくはないよね?』
ぶつぶつと言いながら紗良は考え込んでしまった。
けれど、数秒後。
あ! だめ! だめ! この尊い姿の推しを目の前にして、他のことを考えるなんてあり得ない!
勿体なさ過ぎる!
うん。そうだ! 死んだら、フェルリアンさまの守護霊になって永久にフェルリアンさまを愛でよう!
ここにきて、紗良は自分のもてる力を『能天気』に全振りした。
そして、憑いていくことにしたのだ。
テンション高らかに……
紗良の推しフェルリアンさまに。
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