第34話 紗良は漂う
それにしても、真理亜さんってすごい人気なのね。
美人な上に聖女……これは無敵だわ。
『月光の贄姫』のヒロインだし、これから魔王を封印して世界を救って、めでたく攻略対象と……あ、あ、あ、ちょっと待って?
『ぶふっ』
紗良は可笑しくなって吹き出す。
魔王って……バカアルのことじゃないの。
私を食うって豪語しているけど、封印されるんだよ? 聖女が召還された時点でアルは詰んでいるのに。……やっぱりアルっておバカ。
やれやれと首を振りながら紗良は真理亜の後をフワフワと付いて行った。
真理亜は騎士に守られながら神殿の奥へ進んでいく。
ん?
ここは礼拝堂?
正面に大きな女神像があった。真っ白い大きな石像。
背中ほどまである長い髪に美しい慈愛に満ちた顔。それが優しく口元を綻ばせている。
背中に生えた白い羽が神々しさを際立たせ、見るものに畏怖の念を抱かせる。
……そんな石像だった。
これが……女神フィーレさま?
ゲームでみた絵の何倍も綺麗だと紗良は思った。
それに女神フィーレさまの石像から神聖な空気? 力のようなものが溢れている気がする。
「聖女真理亜さま、ようこそお越しくださいました」
紗良が空中に漂いながら下を眺めると、数名の騎士を従えた真理亜と、真理亜の前に膝を折る神官が見えた。
ちゃんとした聖女さまには皆、礼儀正しいんだ……。
紗良はちょっとだけ、モヤッとした。
真理亜も紗良も異世界転移してきて、立場的には同じはずなのに、方や聖女、方や何者でもない者。その差は歴然としていた。
真理亜は尊ばれ敬われるけれど、紗良は見下され侮蔑されている感じ……だよね?
勿論、全ての人たちがではないだろうけど。
神殿の子供たちは紗良を慕ってくれたし、ジークリオンは、何故か紗良にとても良くしてくれた。紗良が聖女だと証明することができなくても、間違いなく聖女だと言って真理亜と差別することなく同等に接してくれた。
紗良は、ジークリオンの微笑んでいる顔を思い出して、心がフワリと温かくなる。
……まあ、いいんだけど。
気にしないもの。
だって聖女って面倒くさそうだし。
紗良的には、どこか静かな町でのんびり暮らせるといいなあ……と何となく思っている。
現状、元の世界には戻れなそうだし。
聖女でないのに、ずっと神殿でジークリオンのお世話になるのは心苦しいし。
と……
不意にざわめきが聞こえて、紗良の意識が真理亜たちの方へ引き戻された。
「まあ! フェルリアンさま!」
やや大袈裟な感じの媚びたような真理亜の声が響いた。
フェルリアンさま?
キョトンと見やると、
うわあ! フェルリアンさまだ!
朱色の髪が目を引く強面の騎士を伴ったフェルリアンさまがいつの間にかここへ来ていた。
王子さま仕様? キラキラのエフェクトがかかっていて今日もとんでもなく麗しい。
はぁ……尊い。
紗良はセルリアンさまをウットリと見つめて溜め息をついた。
「聖女真理亜さま、私の願いを叶えてくれたことに感謝します」
フェルリアンさまは恭しく真理亜の手を取りその甲に口づけを落とした。
ああ……何て尊い。
紗良はフェルリアンさまの優雅な物腰に見惚れた。
口づけを落とす瞬間の細められた目に影を落とした長い睫毛……尊過ぎてフェルリアンさまから目が離せない。
はぁ……好き。
……好き、好き、好き。
「フェルリアンさまのお願い通り、ここで女神フィーレさまに私が祈りを捧げましよう。この世界をお救いくださるように」
流石、聖女さま。
世界を唸らせるくらいの力が、きっと聖女真理亜にはあるのだろうと思う。
真理亜の言葉は、勿体ぶるようで、少し尊大に聞こえたけれど紗良は素直に感心した。
「お願いします。聖女真理亜さま」
ゾクッ!
そう言って、フェルリアンさまは凄絶な美しい笑みを浮かべた。
真理亜も紗良もその場に居た皆の目が吸い寄せられる。
そのフェルリアンさまの笑みに、紗良はゾクゾクした。
心臓は早鐘を打ち、甘く疼くような感覚が紗良を苛む。
推しの笑みに……
感情の無い寒々とした青い瞳を見つけて……魅了される。
紗良は自分の頬に両手を当てて悶絶しそうになった。
それは、お腹の中で何を考えているのか分からない……
優しくて凍えるように冷たい最上級の笑み。
紗良は、キュンと胸が締めつけられた。
尊い……
その時、
フェルリアンさまを見つめ続ける紗良の目の前で、真理亜がフェルリアンさまの手を両手で包み込むように握った。
え?
ドクン!
紗良の心臓が大きく音を立てた。
…………。
フェルリアンさまの御手に触れることができる真理亜。
……いつか、フェルリアンさまは、聖女真理亜とくっつくのだろう。
魔王を封印して世界を救ったら。
異世界から来た聖女真理亜がヒロインだから。
……二人は、美男美女だし。
……推しが幸せになれば私も嬉しい。
ズキッ!
どうした事か、紗良の心臓が痛んだ。
しかし、紗良はそれを無視した。
……痛いのは気のせいよ。
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