第27話 聖女真理亜

 王都にある王宮の一室。


 聖女さまを迎えるためだけに用意された豪華な部屋の中に、純白のドレスに身を包み美しい黒髪をハーフアップにした女性が立っていた。紗良が言うところの『すごい美人』……聖女真理亜だった。



 何故、ジークリオンさまは私のところへ来ないの? 私はこの世界から認められた聖女なのよ! 


 真理亜は、ジークリオンが紗良なんかにかまけているのが気にくわなかった。


 聖女と認められてもいないのに、ジークリオンは聖女真理亜ではなく紗良を気にかけているようだった。

 紗良なんて何の力もないくせに。それにひきかえ、真理亜は光属性魔法が使えた。魔力も沢山ある。『月光と贄姫』の設定通り、癒しの魔法が使えるのだ。間違いなく聖女。もっと真理亜に敬意を払うべきだと思う。真理亜を王家が庇護するのは当然として、神殿の最高位であるジークリオンも真理亜を第一に考えてひれ伏すくらいするべきだ。


 本当にイライラする。


 真理亜は美人だと自分で思っている。スタイルも良い。元いた世界ではモテた。彼氏がいなかった時がなかったくらいだ。男は皆、真理亜の美貌に寄ってくるのだ。ただ色っぽく笑って見せるだけで良かった。フェルリアンさまは、毎日真理亜に会いに来てくれる。真理亜の手を取り不自由していることはないかと聞いてくれるのだ。きっと、真理亜のことを好きなのだと真理亜は解釈していた。いわば、『月光の贄姫』におけるヒロインの聖女真理亜を攻略対象者の一人であるフェルリアンさまが好きにならないはずがないのだ。フェルリアンさまの好感度はさほど苦労しなくとも上がるだろう。なのに……ギリッと奥歯を噛み締める。


 なぜジークリオンは真理亜のもとにいないのか。


 真理亜は『月光の贄姫』では逆ハー狙いだった。どのキャラも自分にかしずかせたい。見目麗しい攻略対象者たちを侍らせたかった。それを現実に叶えられるときが来たのだ。ここは聖女真理亜の世界だ。真理亜のために存在していると言ってもいい。人々からの崇拝も恭順も攻略対象者たちの愛も全て聖女真理亜のものだ。おまけで召還されたような紗良に微塵も分けてやる気はない。


「ジークリオンさまはどこにいるの?」


「女神フィーレ聖神殿におられるようです。紗良さまをお連れになったとか」


 修道女の言葉に真理亜は眉をひそめる。


「聖女の私を差し置いて紗良の面倒をみているのね? あのような者がいるから私がないがしろにされるのだわ。困ったことね?」


 悲しげな表情を作ってみせれば、修道女は我が身のことのように悲壮な顔をして身を震わせた。


 周りの意識を聖女真理亜に有利なように変えていくのだ。

 皆が求める聖女を演じる。

 

 いずれ、攻略対象者たちを全て手中に収め、聖女真理亜はこの世界の女王になるのだ。


 何なら、ラスボスの魔王も陥落させてみせよう。封印なんて勿体ない。


 あの禍々しくも凶悪なほどに美しい魔王……アルベルト・ルーフェイ。


 真理亜の勘では、彼は未だ実装されていない隠れ攻略対象者だ。





「尊くも麗しい聖女さま、聖女さまの憂いはお仕えする私どもで払いましょう。どうぞ、心穏やかにお過ごしください」


 修道女が平伏した。

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