第24話 黒猫のアル

夕食は子どもたちが賑やかなおかげで、終始和やかな雰囲気だった。

私の席はジークリオンの隣で、彼は驚くほど面倒見が良かった。止めなければ給餌してきそうな勢いで……誰これ? って本気で思った。

『こちらも美味しいですよ。紗良さま、火傷されないように冷まして差し上げますね。冷めましたよ。どうぞ召し上がってください。』と、言ってスープを掬ったスプーンを私の口許に持ってくるから恥ずかしやら焦るやらで困ってしまった。ジークリオンってそんなキャラだっけ? 子どもたちの世話も焼いていたし……ジークリオンって神殿で一番偉い人じゃないの? 確かこの国の王さま、王太子の次くらいの地位じゃなかった? 食事の途中で『ジークリオンはおかあさんか! 』 と、叫びそうになったのは秘密だ。


 そして、今ジークリオンから『ここが紗良さまのお部屋です。』と、案内された一室でようやく一息ついたところだ。


 流石に神殿を移動して、子どもたちと遊んで、初めての人たちとご飯食べて……は疲れちゃったな。


 紗良はベッドの上にごろんと寝転がった。

 その様子を見ていたアルが呆れたように……。


 「ニャアア。」 

 『行儀が悪いな。俺がいるのにくだけすぎだろう。』


 そう言ってベッドに飛び乗ってきた。

 そして、紗良の横で猫らしく身体を丸めると尻尾をパタパタ揺らす。


 「べつにアルは猫なんだからいいでしょう? 」


 自称ドラゴンで大嫌いな蜥蜴もどきの姿から猫の姿になったのは良かったと思うけれど、アルに気を遣う必要はないよね? 別にアルは偉い人でもないし。ただの魔王だよね? 魔王はラスボス……つまり、悪。社会的地位はない。


 「ナアアン? 」

 『お前、またものすごく失礼なことを考えているだろう? 』


 あはっ。ばれた。


 紗良は口を両手で覆って身体を揺らして笑った。

 変にアルは勘が良い。


 「ニヤア、ニヤ。」

 『お前の世界とこの世界では常識が異なるからな、気を付けたほうが良い。お前にとっては面倒かもしれないが少し学んだほうが良いだろう。』


 ん?

 アルって……。


 「たまにまともなことを言うよね? 」


 「ニヤアー。」

 『お前は、いつも無礼だがな。』


 アルはどうしてここにいるのだろう? アルは、紗良のことを自分の所有物のように言うけれど……意味不明だよね。アルが言うことをそのまま信じるなら、最終的に紗良を食べるらしいから紗良が逃げないように見張っているのかな? それにしても非効率。あれで一応魔王なのだから遣り様はいくらでもあるはずなのに。わざわざ紗良の傍にいる必要ある?


 「ニヤア、ニャオ。」

 『ところで、紗良……お前風呂上がりの俺に不埒なことをしただろう? 』


 ふえ?

 ふ・ら・ち?


 「ニャオ! 」

 『俺の身体を執拗に撫でまわしただろう! 』


 えええええ!

 いやいや、それはモフっただけだからね?

 何て事言うのよ! 執拗にとか人聞きが悪い。

 そりゃあ、もふもふを思い切り堪能したけど……。


 「アルの勘違いだよ! 」


 紗良が抗議すると、アルは徐に身体を起こした。


 「何よ? 」


 訝し気に紗良はアルの動きを目で追う。

 すると、アルは紗良の顔の近くに寄ってきた。


 ……何?


 アルの黒猫の髭が紗良の頬にあたる。そして、アルはペロリと紗良の顔を舐めた。


 えっ?


 ペロペロと舐め始める。

 傍目には、黒猫がじゃれて甘えているような構図だけれど、これはアルだ。

 

 不埒なのはアルじゃないの。

 勝手に女の子の顔を舐めるな……そう思うのに何故かウトウトしてくる。


 ……疲れてるからかな? 


 瞼が落ちる……。


 どうしてだろう? こんなに舐めまわすアルを止めたいのに……変だ。途轍もなく眠たい。


 紗良が眠りに落ちそうになっていると……。


 ペロッ。


 紗良の唇にザラザラとした暖かい湿ったものが触れた。


 うーんんん……なに?

 ……アルの舌?


 それは紗良の唇を割って中へ侵入してきた。


 「んふ……。」


 ペチャッ、ペチャッ……。


 紗良の口の中の唾液を舐めとられる。そして、紗良の舌に絡みつき吸い上げた。


 「ん、あっ……。」


 紗良の身体がビクンと震えた。


 ……なんでえ? 気持ちいいよお。


 「……んあ、ぅんん。」


 紗良の口の中で縦横無尽に動くそれのせいで頭がふわふわしてくる。


 「あ……だめ。……アル。」


 紗良の唇から言葉と一緒に零れる唾液をペロペロと舐めとられる。


「ニャア。」

『もう眠れ、紗良。』


 アルの声がして……。


 次の瞬間、

 それこそ執拗に舐め回されながら紗良は深い眠りに落ちてしまった。

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