第23話 女神フィーレ聖神殿の者たち

神殿の食堂は美味しそうな匂いで溢れていた。

大きな細長いテーブルに修道士が二名既に席に着いていた。

子どもたちも「わーっ! 」と、各々席に着いた。

どうやら席は決まっているようだ。

ジークリオンは、紗良を伴ってテーブルの側まで行くと皆を見回した。


「皆さん、席に着きましたね。では、 こちらを注目してください。」


 皆が紗良たちの方を見た。


 うううっ。


 一斉に集まる視線に緊張してしまう。


「今日からこちらで生活します紗良さまです。紗良さまは神殿がお迎えした大事なお方ですので皆さんよろしくお願いします。」

 

 ジークリオンの言葉に皆が頷き合っているのが見えた。


 「では、自己紹介をお願いします。」


 「それならば……この中で最年長の私からでよろしいですか? 」


 そう言ったのは白髪が混ざった青い髪の中年の男性だった。目元に笑い皺があり穏やかそうな顔をしている。それでいて油断のならない雰囲気がある。

 紗良を静かに見定める彼の瞳のせい?


 「私の名は、バスラ・レイソードといいます。引退しましたが元聖騎士です。ここでの仕事は主にジークリオン猊下の警護ですので、紗良さまが何者であれその妨げになるような勝手な行動は慎んでいただきたい。」


 何ていうか……レイソードからはあまり歓迎されていないみたい? 

 まあ、聖女判別不能だから……それに判別できたとしても紗良が聖女なわけがないし、レイソードの反応は普通だよね。


 「つ、ふふふっ。」


 堪えきれずに漏れてしまったというような笑い声がした。

 どうやらもう一人の修道士の声だったらしい。二十代と思われる緑色の短髪の男性が面白そうにこちらを見ていた。快活そうで格好良くモテそうなタイプだ。

 ちょっとチャラそうだけど。


 「バスラは手厳しいね。可愛い女の子じゃないか。初めまして、紗良さま。」


 揶揄うようにレイソードに目をやってから紗良を見つめた。

 

 うんんん。こっちも歓迎ムードではなさそう? 何となく感じる。だって、微笑んでいるけれど目が笑っていない。ここの聖職者は皆素晴らしいとジークリオンは言っていたけれど、この調子だと心穏やかに過ごすのって無理じゃない?


 「私は、ラシェル・アルメイダです。光属性魔法が使えるのでここでは治癒担当かな。聖女さまの足元にも及ばないけどね。」


 わざわざ聖女さま出してくるんだ。いや、敢えてかな? 聖女さまじゃなくてごめんなさいって気持ちになる。魔法とか……紗良には使えなさそうだし。そういえば、聖女真理亜は光属性の魔力を沢山持っているんだっけ。

 考えてみると、好きで召喚されてこちらに来たわけではないけれど今のところ紗良は役立たずだ。タダで衣食住を与えて貰い続けているけれど、それは駄目だと思う。うん。何か自分に出来る事を考えよう。


 「「「「「はーい! はーい! はーい! 」」」」」


 明るい子どもたちの声が響いた。


 元気だなあ。


 子どもたちはニコニコと笑顔で全力で手を挙げていた。


 ちょっとだけ萎んでいた紗良の心にふわりと花が咲いた。


 ああ! 大好きだよお! 子どもたちが可愛すぎる!


 思わず紗良の顔に笑みが浮かんだ。それこそ、花が咲いたような笑みだった。

 おや……と、レイソードもアルメイダも目を見張った。

 紗良が笑みを浮かべた瞬間、暖かく優しい光が紗良から溢れ出たような気がしたのだ。一瞬だったけれど紗良に女神フィーレさまが重なって見えた。

 レイソードとアルメイダは未だかつてないほど女神フィーレさまを近くに感じた。まさかだ。しかし、二人が敬愛するジークリオンが彼の神殿に紗良を大事に連れて来たのだ。つまり、そいう事なのだと二人は理解した。


 「ねぇねぇ、リオンさまあ! もういーい? 」


 「次は私たちのばんだよねー? 」


 「お姉ちゃんに私の名前を教えたいの。」

 

 口々に言う子どもたちにジークリオンは微笑みながら頷いた。


 「良いですよ。一遍に話すと紗良さまが困ってしまいますから順番にお話ししてくださいね。」


 「「「「「はーい! 」」」」」


 ジークリオンからのお許しを貰って子どもたちは目をキラキラさせている。


 もう、本当に可愛い!

 レイソードとアルメイダから好感を持ってもらえなくても良いかな。子どもたちで十分だよね。


 「私の名前は、メグだよ。」


 真っ先に茶色の髪の毛を後ろで一つ結びにした活発そうな女の子が自己紹介を始めた。お花畑で紗良と一緒に花冠を上手に作っていた子だ。


 「僕は、リュシーです。」


 次は、短い黒髪の目が大きくて可愛い顔立ちの男の子だった。少しはにかむように話す姿にキュンとしてしまった。


 「俺は、ロエル。」


 ぶはっ! 俺……って、まだ幼稚園の年長さんくらいなのに大人びた口調で、服を着崩して……その上、襟にとどく赤い髪を後ろに流して……これは将来絶対モテモテになるやつだ。


 「あのね、私はリネなの。」


 一目でわかる。この中で最年少の女の子だ。ふわふわの茶色の髪を二つ結びにしていて少し丸みを帯びたほっぺがとても愛らしい。黒猫のアルをもみくちゃにしていたのがこの子だ。


 「紗良さま、今日は遊んでくれてありがとうございます。私はカナンです。」


 肩までの茶色い髪がお姉さんらしく見せている。それだけでなくしっかりしていそうな雰囲気を持っている。この子が子どもたちの中で一番年上だと思う。


 昼間、子どもたちと一緒に遊んだ時はもっと沢山子どもたちがいたから、ここに住んでいない子もいるのかもしれない。 


 全員の自己紹介がおわった。


 ……私の番だよね。


 ジークリオンが最初に紗良の紹介をしてくれたけれど、紗良自身からもしようと思った。


 「私の名前は、月山紗良です。どうぞ紗良と呼んでください。この世界のことはまだわからないことばかりですので色々教えてください。よろしくお願いします。」


 紗良がそう言った時……。


 「にやあ~」

 『えらい目にあった。風呂は紗良、これからはお前がいれろ。』


 ルキに抱っこされてアルが戻って来た。


 ええっ? 何を言ってるの? いれてください……だよね? アル、俺様過ぎない?


 「ああ、良かった。自己紹介にぎりぎり間に合いましたね。」


 ルキが紗良の前に来て、アルを手渡しながら言う。


 「私は、ルキ・セイントロードです。ここの雑用担当です。紗良さまよろしくお願いします。」


 ルキはにっこり笑った。

 長めの赤い髪を後ろで一つに束ねたルキは少したれ目で人懐っこそうだ。三人の修道士の中で一番感じが良く思えた。





 「ナアオオ? 」

 『俺の紹介はしないのか? 』


 ふわああ……。お風呂上がりのアルの毛はもふっもふっだあ。


 思いきり紗良はもふもふを堪能してしまう。



 紹介? いらなくない?

 ああ、でも……。


 『黒猫のアルです。職種は魔王です。仲良くしてください。』


 ……って、言ったら面白そう。

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