第22話 黒猫を飼います

思い切り遊んで子どもたちが疲れてきたのを見計らってジークリオンの元へ戻ることにした。


要求されるがままに黒猫を抱っこして。子どもたちの何人かは紗良の服を小さな手で掴んで歩いている。黒猫のせいで紗良の両手が塞がっているからだ。


神殿の側まで来たとき……。


「お姉ちゃんまた遊んでくれる? 」


先頭を歩いていた女の子が振り返って首を傾げて聞いてきた。

コテッて首を傾げた感じが可愛すぎてどうしよう。

紗良は悶えそうになる。


「うん。また遊ぼうね。」


紗良がこたえると女の子は嬉しそうに笑った。


ああ、可愛いがすぎる。


神殿に入る扉が開いてジークリオンが出てきた。


「お帰りなさい。」


ジークリオンは目を細めた。紗良の後ろに見える夕焼けの赤い空がいつもより眩しく感じた。


子どもたちと一緒に穏やかな顔で時々笑みを浮かべながら此方へ歩いてくる紗良の姿は慈愛に満ちた女神さまに見えた。


子どもたちはこの数刻の間にとても紗良さまに懐いたようだ。


「まずは皆でご飯にしましょう。」


「リオンさま、ただいまあ! 」


「リオンさまあ!すごく楽しかったんたよ。」


「お腹すいちゃったあ! 」


口々に言う子どもたちに紗良は、微笑みが止まらない。


本当に可愛い。


何だか……満ち足りた暖かい気持ちになった。


ジークリオンがドアを開けて待ってくれている。


「ただいま。ジークリオンさま。」


紗良も子どもたちを真似て言うと、ジークリオンは目を瞬せて、ふわりと優しく笑った。


うわー。ジークリオンってやっぱり天使なの?

あ……もしかしたらここは天国?


「ナーオ。」

『お前は、馬鹿か。何を惚けたことを言っている? それよりも奴に俺を飼うと言え! 」


折角、可愛い子どもたちと天使のジークリオン効果で夢のように幸せモードだったのに、それを壊すように腕の中から黒猫のアルが苛立たしげに言った。


むぅぅぅ。


はいはい、わかりました。

小動物で本来可愛いはずの猫なのに……アルは可愛くない。


「ニャ! 」

『悪かったな。』


「ジークリオンさま、子どもたちと遊んでいるときに猫を拾ったんです。私が飼ってもいいですか? 猫を神殿に入れても大丈夫でしょうか? 」


しかし、アルは本当に暇魔王なのか? だいたい魔王って神殿に入り浸るものなの? 神殿って魔王の天敵ではないの? 不思議だ。聖水とかかけられたらジューッって溶けちゃうんじゃないの? ホラー映画とかでありがちなやつ。


「ニャオオ。」

『それは、魔王ではなく悪魔というものではないのか? 』


呆れたような声に、『あっ! そうかも! 』と腑に落ちる。


ジークリオンは紗良の腕の中の黒猫に目をやった。そうして一つ頷いた。


「いいでしょう。神殿の中に離す前に一度洗いますがよろしいですね? 」


ああ、あれだ。ノミとかいるとこまるしね。素足で地面を歩いているから汚いし……。


アルが洗われているところを想像したら可笑しくて笑いそうになってしまった。


「よろしくお願いします。」


と言った紗良に、アルが透かさず文句を言う。


「ニャーゴ。」

『俺にノミなぞいるわけがない! 汚いとは無礼だぞ! 』


とはいえ、野良猫設定だから仕方がないよね。


アルは嫌そうに渋々……神殿の修道士の一人(ルキさんと紹介してもらった)に多分洗い場へ連れて行かれてしまった。


魔王なのに……。

修道士に洗われる魔王って……。


本当に変だ。


すごく可笑しい。


さっきから、紗良はお腹を抱えて思い切り笑いたいのを我慢して口許がピクピクしそうなのを堪えるのに必死だった。


ジークリオンはそんな様子の紗良を見て……。


子どもたちと遊んだのが良い気分転換になったようだ。表情がとても良いな。


と、勘違いしていたが……なにはともあれ、黒猫はふわっふわの毛並みになって戻ってくるのだ。

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