第21話 黒い猫
紗良は子どもたちに手を引かれて神殿の裏側? の辺りにあるお花畑に連れてこられた。
「ねぇ、お姉ちゃん、リオンさまと馬車できたの? 」
「紗良さまは、ジークリオンさまのお姫さま? 」
「リオンさまは王子さまみたいだよね。」
何やら口々に子どもたちが言い始める。
聞いているとリオンさまと呼んだりジークリオンさまと呼んだりで、紗良の呼び方もお姉ちゃんだったり紗良さまだったりと一貫性がなくてちょっと面白い。
好きなように呼んでいるようだ。
子どもたち可愛いすぎる!
お花畑に子どもたちと座って紗良たちは花を摘んで首飾りや冠を作り始めた。
青い花、赤い花、白い花、ピンク色の花、オレンジ色の花……色とりどりの花が咲き乱れている。
「綺麗だねぇ。」
紗良は花を摘む傍ら目を細めて花々を眺めた。
「あれえ、お姉ちゃんが花を摘んだところからにょきにょきだあ。」
「うわあ! すごい! また花が咲いたあ! 」
んえ?
「……なんで? 」
花を摘んだところから茎がシュルッと伸びた。その先がプゥゥと膨らむと、みるみる蕾ができて……えっ? えっ? と思っているうちに蕾が開いてフワッと花が咲いた。
子どもたちが、最初に気がついた子どもの声につられて集まってきた。
「わあああ! 」
「お姉ちゃんすごいねえ。」
「紗良さま、聖女さまみたい! 」
「もっとやってえ! 見たいい! 」
子どもたちは目を輝かせて口々に声をあげる。
そんなことを言われても、どうしてこんな風になるのか紗良にはわからなかった。
どうなっているの? これ?
試しにもう一度花を摘んでみる。
すると、さっきと同じようにまた花が咲いた。
えええっ? この世界の花って再生するのお?
「ナ~オ。」
『するわけないだろう! 』
へ?
「わああ! 猫ちゃんいるう! 」
子どもの一人が嬉しそうに叫んだ。
一体どこから現れたのか……。
黒猫がいて、座っている紗良の膝の上にふわりと飛び乗った。
そして尻尾を揺らしながら我が物顔で紗良の膝の上で丸くなっている。
何となく既視感があるような……。
ふてぶてしさを感じるこの我が物態度……。
それより、何か喋らなかった? この猫。
「ニャオオ? 」
『お前の持ち主を忘れるとは良い度胸だな? 』
……副音声が聞こえる。
子どもたちは猫ちゃんに手を伸ばしてもふり始めている。
うわあ……。
もしかして、この黒猫は……。
「ニャア。 」
『俺に決まっているだろう。お前は面白いから忙しいとき以外は近くにいてやることにした。喜べ! 』
……はああ?
あの蜥蜴もどきの姿はどうなったの?
せっかくドラゴンに脳内変換してあげたのに!
……って、黒猫にもなれるのなら最初から黒猫の姿で来れば良かったのに!
「ナオオン。」
『猫なぞドラゴンに比べたら雑魚ではないか。俺は魔王だぞ。お前に会いにいくのだ。ドラゴンの姿のほうが威厳があって良いではないか。』
何を言っているのか。最初から威厳もなにもなかったよね?
いよいよ興奮した子どもたちから、もみくちゃにされている黒猫を眺める。
子どもたちの手を払おうとしているのかパッサパッサと尻尾を動かしているが、逆に子どもたちを喜ばせていた。
自称魔王の癖に怒らないんだ……。
ねぇ、それじゃあどうして今回は黒猫なの?
「ニャア、ニャ。」
『お前、バカなだな。ドラゴンだと人間が怯えるだろうが? お前の傍にずっと居ようと思うならこの姿が良い。神殿に俺を連れて入れよ。』
ふーん。ちゃんと考えているんだ。
「ニャゴ! 」
『お前、不敬だぞ。それに、さっきの自称魔王とは何だ! 俺は正しく魔王アルベルト・ルーフェイだ。お前の全てを食らう者だ。しっかり覚えておけ! 』
うわ……。
私の考えていること……全部だだ漏れなの?
すごい嫌だ。
「ニャア~。」
『お前の全ては私のものなのだから構うまい。』
いやいやいや、構うっ!
私のプライバシーを返して!
「ナア。」
『諦めろ。』
黒猫は紗良をチラリと見上げて目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます