第20話 女神フィーレ聖神殿の子どもたち

「リオンさまあ! 」


「お帰りなさあい! リオンさま! 」


「わーい! リオンさま、帰って来た! 」


女神フィーレ聖神殿に到着して馬車から降りた途端、沢山の子どもたちが駆け寄ってきた。


「はい、ただいま。」


ジークリオンが笑みを浮かべながら子どもたちを迎える。


ジークリオンが天使にみえた。背中に白い羽の幻まで見えるようだ。


思わず紗良は目を擦った。


そんな紗良に気がついてジークリオンが首を傾げた。


「どうしました? 」


「え? あ、ジークリオンさまが天使に見えました。」


紗良が素直に答えるとジークリオンは目を瞬かせた。


「何をおっしゃいますか? 私などが天使などと畏れ多い。」


ジークリオンは慌てたようにそう言うと左手で顔を覆った。何となくジークリオンの耳が赤くなっているように見える。


えっと……。

まさかのジークリオンが照れているとか?

ヤバい。ギャップ萌えしそう。


こんなに綺麗で見た目落ち着いた雰囲気で聖職者の纏う厳かさを兼ね備えていてストイックな感じなのに……照れるとか意外すぎる。


紗良は「ふふふっ。」と笑ってしまった。


ジークリオンのせいで笑顔になっている紗良を見た子どもたちは、紗良のことを恐い人ではないと判断したのか、紗良の方へも押し寄せてきた。


「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃんはだあれ? 」


「ジークリオンさまのお友だち? 」


「私たちと遊んでくれる? 」


次から次へと紗良に子どもたちが声をかけてくる。


おおっと……。


子どもたちに押されるように詰め寄られたはずみで紗良は後ろに下がってしまったところをジークリオンに抱き留められた。


「ほら、ほら、危ないですよ。押さないでくださいね。」


ジークリオンは優しく子どもたちを諭す。


「このお方は、紗良さまです。今日からここに住むのですよ。仲良くしてくださいね。」


「「「「「「はーい! 」」」」」


元気な子どもたちの声が響く。


うわあ。可愛いなあ。


紗良はもともと子ども好きだ。けれど、それを抜きにしてもここにいる子どもたちは皆可愛いかった。

自然と紗良もニコニコしてしまう。


「紗良です。よろしくね。」


好奇心旺盛な子どもたちのキラキラした瞳を見ながら言った。


ジークリオンはそんな紗良を暖かい眼差して見つめていた。


ここの子どもたちは孤児だ。ジークリオンは、手が届く限りそんな子どもたちをこの神殿に連れてきて保護してきた。ここに紗良さまを連れてくるにあたって、紗良さまが子どもたちにどんな反応をするだろうかと気がかりだった。世の中には孤児を厭う者たちもいるからだ。しかし、それは杞憂だったようだ。


紗良さまは子どもたちに手を引かれて抱き留めていたジークリオンの腕の中から居なくなってしまった。


紗良さまにはこの神殿の説明や案内をしようと思っていた。やれやれ、いつジークリオンの元へ戻ってくるのか……。


1人馬車の前に残されたジークリオンは、くすぐったいような暖かい感情に驚きと共に笑みを浮かべた。


ジークリオンは滅多に笑わない男だった。子どもたちにはできる限り柔らかい物腰で接していたが、それ以外は冷淡だ。割りと何に対しても関心が薄い。それがどうだ。紗良さまが此方に来られてからジークリオンは自分でも驚くほど顔の表情筋がよく働く。


もしかすると、これも聖女さまの力なのかもしれない……とジークリオンは朧気に思った。

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