第18話 門出

紗良は、今日、早起きをした。

ジークリオンの居住している神殿へ移動するのだ。


昨晩は、紗良が冗談で言ったストーカー発言から急にアルは紗良の傍で居心地悪そうにしだした。


『いいか、お前は生物なまものなのだから害虫に集られないように気をつけるのだぞ。』


などと訳のわからないことを言って、あっという間に居なくなったのだ。


アル……大丈夫なのかな? 何ていうかアルの頭の中が心配。


なんやかや、紗良はアルに絆されていた。この世界に来た初めての夜にアルが現れて、屈託のない態度で話すのだ。しかも小気味良いやり取り。気の合う友達のような気さえしてきている。


あれで魔王なんだけどね……。


紗良を食べ物扱いして毎回紗良は少しずつ食べられているけれど、今のところ大して害はない。血を少し吸われるだけだから。二回目からは痛くも無かったし……むしろ気持ち良かったし。


紗良は、顔が熱く火照った。


ちょっとあの魔王……アルは、ハレンチだと思う。




ガチャリと解錠の音がして部屋の扉が開いた。


「おはようございます。紗良さま。」


ジークリオンが部屋へ入ってきた。


「おはようございます。」


今日のジークリオンも麗しく、微笑みが慈愛に満ちている。さすが聖職者だ。

日を追う毎に、不思議と美しい男の顔も見慣れてくる。やっぱり二次元の方が萌えるのかなあ? 紗良はゲームのスチルを思いだしながら見比べる。一緒なんだけどな。だけどこっちの方が人間臭い。


「今日の午前中にこちらを発ちます。それまでに支度をしておいてください。」


紗良は、ジークリオンに頷いた。


すごく楽しみだ。

なにせ初めてここから外に出るのだ。

紗良はとてもわくわくしていた。元から好奇心も旺盛なほうだ。新しいことも好きだ。

自然と笑みが溢れていた。


それは、とても輝いて見えた。

こちらへ来てからどちらかというと紗良の表情はいつも固かった。

それがどうだ。嬉しそうに口角が僅かに上がって微笑んでいる。

ジークリオンは思わず見とれてしまった。


紗良の肩に落ちているサラサラの黒い髪、二重のぱっちりとした目、リスのような可愛い顔立ちが微笑むと正に聖女のように可憐で清楚な美しさになる。


やはり、このお方も聖女さまなのだ。


ジークリオンは想いを強くした。




紗良は、朝食を取って着替えるとやることが無くなってしまった。

支度といってもこの程度だ。そもそも、紗良はこの世界に着てきた服以外何も持っていないのだから。その服さへ用意された修道服へ着替えた後はどこかへ持っていかれてしまった。


紗良は、ベッドの端に座って出発までの時間を待つことにした。


だって、やることが何にもないんだもん。


格子越しに窓の外を見ると雲一つない青い空が広がっていた。


ジークリオンの居住する神殿が良いところだといいなあ。


紗良は切に願った。




数刻後……。


ジークリオンが紗良を迎えに来た。

いよいよここを出るのだ。




本当に良いところだといいなあ……。

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