第17話 蜥蜴もどきからドラコンへ脳内変換完了

「おい、ちゃんと聞いているのか? 」


腹立たしそうにアルは紗良の頭に手を置き髪の毛をくしゃくしゃにした。

アルの手の鱗と爪が髪を巻き込んで地味に痛いんだけど?


「もう一度、問う。紗良、お前はフェルリアン・ノルディ第一王子に惚れているのか? 」


どういう経緯でその質問? 全然わからない。だけど……惚れてる? それ以上だよ!


にへらっと紗良の顔が崩れる。それはもうみっともないくらいに。


「惚れてるという言葉では言い表せられないくらい好きだよ。好き。大好き。愛してる! フェルリアンさまは至高の存在っ! 誰よりも美しい黄金の髪と魅了されてしまう深い海色の瞳なんだよ。……皆好きになるよね! 優しげなのにたまに見せちゃう冷たい眼差しなんてゾグゾクするほど好き。昼間はフェルリアンさまが尊すぎて死ぬかと思ったよ?」


「………………。」


一気に言った紗良にアルは白い目を向けた。


「俺のほうが良い男だろうが。」


アルはムスッとした顔をする。


すごく不機嫌そうだけれどドラコンの姿なので可愛く見える。すっかり、紗良の脳内変換は成功していて蜥蜴からドラコンに識別されているらしい。


「だって、フェルリアンさまは私の最推しだよ! 」


「はぁ……。」


アルはため息をついた。これ見よがしに。


「あいつではなく俺を推せ! 」


ん? 会話がスムーズすぎない?


「何で? アル、推しの意味がわかるの? 」


「俺を舐めるな。俺は魔王だぞ! お前の世界に干渉できるのだ。そのくらいの知識持ち合わせている。」


ふえー。それはすごい。


紗良は心底感心した。


魔王って世界を破壊できる程の力を持っていて知識も膨大とかマジ無敵なんじゃないの?


紗良はそのことにとても驚いたのだけれど、それよりもこの『月光の贄姫』の魔王設定がどうなっているのかに興味がわいた。


この物語? 本当に一体どうなっているのかな?


思えば、アルなんて未知だよね? ゲームとはまるで別人格。


まじまじとアルをみていた紗良だったが……突然、アルの爆弾発言!


「フェルリアン・ノルディはもう1人の聖女の方が良いのだろう? お前の玉は俺が砕いたからな。」


はっ? 今、何て言った?

聞き捨てならないことを言った!


「どういうこと? 私の玉が砕けちゃったのはあなたのせいだったの! 」


紗良は、ガバッと跳ね起きるとアルの爬虫類のような鱗の感触などものともせず、アルの首根っこを両手でつかんでブンブン振った。


「つ、おい! 乱暴するな! 」


アルは苦しげに文句を言うが、紗良からされるがままになっている。


「何で? そんなことをしたの? 」


「お前が聖女と確定されれば王家と神殿がお前を囲うだろうが。お前は俺の餌だ! 」


紗良に振り回されながらアルがこたえた。


「餌じゃない! 」


紗良は、反論した。

アルは、紗良の手を力業で振りほどいて逃れると、ドンッ!と紗良めがけてぶつかってきた。


「わあう! 」


紗良は仰向けに倒れた。

アルは、紗良の胸の辺りで浮遊すると紗良を睥睨した。


「いっそ、お前を頭から食ってやってもいいんだぞ。」


ありゃ、アルが怒っている?


アルの視線が冷たい。心なしか部屋の温度が急下降しているような?


「ごめんなさい? 」


アルから発せられる冷気に思わず紗良は謝ってしまった。


でもさ、悪いのはアルだよね?

玉砕くとか……。あれ? あれれ? アルは何処からかあのやり取りを見ていたってこと? 自ら砕けるような場所で? というより、見張られていた?


「アル! あなた私のストーカーなの? 」


「………………。」


……ん? あれ? 少し大袈裟に面白く言ってみただけなのに、アルよ何故口ごもる?


「俺は、餌の管理はきっちりやる方なんだ。」


はぁ? 意味がわからない回答返ってきた。


「食い物は大事にしろと、お前の世界で言っているだろう? 」


……なんて常識的な魔王発言(注、食べ物が紗良でなければ)。


ジークリオンたちはこんなのを恐れて聖女を召喚したの? 見た限り世界を滅ぼしそうには見えない。


いつか魔王アルベルト・ルーフェイが紗良を食べると言ったことは覚えている。



でも、今はまだ……紗良には恐怖も危機感も無かった。

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