第15話 紗良は魔王の餌

「ほら、良く見ろ。美しい俺の姿を見て畏れ崇めろ。」


魔王アルベルト・ルーフェイは美しいよ? 変態だと知ったけど。確かにフェルリアン様に並ぶくらい綺麗だと思う。でもね、もう今は、アレのインパクトが強すぎて猥褻物にしか見えないんだけど……。


「蜥蜴もどきの姿でいいよ。」


まだ、あっちの姿の方がましだと思う。

目蓋に焼き付いてしまった魔王アルベルト・ルーフェイの白いのに逞しい裸体がちらつくんだもの。


「何だ、恥ずかしがっているのか? 」


ひゃう!


魔王アルベルト・ルーフェイ姿のアルはそう言うと、いきなり紗良を抱き上げた。


何? 何? 何?


驚きのあまり目が溢れそうなほど大きく見開いた紗良にアルは艶やかに笑った。


ちょっと、やめて!


色気がヤバい! 無駄に色気を振り撒かないで!

紗良は、 ため息がでるくらい美しいアルの顔に見とれてしまう。


もううう。蜥蜴もどきだったくせに!

一体何なの!


紗良は、アルの腕の中から逃げ出したくて足をバタバタさせているのに逃げられない。むしろもっときつく抱きしめられてしまった。


これって、どういう状況なの?


そのままアルは私の首筋に顔を埋めた。


ふえええ。


ペロリと舐められる。


ひゃあ!


「お前は俺の餌だからな。今日も食わせろ。」


「なっ! 」


その腰に響く低い美声やめて!

何なの! この魔王!

蜥蜴もどきのほうがよっぽどマシ!

凶悪エロ声だすな!

それに、それに、紗良は食べ物ではないと何度言えばわかるの!


両拳でアルを叩く。


「私は餌じゃない! 」


「俺は、お前が食いたくてたまらない。お前からは良い匂いがする。」


嘘だ!

良い匂いなんてしないよ!


アルは紗良をベッドに横たえると紗良の上に覆い被さるようにして顔を近付けた。

長い黒髪がカーテンのように光を遮る。

アルの深紅の瞳が愉悦に蕩けた。

紗良は、捕食者の生餌になったように感じてゾクリと身体が震える。


「アル、やめて。」


アルは妖艶に微笑むと紗良の首筋にかかっていた髪の毛を指でそっと払った。


「嫌だ。」


アルの唇が紗良の首筋に落ちる。


「つ、あっ……あああっ。」


初めてのときと違ってチクリとした痛みもない。

唇が触れているところから甘い痺れるような感覚が広がっていく。


「んあっ……。」


何でぇ……気持ちいいよぉ。

首筋を強く吸い上げられて身体がビクンと震えた。


「紗良、お前は俺のものだ。その血も肉も魂も全て。」


血を吸われて気持ちが良いなんて……。紗良は自分がおかしいんじゃないかと思った。それに、どうして……嫌じゃないのだろう。アルに抵抗すらしなかった。本当に変だ。


「ぅ、んんやだ……。」


首筋から離れた唇が紗良の目尻から流れた涙を吸った。


「お前は涙も旨いな。血が足りないときは泣かせるか。」


不穏なことをアルが呟いた。

鬼畜だ。

酷いと紗良がアルを睨むと、嬉しそうにアルは目を細める。


「やはり、お前は面白い。」


捕食は終わったらしく、アルは紗良の隣で横向きに寝そべった。

紗良をじっと興味津々で見つめているものだから、何だか標本にでもなった気分だ。


「聞きたいことがある。お前アイツに惚れているのか? 」


ふああ? 何? 何のこと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る