第14話 魔王は暇なのか

その日の夜、


「待たせたな。来てやったぞ。」


はい?



日中にジークリオンと話し合った結果、紗良は明日ジークリオンが住んでいるという神殿に行くことになった。ここに居ても相変わらず扉は施錠してあるし、監禁とかもう勘弁して欲しいから早々にここを去るのだ。


そんなこんなで寝る支度をしていたらアレが居た。


真っ黒い羽の生えた蜥蜴もどき。


「魔王って暇なの? 」


紗良はジト目でアルを見た。


アルは、紗良のベッドの上に仁王立ちで腕を組んでふんぞり返っている。


本当に態度がでかいよね。


「待っていないし、別に来なくていいんだけど? 」


「お前、可愛いな。照れているのか? 」


何とも見当違いな言葉が反ってくる。


「照れてない。何で来るの? 」


毎晩くるとかやめて欲しい。ただでさえ、紗良の大嫌いな蜥蜴の姿なのに。


不意に、アルはベッドからフワリと飛び上がった。


えっ?


アルの身体が深い闇に包まれて暗い紫色の光が弾けた。


その光のなかで蜥蜴の形が膨れ上がり腕が伸び足が伸び首が顔が真っ黒い髪が伸びて……人の姿に変わる。さながらサナギの孵化のように。


紗良はヒューっと息をのんだ。


そして、目の前に……床に着きそうな程長い黒髪と血よりも鮮やかな深紅の瞳の白く美しい彫りの深い顔。そして、細身でありながら逞しい裸体が降り立った。


ちょっと待って!


「何で裸なのおおおおお! 」


紗良は、目を剥いて叫んだ。

衝撃が強すぎる!


間違いなく魔王アルベルト・ルーフェイの姿の元黒い羽の生えた蜥蜴もどきアルは、慌てたように手で紗良の口を塞いだ。


「急に大声出すのは止めてくれ。 」


「モガ、モゴモゴモガガモゴ!(そっちこそ何で裸なのよ! ) 」


「ドラゴンの時も服は着ていなかっただろう? 」


「変態! 」


紗良は両手で自分の目を覆って悪態をつく。


「そもそも、産まれた時には皆裸だろう? 取り立てて騒ぐことでもないと思うが。」


「そんなの屁理屈! 何でもいいから服を着て! 」


「……面倒なやつだな。」


アルはため息をついた。手で見えないから分からないけれど……きっと顔をしかめているんじゃないかな。


でもさ。裸だったんだよ! 履いてなかったの! 見えちゃったの! 立派なアレが。初めて見たのが魔王のってどうなの! 変態! 変態! 変態! 紗良は気が動転して、本来羞恥を覚えるところが怒り心頭。魔王って美形のくせにデリカシー無さすぎ!


「ほら、これで良いだろう? 」


アルの声で紗良は、恐る恐る手を目からはずした。

すると、そこには……。

見るからに魔王の衣裳に身を包んだファンブックのイラスト通りの魔王アルベルト・ルーフェイが居た。

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