第13話 砕けた玉と紗良
「前代未聞ですが……紗良さまの玉は砕けてしまい、聖女であることを証明することが困難になってしまいました。」
「やはり、あの玉は聖女かそうでないかを判別する為の唯一の物だったのですね? 」
『玉で判るんだあ! すごいなあ! 』と、あの時紗良は思ったのだけど、聖女の能力を調べると言っておきながらそれだけだったものね。
「はい。あの玉はとても神聖かつ貴重なもので、この世に二つしか存在しない神器なのす。一つ砕けてしまいましたので唯一になってしまいましたが。先ほどご覧になったように、聖女さまが玉に触れると聖女さまの真名と『聖女』の文字が刻まれます。そして聖女真理亜さまのように持つ魔力によって玉が光るのです。光の色と強さで魔力の属性と量がわかる仕組みになっています。」
何の捻りもない単純な性能の上に……。
神器のくせに、紗良の触れた玉は砕けちゃうってどうなの?
……まさかの不良品?
はっ!
聖職者が聞いたら怒りだしそうだ。
紗良はうっかり口にださないように自重しようと思った。
聖職者たちに目をつけられて、これ以上待遇が悪くなると困るからね。
それより、気になったことをジークリオンに聞いてみる。
「玉を使いきってしまって良かったのですか? 次の聖女が召喚された時に困るのでは? 」
「ああ。それは大丈夫です。玉は触れる度に上書きされますので再利用できるのです。」
うん。そこは、すごいかも。エコだ。
「とはいえ、その代の聖女さまが役目を終えるまで玉の情報は固定されますので、紗良さまの為の玉はもう無いことになります。」
それは、仕方ないよね。
それに、紗良は多分聖女では無いのだし。
むしろ、白黒つかない方が良かったのかもしれない。
取り敢えず、紗良の進退が決まるまではここに居させてもらおう。
うーん。でも、もといた世界に帰れるのが一番なんだけど。
「ジークリオンさま、もう真理亜さんが聖女と決まったのでしょう? 私は不要だと思うのですが、元いた世界へ帰してくださいませんか? 」
すると、ジークリオンは申しわけ無さそうに目を伏せた。
あ、もしかして帰れないやつ?
「申し上げにくいのですが、聖女さまをこちらへ召喚することはできても帰すことはできないのです。これまでの聖女さまは、皆さま王族とご結婚なされて生涯この国でお過ごしになられたそうです。」
あー。皆さん王子さまルートでハピエンだったわけですか。
紗良は途方に暮れそうになった。
聖女でない紗良はどうしよう。
「紗良さまは、召喚の魔方陣の中に現れましたし、玉は砕けてしまいましたが聖女で間違いないと私は考えています。ですが古の定めにより玉の証明が無ければ聖女を名乗ることができないのです。」
「私は、自分が聖女だとは到底思えないのですけれど、元いた世界に帰れないとなると……私はこちらではどういう扱いになりますか? 」
本当に困る。
この先どうしろというの?
「こちらでは不快な思いをされたと言っていらしたでしょう? 私の住まう神殿でお過ごしになりながらゆっくり考えませんか? 」
思いがけない提案に紗良は驚いた。
「普段は王都の大聖堂に居ることが多いのですが、週3くらいは戻りますし。そちらの聖職者は皆素晴らしい方々ですから紗良さまも心穏やかにこれからのことを考えられますよ。」
それも良いかもしれない。ここはちょっと監禁みたいな扱いだったから印象悪いし、どういうわけかここの人たちから歓迎されていない気がするのよ。
「わかりました。そうさせてください。」
紗良は、ジークリオンの提案に乗ることにした。
ジークリオンはそっと胸を撫で下ろしていた。
紗良さまが提案に乗ってくれてよかった。
玉が砕けようが、紗良さまは聖女だ。
これからのことを考えようとは言ったが、紗良さまを手放すつもりはなかった。
聖女である以上この国の救世主となるお方。聖女真理亜さまは王家が庇護するだろう。ならば紗良さまは自分が守るべきお方だと、天啓のようにジークリオンは感じていた。
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