第12話 聖女と判別不能の紗良
「では、聖女真理亜さまは自室におもどりください。今後の聖女さまとしてのお勤めは後程ご説明します。」
ジークリオンが言うと、
「では、聖女真理亜さま、私が貴女のお部屋までお送りしましょう。」
フェルリアンさまが輝くような笑みを浮かべて申し出た。
真理亜はポッと頬を赤く染めて潤んだ瞳でフェルリアンさまを見つめている。
あんなに近くでフェルリアンさまから微笑まれたら破壊力半端ないよね。うんうん。
紗良が真理亜に共感して心の中で頷いていると、不意に真理亜から視線を外したフェルリアンさまと目が合う。
え。
ドキッとした。一瞬心臓が止まるかと思った。
何を考えているのかわからないフェルリアンさまの感情のない青い瞳に捕えられる。
口元は微笑んでいるのに瞳は冷めているとか……堪らないほど好きだ。
ゾグゾクする。
ゲームの中のフェルリアンさまよりも強く感じられるこの得たいの知れなさが良い。フェルリアンさまはいずれ王になる。紗良みたいな下々の者には計り知れない心のあり様……何て尊い。
「紗良さまにはもう少しお話があります。」
ジークリオンの声にフェルリアンさまに捕えられた視線を引き剥がすようにして外した。
「はい。」
紗良が返事をしたところで、真理亜はフェルリアンさまにエスコートされて自室へ戻って行った。
エスコートする姿もフェルリアンさまは優雅で美しい。紗良はうっとりとしてしまった。
ついつい目で追ってしまう。
「紗良さまは殿下がお好きなのですね。」
ふあっ?
なんて? えっ? は? ふええええ?
ジークリオンは何てことを言うのか。
「……な、なぜ? 」
かなり紗良は動揺してしまった。
そりゃあもう大好きですとも! 何もかも愛しています! 最推しです!
錯乱しそうだ。
「お顔がわかりやすく蕩けていらっしゃいましたので。」
う、嘘おおおおお! 何それ! 恥ずかしいい!
紗良は自分の顔に手を当ててあちこち触って確かめる。
「紗良さまは、面白い方ですね。」
えっ?
紗良は、ジークリオンが悪戯が成功したような顔をしているのに気がついた。
「ジークリオンさま、私を揶揄いましたね? 」
ジト目でジークリオンを見ると彼は目を細めた。
「安心してください。殿下をお好きでない方なぞおりませんよ。」
つまり、皆、殿下が大好きと。さすが紗良の最推しだ。
それにしても、ジークリオンって品行方正で真面目な堅物だと思っていたけれど、こういうお茶目なところもあるんだね。意外な一面だ。
それに、紗良は何となく気がついていた。
これからジークリオンが紗良に話す内容が少し重いのかもしれないと。それを少しでも軽くする為にジークリオンは敢えて軽口を叩いているのではないかということを。
そして紗良は、もう一つ気づいている。
真理亜と紗良の呼び方だ。
真理亜は聖女真理亜さまになった。片や紗良は変わらず紗良さまだ。
「それで、ジークリオンさまのお話とは何ですか? 」
紗良から話を促した。
ジークリオンは僅かに驚いた表情をしたがそれはすぐに消える。
「紗良さまの今後についてです。」
ですよね。
玉……砕けちゃいましたもんね。
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