第11話 それぞれの聖女の能力

紗良がフェルリアンさまに気を取られている間に、ジークリオンが真理亜と紗良の前にそれぞれ玉を置いた。


「その玉に手を触れてください。」


ジークリオンはそう言うと胸元から翼のある女神さまを模した造形のペンダントを取り出した。

それに口付けを落とすと自分の額にあて祈るように目を閉じた。


うーん。ジークリオンは何をやっても絵になるなあ。


紗良は、関心しながら玉に目を移す。


これに手を触れるのか。少し恐い。だって紗良は聖女ではないはずだから。


紗良が恐る恐るそっと玉に手を触れようとしたその時、紗良の前方からパーッ!と金色の光の波が押し寄せてきた。


眩しい! 一体何っ?


光が収まってきて、瞬きをしながら目を凝らすと、真理亜が触れた玉からの光だったようで、まだ玉に光が留まっていた。


真理亜は、さも当然だという風にすましている。


「これは、すごいな。」


真理亜の横でフェルリアンさまが感嘆の声をもらした。


うわあ、さっき触れ損ねたせいで、この後に玉に触れるの? ものすごく嫌だなあ。


しかも、玉に触れていないのが紗良だけになってしまったために皆が注目してくる。


本当に嫌だ。できることなら触れたくない。


けれど、触れないわけにはいかなそうな周りの圧に……紗良は、渋々玉に手を伸ばした。


ほんの気持ちだけ指先が玉に触れた。


あっ……。


やはり、真理亜の時のような派手なエフェクトもなく、何も起こらない。


「「「「………………。」」」」


皆が沈黙して玉を見ていると、


ピシッ! ピシ……ピシピシピシピシピシ……パリン!


音を立ててみるみる玉にヒビが入っていき砕けてしまった。


はあ? 何でぇ!


「驚きました。これは、想定外です。」


ジークリオンにはなかなか見られないポカンとした顔で呟いた。


「ジークリオン、これはどういうことなの? 」


フェルリアンさまが微笑んだ。でも、目が笑っていない。


まぁ、そのお顔も尊いのだけれど。紗良は、フェルリアンさまの背筋が凍りつきそうになる冷たい青い瞳も好きだ。


フェルリアンさまの素敵なところは、王子さま然としたキラキラオーラで優雅な物腰と優しげな柔らかい雰囲気を持ちながら、それとは全く相反する冷酷で苛烈な性格を持ち国益を損なう者は無慈悲に切り捨てる生まれながらの王……為政者なところなのだ。


紗良はそういうフェルリアンの持つギャップに心臓を撃ち抜かれた『月光の贄姫』のプレイヤーの一人だった。


「誠に申しわけありません。」


ジークリオンは頭を深く下げた。


「説明してね。」


フェルリアンさまの言葉に顔を上げると、ジークリオンは真理亜の玉を手に取った。


「まず、真理亜さまは、間違いなく聖女です。先ほどの光は光属性の魔力を多く持っていらっしゃることを示しています。そして玉にも真理亜さまの真名と聖女の文字が刻まれました。」


ふええ。わざわざ玉に聖女って刻まれるの? それって確実に聖女だって判るやつだ。

でも、そうすると紗良の玉のように砕けてしまったらどうなるの?


「次に、紗良さまなのですが、聖女であるかどうかの判別がつきません。どのような力をお持ちなのかも判りません。もしかすると、これは女神フィーレさまのご意志かもしれませんね。そもそも、これまでこのようなことが起こったという記録はないのです。当面の間、こちらで紗良さまの様子をみて判断したいと思います。」


つまり紗良は観察対象となった。

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