第10話 聖女に求めること

「では、真理亜さまと紗良さまをこちらへ召喚したことの説明をいたします。」


ジークリオンが真理亜と紗良を見た。


「この国……フィレーネ王国の北の国境線を隔てて魔国デストーリアがあります。そこに魔王が封印されていました。ところが、近年、魔王が復活してしまいこの国は……いえ、世界が危機に瀕しているのです。歴史的に魔王は2~300年間隔で復活しているようなのですが、過去の文献によりますと、その都度異世界より聖女を召喚し、魔王を封印してきたのです。」


『月光の贄姫』のストーリーでも魔王は復活していたしなあ。

おまけに、紗良は昨夜、件の魔王に会っているのだ。蜥蜴もどきにしか見えなかったけど……。

ん? あれ?

……そう言えば、アルが紗良をこっちに引っ張ったせいで魔力の大半を持ってかれたとか言っていなかったっけ?

ということは紗良は召喚されて来たのではないってことにならない? 召喚されていないということは、聖女ではないんじゃないかな?

でも、ここでアルの話をすると、魔王の仲間だとか言われて大変なことになりそうな気がする。とりあえず、今は黙っておこう。


「それで、私が聖女として召喚されたのですね。」


真理亜が訳知顔で頷いた。


「わかりました。聖女である私が魔王を封印してみせます。」


堂に入った真理亜の聖女っぷりに紗良は感心した。

明らかに真理亜は『月光の贄姫』のプレイヤーだろうけど、紗良みたいにこの異世界に来て戸惑ってそうな様子もない。すごい適応力だ。それに、真理亜は自分こそが聖女であると強調していた。まあ、それは正しいんだろうけど。


「よろしくお願いいたします。 真理亜さま紗良さま。」


ジークリオンは真理亜の意図に気がついているだろうに、敢えて連名でお願いしてきた。


そう。『月光の贄姫』のジークリオンもこんな感じだった。一筋縄ではいかない感じ。

好感度が上がりにくいのだと友人が言っていたのを思い出した。最も紗良はフェルリアンさま一筋だったから関係なかったのだけれど。


ジークリオンの言葉を聞いて真理亜は不満気な顔をしたが特に言及しなかった。その代わりに何故か紗良は睨まれてしまった。

真理亜から嫌われているのかな? 聖女が二人ということは……ヒロインが二人ということになるから、真理亜がもしもこの世界を『月光の贄姫』の世界でゲームと同じだと考えていて、攻略対象者を攻略するつもりなのなら……紗良は邪魔なのかもしれない。ヒロインは一人で良いものね。


「それでなのですが、真理亜さまと紗良さまの聖女の能力を調べたいと思います。」


ジークリオンはそう言うと、懐から布でできた袋を取り出した。

そして、その中から水晶玉のようなものを二つ取り出した。

それは信じられないくらい透き通っていてとても綺麗だった。


「これは、女神フィーレさまの玉です。お二人にはこれに触れていただきます。」


触れるだけでわかるの? 紗良は吃驚した。


水晶玉といえば占い師……占い師といえば詐欺師のイメージなんだけどな。


恐らく本当にこれで聖女の能力がわかるのなら、紗良は聖女ではないことが判明して解放される?……ぅんんん。解放されたらどうなるの? もといた世界に返してもらえる?


そんなことを考えていたら、不覚にもフェルリアンさまと目が合ってしまった。


トクン……紗良の心臓が跳ねた。


フェルリアンさまの麗しい青い瞳が紗良を見つめている。


……好き。胸が締め付けられる。


知らず知らず紗良の黒い瞳が蕩けた。


推しが好きすぎて辛い。


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