第7話 二人の聖女 ①
アルが消えた後、いつの間にか紗良は眠ってしまっていたみたいだ。
格子のはまった窓から室内に差し込む光で目を覚ますと、紗良はシーツも被らずベッドの上で横になっていた。
やっぱり……夢じゃないんだ。
夢の中で目を覚まして再び眠り……また目を覚ますというのは、流石に夢だというには無理がある。
紗良は腕で窓から溢れる光を遮りながら昨日のことを思い返した。
あれは何だったんだろう?
それこそ夢みたいだった。
突然現れた羽の生えた蜥蜴もどき……真の姿は魔王だというアルベルト・ルーフェイ。普通なら、あんなものが目の前にいたら悲鳴を上げるところなのに不思議と紗良は受け入れていた。多分……ここが非現実的な環境だからだと思う。夢と現実の狭間に自分が存在しているような感じがしている。
アルは、紗良の首もとに刻印をつけて、血を食べたか飲んだらしい。
噛まれたような痛みがあったし、お前の血を貰ったって……そういうことよね? ……ああ、それよりもあのゾクゾクして身体が変になりそうな感覚は何だったの? 思いだしただけで、身体が熱くなる感じがする。抵抗しようにも、身体が動けなくなってどうしようもできなかった。いつか紗良を食う宣言までされてしまったけど、魔王って……人間を食べるの? 乙女ゲームの裏設定にしてもグロいんだけど? 『月光の贄姫』……の『贄』の部分のまさかのタイトル回収?
そこまで考えた時だった。
ガチャ……扉を解錠する音がした。
ハッ!として紗良は上半身を起こすと扉に目を向けた。
すると、 扉が開いて、ジークリオンが姿を現した。
「おはようございます。紗良さま。昨日は、もう一度こちらへ伺い説明をさせていただくつもりだったのですが、申しわけありません。急を要することがありましてそちらを優先させてしまいました。」
ジークリオンは恭しく頭を下げた。
今……初めて紗良と名前を呼ばれた?
ていうか、ジークリオンから名前呼びされてしまった! うわ! ちょっともう一回呼んで欲しいかも?
「紗良さま、すこしお時間をいただいて、こちらのことをお話したいと思います。
紗良さまは、朝食とお着替えがまだなようですのでそちらをすませてからいたしましょう。」
直ぐにもう一度紗良と呼ばれて、ちょっとだけ拍子抜けする。
昨日、名前を聞かれて、こたえてからの名前呼びだから今後はずっと呼ばれるのよね?
当然といえば当然なんだけど、あまりに現実的すぎて、何て言うか、興ざめ?
『月光の贄姫』の世界だけど、これはゲームではなく現実なんだなあと改めて紗良は思った。
「貴女をお手伝いする者を呼んでまいります。」
ジークリオンはその美しい顔に微笑を浮かべると優雅な所作で身を翻し部屋から退室した。
そして……
ジークリオンが部屋の扉を閉める時にガチャリと鍵をかける音がした。
嫌だな。どうして施錠するのだろう?
紗良は罪人ではないし、こちらの世界の人間ではないかもしれないけど危険人物でもない。ジークリオンは紗良に召喚された聖女と言っていた。実際は紗良は自分が聖女だとはほんの少しも思ってはいないが……ジークリオンたちが紗良を聖女だと思っていたとして、この扱いは変ではないのか。
これじゃあ……本当の監禁じゃないの!
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