第8話 二人の聖女 ②

修道服を着た女性が食事と服を持ってきてくれた。

挨拶もなく、終始ニコリともせずに用事がすむとさっさと退室していった。


やっぱり、犯罪者のような扱いにみえる。


帰りたいな。お家に。


紗良は珍しくへこたれそうになった。


ゲームの世界らしい以外はここは紗良にとって未知の世界だ。急にここに召喚されて?

この扱い……。


ジークリオンの顔も何だかんだで堪能したし……。


紗良は、ジークリオンが再び部屋へ入ってきた瞬間に言った。

彼の目を真摯に見つめて。


「そろそろ、元いた世界に帰してください。」


「は? 」


ジークリオンはゲームのスチルでも見たことがない間の抜けたような顔をした。

美形の間の抜けた顔……めちゃくちゃレアだ。


「この世界でのこの囚人のような扱い。私はここで歓迎されていないのではないですか? されたいとも思いませんが、それなら尚更いい加減……私は帰りたいです。」


「決してそのような扱いなどしておりませんが。」


ジークリオンの言葉に紗良はムッとする。


「部屋に鍵をかけて閉じ込めているじゃないですか! それに、先ほど来られた方も無愛想で好意的ではありませんでしたよ。歓迎されていないのまるわかりです。」


ジークリオンは眉をひそめた。


「何か伝達に手違いがあったようです。謝罪します。鍵は紗良さまをお守りするためでした。どうかお怒りをお鎮めください。」


ジークリオンの申しわけなさそうな顔を見ても紗良の心は重いままだ。


鍵をかけるのが紗良を守るためだというのなら、かけることを伝えるべきだよ。

それに手違いがあったというのならそれを説明するべきだと思うよ。


『月光の贄姫』のジークリオンなら、このくらいの気遣いなんて当然な感じなのにな。


紗良は、ゲームと現実の差異を感じてしまった。


なんだか、がっかりだ。


「申しわけありません。まだお怒りでしょうが、私と一緒に来てくださいませんか? 」


「一緒にいかない選択肢はありますか? 」


何かイライラして紗良は意地悪を言ってしまった。


ジークリオンは驚いたように目を瞬かせて、困ったように首を振った。


「ありません。ついてきてください。」


やっぱり強制なのね。

ついていったら……何かしら説明してくれるのかな?


紗良はため息をついた。


ジークリオンはそんな紗良を目の端で見て少し動揺していた。


昨日の紗良さまの様子とだいぶ違う。すっかり気分を害されたようだ。

これは今後に差し障りが出るかもしれない。


ジークリオンは紗良の様子を伺いながら長い廊下を通り大きな扉の前に着いた。


「こちらです。紗良さま。」


ジークリオンが扉を開いた。

紗良は、ジークリオンに促され、部屋に足を踏み入れた。

そこは、紗良が先ほどまでいた部屋とは雲泥の差の広くて豪華な部屋だった。中央に大きなテーブルがありそこに……


嘘でしょう!


金色の髪に深い海色の瞳。繊細なつくりの麗しい顔立ち……。


フェルリアン・ノルディ第一王子さま!


間違えようもない紗良の推しがいた。


そして……もう一人


ハーフアップの黒髪と黒い瞳の女の子がいたのだ。


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