第11話 愛の所在②
「カイト……?」
アキラくんの弱々しい声で、ボクは現実に引き戻される。衝動で押し倒したアキラくんの笑顔が不安で
……ボクは、何をしているんだっけ。
謎めいた既視感に頭がガンガンする。
確実に違うのに、似たような場面に遭遇しているかのようで気味が悪い。
朦朧とした意識を彼方から手繰り寄せ、抵抗もせず緊張した面持ちでボクを下から見つめるアキラくんを目の当たりにする。
ああ、そうだ。
ボクはアキラくんを引っ張り、カーペットの上に押し倒したんだった。
「ごめんね……」
わずかに残る理性から口が動く。
不安そうなアキラくんに興奮し息遣いが荒くなる自分に気がついても、背徳感は高まるばかりでどんどん膨らんでいく。
「大丈夫……気持ちよくするから……」
魔が差す。
体が望むままに身を任せ、ボクはアキラくんの首に短く吸い付いた。
アキラくんは触れた途端身をよじり、動揺を見せる。
「んあっ、ま、待って、なんで? ダメだろこんなの……俺はナナミと付き合ってんのに、カイトだってオンパサンと……」
「オンパちゃんとは付き合ってないよ。ただのセフレ」
「え……あ……セッ……?」
「昨日で終わったけど。だから大丈夫」
「何も大丈夫じゃねぇ! カイト、酔っ払ってんだろ? そうだよな?」
体優先で頭も上手く回らないから、なんでも口走ってしまう。アキラくんの泣きそうな声が、ボクの激情をさらに掻き立てた。
ナナミのことだって裏切ることになるのに、昂りが収まることはなかった。
だって体が、本能が、アキラくんと繋がることを望んでいる。抗えるはずがなかった。
これがボクの中で眠っていた、憧憬の本質なのだから。
男とか女とか、性別は関係ない。
アキラくんが、特別なんだ。
「……今だけでいいから、ボクを見て。アキラくん」
思考が追いつかず動けないアキラくんをいいことに、ボクは彼の左右の手首をそれぞれ片方ずつ押さえ、姑息に逃げ場を殺す。
「可愛いよ、大好き」
それでもボクを突き放せない健気な姿に、考えるより先に口走っていた。
長年体を侵食していた体の毒を分け与えるように、ボクはアキラくんに口づけを落とした。
――とはいっても、落としたのは1秒にも満たない軽めのキス。
様子見のため、ボクはすぐ繋がりを離してアキラくんの表情を窺う。
アキラくんは目を見開き、文字通り言葉を失っていた。恐らく何が起こっているのかまだ状況が呑み込めていない。ボクという友達に手を出されている現実を、信じられないような顔。
人の良いアキラくんのことだ。知らない人だと恩義もないし簡単に拒絶できるんだろうけど、逆に昔からよく知っているボクだからこそ、容易に振り払えないんだろうな……。
……なら丁度良い。
その善意、とことん利用させてもらおう。
どうせ引き返せないところまで来てしまったんだ。相手が混乱して身動きがとれない間に、やりたいことをやってしまえ。
アキラくんが抵抗できないとわかったボクは片手を離す。その手でアキラくんの顔の輪郭に手を添え、耳から首筋にかけてゆっくり指でなぞった。
「んっ……?」
アキラくんの腰がぴく、と振れる。
本人は自覚がないまま反応してしまったか、我慢したつもりかもしれないけど、触っている側からすれば小さな動きも手に取るようにわかる。
満更ではない反応に、ボクは期待してしまう。
アキラくんはボクでも白けて感じないわけじゃない。
ボクが思うに、アキラくんは悪い意味でも流されやすい人間だ。他人の好意を軽率に否定できない、優し過ぎる真面目な人。雰囲気によっては……いわゆる
そう思うと、次の行動に移るのは早かった。
耳介を指でなぞり、首から鎖骨に上から下へと短く何度も吸いつく。
神経の集中する比較的感じやすい部分をなぶるように責めてから、ねっとりと首筋に舌を這わせた。
「んっ、あッ……」
抑えていた声が上擦って、明らかに色っぽい声が混ざってくる。
アキラくんは戸惑いながらも気持ち良さように足を伸ばしたり広げたり、腰をゆっくり上下に揺らしてボクの下でもがく。
「うっ……ゔぅっ……」
でも罪悪感はあるみたいで、固く目をつぶり声が漏れないよう唇を噛み締めて必死で押し寄せる感情を隠していた。
突き放しもせず我慢してやり過ごそうとしているのが、一層愛おしい。感度もやけに良いけど、お酒も入って気持ちよくなっているのかな。
アキラくんの腰に
その両手でアキラくんのシャツを捲り上げ、胸まで素肌を露わにする。
決して引き締まっているとはいえないけど、余分な脂肪のない柔らかそうな白い肌。
綺麗だ――ボクはおへそ周りから下の腹に優しく手を沿わせ、腰をわずかに浮かせた状態で耳たぶを甘噛みした。
「ひっ、ぃん」
耳、さっきも反応がよかった。
アキラくんの腰が大きく跳ね上がって、ボクの腰とぶつかる。
「ぅ……カイト、やめて…………ください……」
いやらしい動きが加速して、抑えきれずこぼれ落ちた吐息のような声もエロくてどうしようもない。ボクは、はあはあと息を切らすアキラくんを瞬きもせず見据える。
「……こんなの……嫌、だぁ……」
何より、顔だ。とろとろに蕩けて……言葉とは裏腹にボクを虚ろに見つめすがる顔は、下半身に重く響いた。
――ヤバい、ダメだ。
無防備なアキラくんのだらしない顔を見た時、ボクの理性の鎖が音を立てて崩壊する。
考えるより先に、ボクはもう一度アキラくんにキスをしていた。
さっきよりも長い、体感3秒。でもたぶん本当はきっと、そんなに我慢できていない。
「! ん、んぅっ……!」
強引に唇を割って舌を口に挿れる。アキラくんは強張り身を引こうとするけど、ボクは腕を押さえつけそれを許さない。ガクガクと抗うアキラくんの肢体を力づくでねじ伏せる。ボクより非力で華奢なアキラくんは、舌を受け入れるしかなかった。
アキラくんの口内は温かくて、悪酔いしそうな安いアルコールの味がした。ボクのも混じって尚更クラクラする。
絶えず深く繋がろうと右手をアキラくんの後頭部へと回し、有無を言わさず引き寄せた。
「ん、ぁ……ん……っ、んぅ……ぅん」
舌に吸い付き、なぞり、絡ませる。
繰り返す度に次第に受け身だったアキラくんも舌を絡ませてくれるようになり、快楽に従順になっていく。
アキラくんの嬌声と水っぽい音、何より応じてくれた悦びに脳が蕩け、気持ちよさと征服感でチカチカと麻痺していく。
もっと気持ちよくしてあげたい。もっと感じてほしい……一緒に気持ちよくなりたい……いや、もっと……向こうから求めるほどに、ボクに依存させてやりたい。
理性を失い浮ついた思考の中、いつのまにかボクはズボン越しのアキラくんのソレに自分のモノを傲慢に押しつけていた。
男の子同士のやり方は知らないけど、このままじゃ終われない。アキラくんならボクを受け入れてくれる。
何がなんでも受け入れさせる――口内を舌で蹂躙しながら血眼になってアキラくんのベルトを外そうと手をかけたその時、バイブレーションと軽快な着信音がボクの耳をつんざいた。
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