第7話 タコパ騒動②
アキラくんとマンションを出て、スーパーマーケットに足を運ぶ。バス停から来る時も見かけたお店だ。
アキラくん部屋に戻ってきたばかりなのにまた買い物って疲れるんじゃ……って外に出てから思ったけど、アキラくんはそんな声を掛ける隙がないぐらい快活にボクに接してくれた。
「えーっと刻みネギと天かすと紅しょうがと……小麦粉と卵と和風だしは家にあるし、生地はこんなもんかな。中の具材はどうする?」
「タコじゃないの?」
「タコパはタコ以外にもキムチとかウィンナーとかチーズとか、いろいろ入れて楽しむみたいだぜ」
「そうなんだ。うーん、どうしよう……」
アキラくんはスマホを見ながら教えてくれる。
ボクは買い物カゴを持ちながら腕を組んだ。
「よ、アキラ」
2人して売り場で固まっていると、後ろからボクらと同年代ぐらいの男の人が声をかけてきた。
上下黒のスウェットとトラックパンツ。赤みがかった茶髪と銀色のピアスがなんだかギラギラしていて、近づき難いっていうのが第一印象。アキラくんは相手を認めるなり、顔をしかめた。
「げっ、汰一……なんで……」
「何そのSSR級イケメン、背ぇたっか。お前の金髪美人彼女カンケイの人?」
えすえすあーるきゅう? 向こうはアキラくんの反応などお構いなく、ヘラヘラと笑っている。けど、目は笑ってない。依然として底が知れなくて警戒を解けなかった。
だけど黒目の少ない凛々しい瞳や、人を俯瞰して見ているような大人びた佇まいが、どことなくアキラくんと似ているような……?
「人の友人を勝手にソシャゲのガチャキャラに例えるんじゃねぇよ。失礼だろーが」
「えー、褒めとるんやしいいやん」
そしゃげ……も、なんだ? 男性もアキラくんも棘がありながら、会話の仕方に互いに気心が知れている雰囲気を感じる。
会話の内容についていけず、黙って見ていることしかできないのがもどかしかった。
そんな置き去りにされているボクに気づき、アキラくんは男性からボクへと体の方向を変えて、はっきりとボクに向かって話し始めた。
「カイト、こいつは
「え」
「ども」
「あ、こ、こんにちは……」
思わぬ展開に、ボクは動揺を隠せない。
いとこって、アキラくんのお父さんかお母さんの兄弟の子どもってことだよね? ボクやナナミみたいに血が繋がっている家族ってこと?
アキラくんは今度はボクに手の平を向け、ぶすっと無愛想に男性――汰一さんに語りかけた。
「友達のカイトだ。……俺の彼女の、双子の兄貴だよ」
「なるほど、美男美女の双子か。なら納得だわ。これから男2人で何すんの」
「お前には関係ない。紹介してやったんだからもういいだろ。行こうぜ、カイト」
アキラくんは一貫して汰一さんに冷たい。
なんでこんなに素っ気ないんだろう。関係性が気になるけど、汰一さんから距離を置こうとするアキラくんを引き留めることもできず、静かについていく。
「せっかくだからおごってやるよ」
すると汰一さんはいつのまにかボクからかごを華麗に奪い、ボクらを追い越して先頭に立っていた。
すかさずアキラくんが汰一さんの背後から問い詰める。
「何企んでんだ」
「なんも。なんか面白そうだし、後で顔を出す口実でもつくろうかと思って」
「いやだ。お前はぜってー来んなよ。マジで!」
「どうかな……暇だったら追加で差し入れに行ってやるよ」
「〜っ! お前な!」
アキラくんがどれだけ声を荒げても、汰一さんは淡々と自分のペースを崩さない。
そんな汰一さんと図らずもボクは目が合う。汰一さんはボクを捉えると目を細め、口角を両端に引き上げゆっくりと顔に笑みを広げていく。
――なんだ? 異様な笑い方にゾッと背筋が粟立つ。
「……んで、後は何買うの? 酒入れとく?」
本能的に危機感を覚えたのも一瞬、すぐに汰一さんの視線はボクからアキラくんに分散された。
汰一さんの気ままな発言に、アキラくんは怒りを通り越し呆れ果てたようだ。深いため息をつき疲弊したように肩を落としていた。
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