第2話 移ろう者②

 繰り返し言うけど、ボクがここまで来た理由は紆余曲折あって、語るとかなり長くなる。


 償いの旅を終え、アキラくんの住む街へ無事帰還したボクとナナミ。

 感動の再会を果たしたボクらだったけど、高校を卒業したアキラくんはすでに遠くの大学に行くことが決まっていて、まもなく離れ離れになってしまった。距離にして、ボクらの住むところから400キロ以上離れている。

 

 アキラくんが進学したのは教育学部。今は2年生になるのかな。

 高校受験の時心身ともに支えてくれた先生のようになりたいと、ボクたちがいない間も塾に行かず独学で勉強したらしい。今は下宿先で一人暮らしを満喫しているそうだ。

 まあ、このことは全部ナナミやオンパちゃんから伝え聞いた話でしかないんだけど……。

 旅を終えてから、ボクは積極的にアキラくんと絡まなくなったから……。

 

 旅に出ていた間はオンパちゃんがアキラくんのそばにいてくれたし、旅から帰って来るとナナミが3ヶ月に1回のペースでアキラくんの元へ会いに行くようになった。

 

 それもそう。ナナミはアキラくんに告白されて、晴れて恋人同士になったんだから。

 ボクはというと、恋人同士の間に割って入るのも野暮だし、夏休みとか長期休暇でたまにアキラくんがこっちに戻ってきてくれたタイミングで、みんなと一緒に過ごしていた。


 だけどナナミと仲睦まじく幸せそうに笑うアキラくんの姿を眺めていると、喉の奥に毒針が突き刺さってしまったかのような、消化できない苦しみに苛まされるようになる。

 

 ……そう。ナナミとアキラくんが付き合うようになってから、ボクは明確に居心地の悪さを感じるようになった。

 

 最初はみんなが集まる時ぐらいは顔を出そうと、違和感を我慢していた。

 だけど変わらず――いやむしろひどく、毒が体中を蝕むようにつばも飲み込めないぐらい息苦しくなって、そのうちアキラくんがこっちに戻って来てくれた時も、何か言い訳や用事をつくって距離を取るようになった。

 

 ナナミもオンパちゃんも電話やメッセージでアキラくんと定期的に連絡を取り合っているみたいだけど、ボクはやっぱり文字や声でも彼とやり取りをしようとは思えなかった。

 スマホもナナミと共有の一台しかないし、何よりナナミへの申し訳なさもあったんだと思う。説明できない不快感もあって、なぜかナナミの知らないところでアキラくんと仲良くなることは、悪い気がした。

 だからアキラくんからボク宛に連絡をもらっても、話が発展しないようなありきたりな返事やスタンプでやり過ごしていた。

 

 ボクの願いは、ナナミとアキラくんに幸せになってもらうこと。

 

 だってやっと長年の思いが、ようやく恋人というかたちとなって通じ合ったんだ。

 ボクが抱える気持ち悪さなんて2人にとっては邪魔でしかないし、1人で押し殺してしまえばいいだけの話。

 ボクはオンパちゃんみたいな面倒見の良さも包容力もないし、2人の力にはなれない。

 

 時間が経てば、毒にも免疫ができて気にならなくなるはず――ボクはそう自分に言い聞かせ、アキラくんと関わりを避けて過ごし……気がつけば風が新緑を運ぶ季節、ボクらは20歳を迎える年になっていた。

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