第3話 初仕事は『ざまぁ』と『闇堕ち』
ルキくんとノアちゃんが魔王城での暮らしにも慣れてきた頃、俺たちは『勇者討伐隊』として初任務を行うことになった。
なんでも、勇者たちにとっての拠点ともなる『はじまりの町』周辺に、近年まれに見る実力派の勇者が現れたとかで。
俺たちが召喚の儀を行った日に女神も召喚の儀を行っていたようだとキュリオから報告は受けていたので不思議なことではないが、
ということで。誰が『はじまりの町』に魔王軍幹部が来ちゃいけないなんて言った? 行きますよ。新人殺しに。ウチの
ちなみに、ふたりの実力を見るために俺の召喚した『超硬化ゴーレム』と軽く手合わせをしてもらったところ、ルキくんは愛用の聖剣でぶった切り。ノアちゃんに至ってはマジカルなステッキから超高熱な業火を放って見事に溶かしきったので、ぶっちゃけふたりは超強い。俺は安心です。遠くから活躍を見守っているね。
◇
で。『はじまりの町』に着いてみたら。開口一番、ルキくんが大声をあげた。
「トリス!? なんであいつがここにいるんだよ!?」
続いてノアちゃんも、驚いたように唇を震わせる。
「待って。女神が新しく召喚した勇者って……
「ん? ひょっとして顔見知り?」
尋ねると、ふたりは首が折れんばかりに首肯した。
トリスは、ルキくんの世界で幼馴染を寝取った元パーティ仲間の魔術師らしく、翼ちゃんというのは、ノアちゃんの親友で仲違いをしてしまった魔法少女なんだとか。
こんな偶然ある? でも、女神が召喚した隙をついて俺たちが召喚の儀を行ったのだから、いわば関係者みたいな人物を召喚してしまったということなのか。
ともかく、戦えそうかとふたりに尋ねると、ルキくんは
「私、翼ちゃんとは戦えません……」
(まぁ、元々は親友同士。彼女のことを傷つけるくらいなら、と自死を選んだくらいだから仕方ないよなぁ……)
俺は、一般市民に変装をしてしばらく勇者たちの様子を見ることに――しようとする間もなくルキくんがトリスに斬りかかる。
「NTRは死ねぇっ!!!!」
「「は!?」」
物陰からの目にも止まらぬ急襲。言動も意味不明だし、誰もが時を止めたかのように動けなかった。
その間にルキくんは、ばっさり斬られて虫の息になったトリスを麻袋に入れて縛り上げる。
「はい、捕獲ー! こいつ、『洗脳課』にぶち込んでなんでも言うこと聞く人形にしてやろうぜ!」
と。にっこにこの笑顔でドヤるルキくんは間違いなく
「どうしてノアがこんなヘンテコな世界にいるのよ!?」
「……翼ちゃんこそ」
「私は、意味不明な女神に召喚されて、わけもわからないままいけ好かない魔術師と組まされて、魔王を倒せとか命令されて。じゃなきゃ元の世界には返さないとか……でも、ノアがこっちにいるなら、あたしが元の世界に帰る意味もないからまぁいいか」
「へ? それって、どういう……?」
怪訝な眼差しで問いかけるノアちゃんを、翼ちゃんは抱き締めた。
「……ごめんね、ノア。喧嘩なんかして。あたし、ずっとノアのこと守ろうって、ノアが傷つかないように、ノアの分まで魔物を倒そうって躍起になってたの。でも、それで縄張り争いみたいになって、喧嘩しちゃって……バカみたい。最初から素直にそう言っていればよかったのにね」
ふわりと目を細める翼ちゃんの様子に、俺とルキくんは直感した。
((……あ。コレ、百合だぁ……))
俺はにこにこと出ていき、ふたりに告げた。
「おめでとう。これで仲直りですね、ノアちゃん。翼ちゃんも、戦う意味がこちらにあるなら、
「へ?」
「魔王を倒す使命は無理矢理与えられたものなんでしょう? それって女神のパワハラです。ご安心ください。我らが魔王軍は……アットホームな職場ですよ」
わけがわからない、と首を傾げる翼ちゃんの手をノアちゃんは「あはは!そうだね、一緒に行こう!」と握った。
こうして俺の部下たちは、初任務で見事に『洗脳』と『闇堕ち』を成功させて、魔王ちゃまに臨時報酬を貰ったのだった。
俺? もちろん貰ったよ。
ボーナス10%分くらいの、表彰金をね。
Fin
※あとがき※
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
今作は現在コンテストに参加中のため、もしよろしければレビューや☆評価、感想をいただけるととても励みになります!
今後とも是非よろしくお願いします!
(株)魔王城へようこそ!アットホームな職場ですw 南川 佐久 @saku-higashinimori
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