第29話 小妖精たち

なんと昼頃には妖精の森近くの湖に到着してしまった。



妖精の森は隣国との境目。つまり国境付近。

ちょうど国の中央に位置する王都からここまで半日で付いたと言うことは、ギャビンとソフィアなら1日もあればカトレア王国を横断出来てしまうという事だ。

恐ろしい。



「それで、この湖のどこをどうすれば良いんですか?」



ただのミッションだと思っているキーン様が聞いて来る。


アラン王子とセオと・・・ついでにノアも、今日のメンバーを見て、ただのミッションではないと思ったのか、事の成り行きを黙って見守っている。


「いえ、実は私も何をどうすれば良いのか分からないんです。この湖に、一年に一回、今日だけ映る、幻の花と言うのがあるそうで、それを見つけなければならないんですが。」

「幻の花かぁ。」



「まあ素敵。そんな珍しいお花があるのね、ロマンチックだわ。でも良かったら皆さん先にお昼にしませんか?こんな素晴らしい景色を眺めながら、湖畔でピクニックが出来る機会なんてそうないもの。」

「賛成!」


お姉さまの提案に、一も二もなく賛成する。




お馴染みアイテムボックスから、大人数用の敷物を取り出す。

次にこの日の為に用意した食べ物を、次々と並べていく。



いつも適当に日持ちしやすそうな食材をアイテムボックスに放り込んでおいてあるのだけど、考えてみればアイテムボックスに入れれば状態保存もすることができる。

出来たて熱々の料理をそのまま食べることだって可能なのだ。



そこで今日は気合を入れて用意してみた。

熱々にグリルしたチキンのバリーフソース添え。

焼きたてでホクホクとしているバターをふんだんに練り込んだパン。

トマトと葉物野菜のマリネ。

一晩かけて(料理長が)煮込んだ塩漬け肉と根菜のスープ。

デザートにはゴロゴロフルーツをたっぷり乗せたタルトまで。




「おーすごい!」

普段ご馳走を食べ慣れている面々にも喜んでもらったようで良かった。



ちなみに他の皆にはアイテムボックスの事も説明してあるけれど、知らないはずの姉も、どこかから取り出された食事をあっさりと受け入れている。

小さな頃から少しずつ少しずつ小出しに不思議現象を見せていった結果、ちょっとした事くらいでは「また何かシアが変わったことをやっているわー。」と言う程度で、深く追求しないでくれるようになったのだ。


出来た姉である。



そもそも今日は誰にも内緒にしていたS級精霊獣であるグリフォンに乗ってきたのだ。

鷲からグリフォンに変身したギャビンも見ても、「あら可愛い。鷲だと思ったらグリフォンだったのね。」などと呑気に言って頭を撫でていたのだから姉は大物だ。



小休憩を挟みながらとはいえ、長時間移動してきて皆疲れていたのだろう。

食事の後は、思い思いに体を休めていた。



「あー、動きたくないかも。」

「ホントな。」



綺麗な景色と言っても、もうここまで来るだけでも相当素晴らしい景色だったし、ここから見える精霊の森も、普通の森にはありえないような変わった形の可愛い花などが咲いていて楽しい。

湖もまるで鏡のように美しく、映った木漏れ日や森の木の葉の揺れる様子が写っている。

綺麗な景色・・・・・もうこれで十分じゃない?




「まあでも、それだと何のためにここまで来たんだよって話だからな。手分けして探そうぜ。キーン、エマ様を頼む。」


「へ、へえええええぇぇえぇ!!?ぼ、僕がですか!?」

「おう。ゆっくりのんびり散歩しながら観察してこい。適役だろ。」



『ノア!ノア乗って!飛ぼう!上から探せる。』

「そうだね、ギャビン。じゃあ私たちは上から探そうか。」


そっか。上から探せばまた何か違った目線で見られるかもしれない。

一瞬私もギャビンに乗せてもらおうかなーとは思ったけれど、今まで何時間も空の旅をしていたので、今は歩きたい気分だった。



「じゃあ、あとは残り者同士で、行くか。」


残ったのはアラン王子とセオと私。

セオは当然シアのお目付け役で一緒にくるだろうし、アラン王子だけ一人で探せというほど鬼ではない。この三人で行動するのが妥当だろう。


集合時間と場所だけ決めて、そうして各自バラバラになって探し始めた。





*****








「キーン様も、最近はシア達と仲良くして下さっているんですね。あの子達なんだか昔から変わった事をしているみたいで。付き合っていただいてありがとうございます。」

「い、いえ。シアさんも、ノア君もとてもしっかりしていて。僕の方がお世話になっているくらいです。」




キーンとエマは、アラン王子に言われた通り、湖の周りをゆっくりと歩いていた。

途中何か気になる事があれば立ち止まってキーンが観察する。

最初は緊張していたキーンも、徐々に饒舌になっていった。

絶対にエマを危ない目に合わせるなよと全員から念押しされたが、言われなくてもそのつもりだ。

危ない湖側をキーンが歩きつつ、何があっても大丈夫なようにシールドも張っている。


「今日のこれは何なんでしょうね。ふふっ、いつも私は連れて行ってもらえないから、今日は嬉しいです。・・・・あーあ。私ももっと、色んなところに出かけておけば良かったなー。」

「そ、そうなんですか。も、もしよろしければ、またいつでもお誘いしますよ。」

「嬉しいわ。でも来週のパーティで発表してしまったら、あまり自由に出歩けなくなるかもしれない。」

「・・・・・あ。」



ホワホワと夢見心地だったキーンは、急に現実に引き戻された気がした。



―――そうだった。もう来週だった。

これまで一時だって、それを忘れた事はなかったのに、今日エマと二人で湖を散歩出来て、アホなことに頭から抜け落ちてしまっていたようだ。


「・・・・・すみません。」

「いいえ。だから今日は本当に、本当に嬉しいの。きっとシアも、私の為にこんな企画をしてくれたのね。」

「そうかも・・・・しれませんね。」

「ええ。だから今日は、目いっぱい楽しみましょう!」






*****






一方その頃ギャビンとノアは。


『わあーグリフォンだ。こんにちはー。』

『こんにちは。』

『グリフォン!おーい、皆、グリフォンだぞ。』

『グリフォン!何しに来たの?』



―――無数の小妖精たちにとり囲まれていた。



『妖精さん達こんにちは。僕たち、探しているものがあるんだ。』

『なになに?』

『一年に一回、この下の湖に映るっていう幻の花、知ってる?』

『うん、知ってるよー。』



「え!知ってる・・・のか?」

探索を始めてわずか10分の出来事である。


『知ってるよー。僕たちが咲かすの。』

『今日は一年で一番、妖精界とこの世界が近づく日だから、いっぱい私たち遊びに来てるの。』

『恋をしている人間がいたら応援してあげるんだよ。』

『綺麗な光の花を皆で咲かせてあげるの。』

『すっごく綺麗だよー。』



「あ、そうなんだ。」


あっさり解決してしまった。


一年に一度、恋をしている人間を応援するために妖精たちが咲かせてくれる、光の恋の花。

それはきっと、とてつもなく綺麗なことだろう。



キーンとエマを今日この場所に連れてきたシア。


「なにをどうしたい訳じゃないけどね。」などと言っていたけれど、なるほど、そういう事か。


これまでシアは、・・・・シアだけでなく、イーストランドの家族は皆、エマをなんとか第二王子から解放させようと、色々と頑張ってきていた。


だけどそのかいも虚しく、もう婚約発表の日も決定してしまい、準備も着々と進行している。


でもきっと、キーン様のエマへのあの態度を見て、何かせずにはいられなかったのだろう。



「えーっと。じゃあ今日もその花をお願いできるかな。」


『うん!そのつもりー。』

『すっごい恋の匂いがするの!キュンキュンしちゃう!』

『ねー、応援してあげなきゃ。』

『暗くなってきたら咲かすね。その方が綺麗だから。』

『今年は恋の匂いがいくつもあるね。楽しみ!』



「・・・・いくつも、だって?」







*****







「つまり、恋する人間がいた時に、何らかの条件で湖面に映る幻の花が発生して、その花を見た二人のお互いの好感度が上がるってことだな?」

「うん、そんな感じ。」

「何らかの条件て、何だ?」

「全然分かりません。」



残り者三人組は、あまりやる気なくダラダラとしていた。

何だったらまだ敷物の上だ。


「・・・・はあ。だとしたら、発生するとしてもあの二人組のとこだろ。俺たちに出来る事はないな。あー、何時間も飛んで来て疲れてるんだよ。寝るかな。」

「ですよねー。」





「・・・シア様、ではせっかくですから、湖の周りを散歩しに行きませんか?珍しい植物もいっぱいありますよ。」

「うん!良いねセオ。妖精の森まで来たの初めてだし、せっかくだから楽しもう。・・・じゃあアラン王子はここで休んでいますか?」





「・・・・いや、行くわ。せっかくだしな。」






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