第28話 出発

そして週末。

王都のイーストランド邸の庭に、キーン様、アラン王子を含む今回のミッションメンバーが集まった。



ちなみにお姉さま(というかシアの家族全員)は、幼いころ病弱で本気で何度も死にかけたシアに激アマなので、「一緒にピクニックに行きましょう」の一言で簡単に付いて来てくれることになった。



理由など不要。

シアが行きたいと言えば、一緒に行ってくれるのだ。



さて、四人乗りのギャビンと二人乗りのペガサス。

誰がどちらに乗るかだけれど。



「ノアはギャビンでしょー。あとお姉さまとキーン様もギャビンに乗せてもらって・・・じゃあ私も。」

「お前はこっちな。」


無難なメンバー分けを提案していたら、アラン王子にグイと引き寄せられてしまった。

「えー、私がペガサスの方ですか。ノアやお姉さまと一緒が・・・。そちらにはセオを乗せてもらって。」

「いや男二人で長時間はソフィアにキツそうだからな。お前ギャビンには何度か乗った事あるんだろう?ペガサスの方に乗りたくないのか?」

「うっ。」



ペガサスに乗る。そんなの子どもの時に誰もが一度は憧れるシチュエーションじゃないですか!!


「乗ります!!」

「だろ?ほら乗った乗った。」




「アラン王子、シア様をくれぐれも、くれぐれも安全にお願いします。」

「絶対にシア落とさないで下さいよ。」

「アラン王子、大切な妹なの。よろしくね。」



安定の過保護っぷりを発揮するセオとノアとお姉さま。



「あーもー分かってる。お前ら過保護すぎ。コイツ俺より強いだろーが。」

「そうですね。まあ強いですね。」

「うわ、自分で言いやがった。」





そんなこんなでペガサスに跨る。

ギャビンの時は、ノアの風が守ってくれている安心感があったので、こちらはどうかと少し心配していたが、ペガサスの方にはしっかりとベルトと掴まる用の持ち手が取り付けてあった。

ついでにアラン王子が後ろに座って、腕で囲ってくれるので中々の安定感だ。


「妖精の森まで時間かかるからな。背中寄りかかって良いぞ。」

「それだとアラン王子が大変じゃないですか。」

「俺は日々鍛えているから良いんだよ。」


私の方が鍛えてるんでーと言おうかと思ったけど、まあ寄りかかって良いというなら、楽なのでお言葉に甘えさせてもらう。



「この子ソフィアっていうんですね。女の子かな?」

「まあな。精霊獣の性別と言うのはあってないようなものらしいが。」

「ソフィアちゃーん。よろしくね。」


ヒヒィ―――ン


まるでよろしくと返事をするみたいに応えてくれる。

「可愛い!」

「だろ?じゃあ飛ぶぞ。しっかり掴まっておけ!」






「わあーーーーー!!」

ギャビンに乗せてもらって何度か雲の上を飛んだけれど、何度見ても上からの景色は素晴らしい。

まずは王都の貴族街。競うかのように建てられた様々な様式の貴族屋敷が並ぶ。

豪華絢爛な屋敷もあれば、一見シンプルなものもある。

しかし全てが意匠を凝らし丁寧に作られており、見応えがある。

同じものなど一つとしてない。

貴族街を抜けると、庶民街が広がる。こちらは似たような家が並んでいたり、雑然としているがそれがまた見ていて面白い。


どんどん高度が上がっていき、一軒一軒の判別がつかなくなってきた頃、王都の城門を越える。

あっと言う間だ。


門の外に広がるのはどこまでも続く広大な自然。


前世で高層ビルの上から見た景色とは全く違う景色に、別の世界に転生したことを実感する。


日本で暮らしていた時、たまに山登りなんかに行っても、生えているのは同じ種類の植えられた木ばかりだったのだなと、この世界に来て気が付いた。



こちらの森はあらゆる種類の木々が生い茂り様々な色が混じり合っている。

何千年も掛けて育ってきただろう木々は力強く、神秘的で、一歩足を踏み入れれば何が出てくるのか分からないような神秘性があった。




「きれーい!」

「そうだな。」


シアはしばらくの間、次々と移り変わるその壮大な景色を、ただただ胸を震わせながら眺めていた。








「それで、何を企んでいるんだ?」


感動にも慣れ、前のめりだった姿勢を落ち着かせ一息ついた頃を見計らったように、アラン王子が聞いてきた。


「・・・・・企むとは。」

「企んでんだろ。キーンにエマ様まで連れてきて。妖精の森で何があるんだ?」

「いいえー、ただ素敵な景色が見られるから誘っただけですよ。」

「いやそれだけでさすがに行かないだろ。妖精の森まで。しかもルーカスを置いて、キーン連れて行くとか。」


うーん、確かにそれを言われると、すらっとぼけるのにも無理があるか。


でも本当に、大したことのない、気休め程度の事で。

ただ連れて行きたかっただけというのも嘘ではない。



「本当に、ただ綺麗な景色を見たいってだけなんです。私はゲームでもこのミッションやった事ないので、見つけられるかも分からないし。・・・・でも、もしその景色を見つける事が出来て、男女二人で見たら、その二人のお互いの好感度が上がるらしいって。・・・それだけです。」



別に一度一緒に同じ景色を見たからって、好きになるとかそこまでの効果はないし。

ただ綺麗な景色を男女で見たら、まあ好感度はあがるよねっていうそれだけの。




それをしたからと言って、何がどうしたいという事もないのだけど。



「ただ、今週末にこのミッションがあるって知って、お姉さまを連れて行きたいなって、思っただけです。」




―――もう、来週には、お姉さまの誕生日パーティーがあるから。


「それだけです。」

「なるほどな。・・・・男女で見たら・・・か。」



その後は、特にお互い話すわけでもなく、心地の良い風を感じながら景色を眺めたり、先を行くギャビンの様子を見るともなしに見ていた。



黙っていても気まずいという事もなく、この沈黙が、意外と心地よかったのは、やっぱり全ての物を包み込むような、広大な自然の景色のお陰だったのかもしれない。






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