第27話 妖精の湖に映る花

皆で相談した結果、キーン様にも秘密を話してミッションに協力してもらうことになった。

国一番と言われている知識の泉を無駄に遊ばせておく手はない。

しかも王宮図書室のヌシというほど図書室に出没するのだ。

味方に引き込んでおかないと邪魔でしょうがない。




「乙女ゲーム・・・・転生・・・・闇の竜・・・・。」

「はい。」


転生の説明も何度目かになり、大分要点を纏めて伝えられるようになってきた。

・・・・セオが。



「地の賢者様は、何かご存じの事はありますか。」



流れるようにスムーズな説明を終えたセオが、キーン様に質問をする。

キーン様は一度の説明で完璧に理解した様子で、途中で聞き返すことも殆どなかった。



「・・・そうだね。こうは考えられないかな。今一般的に知られている世界は、僕たちが生活しているこの世界の他に、妖精界がある。恐らく魔獣や人型の魔人の住む、『魔界』なんかもあるのではないかと。証明はされていないけど、ほぼ確実視されているね。」

「はい。」

「そして、それぞれの世界は独立して存在しており、遥か隔たっていて本来交わることはない。でもこの世界と妖精界なんかは相性が良いのか近いのか、よくお互いに行き来している。精霊獣のように、自分の魔力で行き来できる者もいれば、次元の狭間に落ちて移動してしまうケースもある。恐らくノア君の精霊獣もそれで、こちらの世界に来てしまったんだろう。」

「ギャビンが・・・。」



「うん、それでね。僕も不思議に思っていたんだけど、明らかにこの世界の者ではない『人間』が、昔からこの世界に紛れ込んで来ているようだ。何度もね。これはもう、世界がもう一つあるって考えて良いんじゃないかな。うーん、そっちの世界が『人間界』、かな。」

「人間界。」

「うん。そちらは魔法が使えないんだろう?だとしたら、こっちの世界の方が『魔法の世界』と呼ぶべきなのかも。」



「あ、あの!だとしたら、私がいた世界にあった乙女ゲームって・・・・。」

「そちらの世界からこちらの世界に来る人がいるのなら、こちらの世界からそちらの世界に行く人間がいても不思議ではない。・・・なんてね。推測だけれど。」




「でも乙女ゲームでは、アラン王子は18歳でした。」

「世界を渡る際に、数年時間が前後してしまうことは良くあるよ。ギャビンの親がギャビンを見つけられなかったのは時間軸がズレてしまったからかもしれない。・・・それとも、もしかしたら王子達が成長したらこんな感じかなと想像して作られたゲームだという可能性もあるね。闇の暗殺者?は誰だか分からないけれど、その人物だけが創作で、それ以外は子どもの頃からの有名人をモデルにしたとか。王子もマリウスも貴族なら誰でも知っていたはずだ。僕もね。」



「じゃ・・・じゃあ、闇の竜のミッションは、必ず起こるとは限らない?」


「うーん、でもそのゲームを作った人物がどんな立場の者だったかしらないけれど、ここ数十年で行方不明になった王族はいない。王族しか知らないはずの汚れた魔力の事を描いていたという事は・・・・近い未来に実際にそれを見た可能性の方が高いだろう。」


つまり、5年後に闇の竜が黒い魔力に覆われるのを見て、さらに光の聖女か光の勇者がそれを解決するまでを実際に見届けた未来の誰かが、シアの元いた世界に流されてしまった・・・・と?



―――いいえ、逆に私がこちらの過去の世界に来たのかも。




「そのゲームでは、黒い魔力の説明もなければ、闇の竜がそれを長年浄化してくれていた描写もないんだよね?さらに竜は何万年も東の山岳に住み着いているとだけ。」

「あ、はい。ただ黒い魔力に覆われたとだけ・・・。竜が何代も入れ替わっていたなんて知りませんでした。」

「では、きっとその程度の情報にしか、触れられなかった人物なんだろう。」

「・・・・本当だ。・・・じゃあ、光の勇者か光の聖女は、この世界のどこかに存在する?」

「その可能性が高い。」



「・・・・そっか。」


少し、希望が見えてきた。











そういう訳で、キーン様が加わったとはいっても、やる事は基本的に変わらなかった。

しかし光の勇者か光の聖女を探す事が、以前は気休めで探しておくかー程度だったのが、必ずどこかにいる人物を探すという感覚になったのが嬉しかった。

無くし物でも、あるはずがないと思って探していては、不思議と見つからないものなのだ。



ちなみに攻略対象三人の才能はもの凄くて、メキメキと実力を付けていった。

ルーカスの才能もすごかったけど。








*****




そんなある日の事、とあるミッションがシアの目に留まった。


「・・・・妖精の湖に映る花。」




これは年に一回ある季節イベントだ。



妖精の森の近くにある綺麗な湖。

一年で一度だけ、その湖に映るという幻の花を見つけるというのがそのミッションなのだけれど、このミッションはどちらかといえばレベル上げではなく、ゲームのもう一つの要素の方のミッションなので、シアはやった事がなかった。


もう一つの要素の方のミッションとはもちろん、攻略対象との親密度を上げる方のミッションということだ。


妖精の森はカトレア王国の外れの国境上にある為、普通なら往復で何日も掛かってしまう。

忙しい皆を連れて行くわけにはいかないだろう。

でも、ノアのギャビンに乗って行けば・・・・。



「あの!キーン様。今週末は空いてますか?」

「ん?何、またミッション?」

「はい!是非キーン様を、連れて行きたいミッションがありまして。」

「そっかー。魔力の属性によって、得意ミッションがあるものね。良いよ、行こう。」



ちょうど王宮の図書室にいたキーン様に、すぐに約束を取り付けることに成功する。



「シア様。どちらへ行かれるのですか?もちろん私もついて行きますよ。」

「・・・・妖精の森の近くの湖。ノアのギャビンを借りて乗って行きたいから、セオは連れて行けないかも。」


「ギャビンは小柄な人間なら4人は乗せられますよね?」

「うん。だから・・・私は行かなくちゃいけないでしょ。あとキーン様と、ノアと。」

「あと一人は?」

「お姉さまを、連れていきたくて。」

「エマ様を?」




「面白そうだな。もちろん俺も行くぞ。」

「うわ!いたんですか。」


突然声を掛けられてビックリする。

「いやさっきからずっといただろうが。」



そうだった。あまりに長時間資料に没頭していて忘れていたが、さっきからアラン王子も同じ机で作業をしていた。


・・・・アラン王子の読んでいる本にはデカデカと『禁書』『持ち出し厳禁』の文字が書かれている。

以前禁書庫で読まなくて良いのか聞いたことがあるが、「王宮図書室から持ち出していないのだから持ち出していない。」などと供述していた。


確かに「どこから」持ち出し厳禁とは書かれていない。



「だから話を聞いていましたか?ギャビンに乗れるのはどんなに詰めても4人までですって。」

「問題ない。・・・・・俺の精霊獣は何だと思う?」

「え!精霊獣!?もう契約しているんですか。・・・何だろう。そういえば乙女ゲームでも出てきてたのかな。」


乙女ゲームに精霊獣システムがあるからには、攻略対象の精霊獣などという美味しい設定が出てこないはずはない。

数野すみれ、攻略対象に興味なさすぎ問題のせいで、色々と情報が偏っている。



「聞いて驚け。おれの精霊獣はな、ペガサスだ。2人は乗れるぞ。」

「ぺ・・・・ペガサス!」


S級ではないものの、超人気精霊獣である。



―――この人本当に根っからのヒーローだわ!



「ノアのギャビンとあわせたら6人行ける。セオも行けるぞ。」

「よろしくお願いします。」



私より先にセオが返事をしてしまった。

「まあ付いて来るのは良いですけど。邪魔しないで下さいね。」


キーン様に聞こえないように、アラン王子に忠告する。

アラン王子は何やら訳知り顔で、「ふーん?」と呟いていた。







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