第20話 好感度
!ミッション
★★★★★ 深緑の森を探索せよ(一週間以内)
★★★★
黒い星。それは必ずやらなければならない必修ミッションの証。
しかも★9とは。
今の戦力でギリギリかもしれない。
一週間以内という期限も短すぎる。
ちなみにシアが前世で放置していた闇の竜ミッションは必修ミッションだったが、期限が無期限だったので放置することが出来ていた。
必修ミッションが達成できないのは、すなわちゲームオーバーを意味する。
―――ゲームオーバーって・・・よく考えてみたら、こっちの世界ではどうなるの?
慌てて皆を呼んで相談する。
相談場所はノアの部屋だ。
防音シールドをしっかりと張る。
皆とはもちろんセオとノアとルーカスのことで、火の王子とか水の宰相令息はお呼びでない。
「ゲームオーバー・・・ですか。」
「そう。まあいきなり世界が終わるなんてことはないだろうけどねー。」
あはははーと笑うけど、誰も笑わない事に気が付いて止める。
「・・・ゲームオーバーというので、この世界がどうなるのかというのは、分かりませんが、やらなければならないでしょうね。」
セオがいつになく真剣な表情で言う。
「シア様。その★9というのは、どのくらい大変なの?」
ルーカスはもうミッションをやるつもりで想定しているようだ。
まあやらない選択肢はないよね。
「かなり難易度が高いよ。今の私たち全員でなんとかなるかどうかかな。」
「・・・・・王子たち誘うか?」
ノアがそう提案してくる。
そう、王子とマリウスって、攻略対象なだけあってポテンシャルが高い。
魔力量メッチャ多い。
まだ上手く使いこなしていないけど、それでもあれだけのシールドや攻撃魔法が出来ていたのは並みの才能ではないわけだ。
初めて会った日も、シアたちが助けなくても、死にはしなかったかもしれない。
なんだかんだまだ余裕ありそうだったし。
それは皆が感じていたようだ。
「うーん、でも攻略対象をミッションに連れて行くのって、好感度50%超えないといけないんだ。今好感度ゼロだろうから無理じゃないかな。」
「好感度とは?」
「最初はゼロで、5%とかでも好感は『ある』ってことだから好きな部類に入る。50%だとかなり仲が良いってこと。まあ無理ね。」
セオの質問に答える。
王子とマリウスとは学園でなんだかんだ一緒にお昼を食べたりしているけどそれだけ。
アラン王子とはほとんど絡まないし、マリウスに至ってはいつも面白がってからかってくる始末。
好感度50%など届いているはずがない。
「シア。その好感度っていうのは例のステータス画面で見られるの?見たことある?一応見てみたら。」
ノアがそう提案してくる。
個人のプライバシーだし、あまり見る気がしなかったんだけど。
世界滅亡が掛かっているかもしれないとあってはそんな事言っている場合じゃないだろう。
「うーん、一応見てみるけど。」
ステータス画面を開く。
「マリウス様って、絶対シア様の事気に入っているよね。」
「・・・あんなに楽しそうに毎日からかってきているからな。」
「ほぉーそうなんですか。後で詳しく聞かせて下さい。」
まずはアラン王子の好感度。
「え!?アラン王子の好感度53%もある!全然そう見えないけど、結構好感をもってくれてたのねー。」
何とアラン王子はかなり私に友情を感じてくれているみたいだった。
好かれていると知って嫌な気はしない。これなら誘っても付いて来てくれそうだ。
―――誘うかどうかはまだ決めていないけど。
お次はマリウス。
「・・・・・・・・・・。」
「どうしたシア?」
「マリウス、好感度71%もある。もう好きなんじゃないコレ?え、あの人私の事好きなの?全然そんな風に見えないのに。」
何アイツ。
女にはニコニコ甘いくせに、私には突っかかってくるから嫌われているのかと思っていたわ。意外ねー。
「・・・・・シア様。その好感度って、誰のでも見れるの?」
「いいえ、攻略対象だけ。」
「・・・・そ、そっか。良かった。」
何故か安心しているルーカス。
―――そりゃそんな心の中を自由に覗かれるような真似されるの嫌だよね。
結局相談の結果、王子たちは誘わないことにした。
ゲームオーバーが掛かっているのだから、仲間うちだけで行きたいとか、秘密がバレるかもとか言っている場合ではない。
純粋に、ミッションに連れて行くべきかどうかだけで検討した結果、王子たちのまだ魔力を使いこなしていない様子や、シアたちといきなり連携は取れないだろう事。などなどを考慮にいれて、今回は慣れたメンバーで力を尽くそうという事になったのだ。
・・・今後こういう事もあるかもしれないから、無事ミッションがクリアできたら、王子たちももっとどんどん魔獣狩りに誘って、一緒に連携を取れるように練習することにして。
――――ちなみに、マリウスの好感度のうち20~30%は、精霊獣モモちゃんへの好感度分だったりするのかもしれない。
*****
その生き物は、自分が何者であるか良く分かっていなかった。
でも生まれ育った暖かく安全な住処を離れ、どこか別の世界に流れ着いたことだけは分かった。
流れ着いた世界は自分と同じような魔力に満ち溢れた存在が少なく、魔力量の少ない生物が闊歩する世界だった。
生き物は、自分がなぜこんな世界にいるのかが分からなかった。
その世界を、風に乗って羽ばたきながら上空から見渡す。
生き物には、立派な翼があった。
気持ちの良い風に乗り、自由自在に世界中を飛び回る事ができた。
この世界にも、たまに魔力が溢れ出て溜まっている場所があり、生き物は特に風の魔力の集まる場所を好んでは翼を休めていた。
たまに、自分と同じような魔力に満ち溢れる存在と遭遇する時もある。
そういう存在に聞いたところ、どうやら生き物は精霊獣と呼ばれる存在らしい。
通常なら妖精界の親元で過ごすような年齢であるはずの生き物が、なぜ一匹で人間界――うじゃうじゃと大量にいる魔力の少ない二足歩行の生き物は人間というらしい――に来てしまったのか。
たまにある時空の狭間に落ちてしまったのかもしれない。
親の精霊獣に連れられてきて、はぐれてしまったのかもしれない。
棄てられたのかもしれない。
それは覚えていなかったし、誰に聞いても答えは出てこなかった。
ある日生き物は、自分とそっくりな外見の動物に出会う。
同じような見事な黒い翼があり、同じようなするどい嘴と鉤爪。
そして白い尾羽があった。
目だけは生き物が滴る血のようなピジョンブラッドであることに対して、動物はただの黒だったけれど。
そして生き物の方が一回り大きかったけれど。
その似た動物は、人間界で『鷲』と呼ばれる鳥だった。
もう何年も一人きりで人間界をさ迷っていた生き物は、『鷲』達が住まう山林にしばらく滞在することにした。
その山林は、風の魔力と地の魔力が集まるとても気持ちの良い山だった。
木々は生い茂り、子どもの鷲たちが乗るのに丁度いい気流があった。
生き物は毎日、毎日、何年間も、鷲達と一緒に遊んだり、狩りをしたりして暮らした。
鷲達は生き物を尊敬していた。
そんなある時、その年の卵が孵ったかという頃、おかしな事が起こり始めた。
風がピタリと止まってしまって気持ちが良くない。
地の魔力も感じられなくなり、代わりにモヤモヤとした黒い魔力が湧いてきた。
鷲達は動揺して騒いだが、生れたばかりの雛たちを置いてはどこにも行けない。
生き物は何とか魔力で風を起こし、まだ小さい雛たちは必死で羽ばたく練習をした。
深緑と呼ばれる深い緑の木々が、段々と枯れていく。
水は枯れなかったが、飲むたびにズシリと身体が重くなるようだった。
黒い魔力は日に日に濃くなっていく。
ついにか弱い雛から順に死んでいく個体が出始めた。
一匹、また一匹と。
比較的大きくて力強い雛達は、最初の滑空に成功すると、そのまますぐ他の地に移動して、決して戻ってくることは無かった。
あの子達は助かるだろう。良かった。
生き物は思った。
生き物は、雛が最後の一匹になるまで、山に残り続けた。
必死で生き残ろうと、羽ばたきを続ける雛が、衰弱するのが先か、滑空に成功するのが先か。
最後の一匹の雛は、最後の力を振り絞り、生き物の起こした風に乗って、フワリと浮かび上がった。
そのままどんどん山を離れていく。
どんどんどんどん飛んで行って、気が付けばもう生き物が起こした風ではない、自然の風に乗って飛んでいた。
その雛の親鳥は、雛を守るように前と後ろを力強く飛んでいた。
その三匹を、生き物はずっと見えなくなるまで見送った。
生き物はもう限界だった。
黒いモヤモヤが全身を覆っていて、もう動くことは出来なかった。
最後の最後の魔力も、今使い切ってしまった。
でも助ける事が出来た。
何匹も助ける事が出来た。
生き物にとって、鷲達は家族だった。
家族を助けられて良かった。
生き物は、満足してその目を閉じた。
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