【番外編】アラン王子の胸の裡③

「5時方向3キロ先に魔獣います。15・・・16頭の群れですね。沼地なので、大きさから考えて鎧アリゲイル辺りかと。」


イーストランド家の従僕だと紹介されたセオとやらが言う。

3キロ先に魔獣ね。・・・・3キロ先?どうやって分かるんだ?


「じゃあ王子達にお願いしましょうか。16頭くらいなら何とかなりますよね。初めて会った時何十頭も魔獣倒していたし。」


事も無げに言ったのはシアだ。


「鎧アリゲイル。しかも沼地。」


名前の通り、鎧のように固い皮に覆われた魔獣。

しかも足場最悪の沼地。


隣のマリウスもダンマリだ。




何が怖いって、これ嫌がらせじゃなくて、本当に「これくらい大丈夫だよね?」って感じなのが怖い。

簡単に出来ると思っていやがる。


・・・・出来るけどな!!


「あ、ちょっと大変そう?」

「・・・・余裕だ。」



「・・・沼地の足場を土魔法で固めたり出来ますので。」


お目付け役らしいセオさんとやらは、多少は常識が残っているらしい。


「いや、そのままで大丈夫だ。」


誰だ?そんなアホな強がりを言うのは。


俺だよ!クソ!


隣のマリウスの視線が怖くて直視出来なかった。





マリウスのシールドで沼地限界まで近づく。

シアもシアの精霊獣も、マリウスにお任せで防御シールド張る気配が全くない。

呑気に見学しているのが恐ろしい。

完全にリラックスしてやがる。


マリウスはポーカーフェイスだが、いつも二人分の小さいシールドを張っているところしか見たことがないので、こんなに大人数用の広範囲で強度は大丈夫だろうか。



沼地で日光浴をしていたらしい鎧アリゲイル達が、侵入者に気づいて殺気立っている。

分類的には中級魔獣だが、重量的には上級でもおかしくない魔獣だぞ。





さて、おれの攻撃魔法でどうやってこいつらを倒すか。

試しに普通に一発、渾身の攻撃魔法を放ってみる。


ドオォォォォ―――――ン!!


直撃した鎧アリゲイルは派手に吹っ飛ぶが、吹っ飛んだだけ。

その辺の石を飛び散らせながらゴロゴロと地面を転がると、岩場にぶつかって止まった。

かと思いきや元気いっぱいにイライラした様子ですぐに起き上がる。


怒ったようで間髪入れずにこちらに突進してくる。

大きな図体に似合わぬスピードで、あっと言う間に迫ってくる魔獣。




ドッゴン!!



良かった。マリウスのシールドで跳ね返された。


鎧アリゲイルは見えない壁に強烈に弾かれて、足取りが少しふらついている。

さっきの攻撃魔法よりダメージを受けていそうだ。


マリウスは相変わらず何考えているか分からない無表情をしているが、そもそもあの胡散臭い笑顔が引っ込んでいる時点で内心はお察しだ。

しかも汗ダラダラかいてるぞ。拭けよ。


次は攻撃魔法を、込める魔力量は変えずに出来るだけ収束させて、範囲を狭く、威力を強くするイメージにしてみる。



チュドォォォォーーーーーーン!!



悪いが先ほどの個体をまた狙う。


他の個体は自分たちとは無関係だと思ったのか、呑気に日光浴を再開している。

他のヤツまで一気に向かって来られてはマリウスのシールドが心配なので、既に怒り心頭の一頭に狙いを絞ることにしたのだ。



また吹っ飛ぶが、先ほどより吹っ飛び方が大人しい。

まあ当たった範囲が少なかったからな。


しかし、先ほどと違って、直撃した部分が、少しだけ皮が損傷しているように見える。


少しだけな!


先ほどの突進で学習したのか、今度は突っ込んでこない。

ガルルル言いながら憎々し気にこちらをにらんでいる鎧アリゲイル。



ノア達はアドバイスの一つもすることなく高みの見物だ。

こいつ等がその気になれば、鎧アリゲイルなど一瞬で一掃出来るのだろう。



どうすれば倒せる?

目を狙うか?

いや、流石に的が小さすぎる。

ちょっと待て、確か爬虫類型の魔獣の皮の比較的薄い場所は・・・・喉の下。



普通に狙っても当たらない。


今までやったことも挑戦した事すらないけれど、小さめの攻撃魔法を地面すれすれに飛ばして、鎧アリゲイルの顎の下あたりまでいったら上に飛ばす。


出来るか?

ノアのように、精密に動かすのは無理でも、真似事くらいは。



ドンッ!


小さな攻撃弾を地面すれすれに飛ばす。


ガガガガッ!!


しばらく進んだ辺りで地面に触れてしまい、地面を抉って飛び散らせながら霧散してしまう。


沼地は、イーストランド家の従僕が、何も言わずとも地魔法で固めてくれているようだ。

ありがたい。セオさん大人だ。


大丈夫といったら「あ、そうですか」と言ってペンダント持っていくどっかのお姫様も見習って欲しい。



ガガアアアアアアアアア!!!!


「あっ。」


ドンッ!!!


怒った先ほどの個体が大口空けて吠えているので、とっさに攻撃弾を口の中にぶち込んだ。


グワァァァァァァ!!!!ガウゥゥゥゥウゥゥゥゥ!!!!


灼熱の弾は体内を焼いているらしく、そのアリゲイルは苦しんで苦しんで、何十秒もゴロゴロ転がって悶えていたかと思うと、動かなくなった。


何か悲惨だ。

スマートに倒せなくてスマン。



うん、しかしこれで良い事を思いついた。


隣のマリウスを見る。


「・・・・何ですか?」

「先に謝っておく。すまない。」



ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ッドドン!!



そう言うと、答えを聞かずに残りの15頭全部に次々と軽い攻撃弾を当てていく。



ガアアアアア!!!!グオオオオォォォ!!!!



次々に怒りの声を上げる鎧アリゲイル達。



そして怒って大口空けている個体の口の中を狙って、次々に威力を収束させた攻撃弾を放つ。


グワァァァァァァ!!!!


うまい事口の中に攻撃弾をお見舞いできた個体は、先程の個体のように苦しんで暴れ悶えている。

頭や尻尾がガンガン岩場にぶつかり石つぶてがそこら中に飛び散っている。

じき動かなくなるだろう。



ズガン!!ズガン!!ズガン!!



怒った鎧アリゲイルが何頭も次々にシールドに突撃してくる。

すまないマリウス。耐えてくれ。


チュドン!!!


シールドに跳ね返された時、喉ががら空きになったヤツがいたので、それも狙ってみる。

よし!貫通した!!!


これで5頭クリアだ!!



そう内心で思った瞬間、不思議な感覚が体中を覆う。

なんだこれ。

力が漲ってくるような、減ったはずの魔力が戻ってくるような・・・いや、魔力量が増えたような????


「・・・・何だこれは。」

隣のマリウスが呟いた。

もしかしたら同じような感覚を覚えているのかもしれない。

後で聞いてみよう。




そうしてなんとか、小攻撃弾で煽って怒らせて、弱点を狙って一頭ずつ、セコセコと最後の一頭まで倒しきることができた。


あの後また2回ほど、不思議な魔力量の上昇を感じながら。




「すごい!火魔法でも色々操作って出来るんですね。」

何とか全てを倒し終わった時、大人しく見ていたルーカスが、感心した様な声を上げる。


「・・・お前は鎧アリゲイル倒す時どうしているんだ?ルーカス。」

「思いっきり、打ちます!」


クッソ―。余計な小細工しなくても、攻撃魔法の力押しで倒せるのか。

いや俺だって今日この日まで、そうだったけどな?

人生には工夫も必要なんだぞ??




「じゃあ次はどこに行こう。」

「すぐ近くに、比較的小さめの魔獣が集まっていますね。」


ちょっと待て、ノア。

次?次だと??

そんでもって、常識人だと思ったセオさん・・・いやもうこんな奴セオで十分だ。

セオも普通に答えるな。

そもそも普通ははぐれて一頭でうろついて魔獣を狙うのが常識だぞ?

なぜ集まっている所を探す??



「小さめの魔獣なら王子達にお任せしましょうか。鎧アリゲイル倒せるくらいなら余裕でしょうし。」




マリウスから『今度こそ余計な事は言うなよ?』という声が聞こえてくる。

言ってないのに聞こえる。不思議だな。



でもな。王子とは、いついかなる時も、弱みを見せず、堂々としていなければならないものなんだ。



「・・・・余裕だが?」


プライドの高いどっかのアホの声が、他人事のように響いた。






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