第10話 お土産
「それでは街を歩いてみましょうか。」
『街の男の子』と言ってもどこの誰だか分からないので、今日は前もって計画したルートで街を散策する予定だ。
警備の関係などで行けないところもあるが、事前にどこに行きたいか希望も聞いてくれている。
どこに何があるのか分からないので、基本的にはセオのおススメに従う事にした。
ミッションとは、近くまで行けば探さなくとも勝手に巻き込まれるものだ。何とかなるだろう。
・・・・ゲームではだけど。
「セオは良く街に来るの?」
「そうですね。たまの休みにぶらぶらすることもあります。」
セオは伯爵家の筆頭執事、テオの親戚の子で男爵家出身らしい。
伯爵家には庶民出身の使用人もいれば、礼儀見習の貴族の使用人も数多くいる。
そんな中、男爵家の四男でありながらその優秀さで執事まで上り詰めたテオが、優秀だから鍛えると言って、太鼓判を押して連れてきたのがセオらしい。
小さな頃から屋敷で働いている為、すっかりベテランの風格漂っているが、まだ14歳だというのだから驚きだ。
実家はこの街にあるらしくて、足取りは慣れたものだ。
「あ、あれは何だ!?」
「ココナナの実のジュースの屋台ですね。」
ノアの質問にセオが答える。
あれはゲームでも見たことがある!
飲めばほんの少しだけ素早さが上がるココナナの実だ。
屋台の人は、器用に実の上側だけカットすると、中の果汁をカップに移して売っている。
「飲んでみたい!」
「そうですね。ではあちらで座ってお待ちください。」
きっと飲みたがるのはお見通しだったのだろう。屋台の近くにはジュースを買った人が座って飲めるちょっとしたテーブルセットがあり、そこに座って待つように言われる。
でも屋台でフルーツがカットされる様子を近くで見たくて、セオに付いて行く。ノアも一緒だ。
セオは仕方ないなあという表情で、それ以上は何も言わなかった。
ワクワクしながら並んで順番を待つ。
列に並んだ明らかな貴族の子どもに、前に並んだ人たちは最初戸惑っている様子だったが、私たちがニコニコしながら待っていたら安心したのか笑いかけてくれたり手を振ってくれた。
「キャーかわいー。」「伯爵家の子達だって。」
そんな声が聞こえる。
順番になるまで、屋台の人の器用な手さばきを見て楽しむ。
途中得意げにナイフをクルクル回して見せてくれたが、張り切りすぎたのか取り落としてしまい、セオに「気を付けてください!ノア様とシア様に当たったらどうしてくれるんですか!」などと怒られそこからは慎重に神妙に作業をしている。
「ハイどうぞ!お待ちどうさま。並んでくれてありがとうね。」
「ありがとう!」
しっかりと自分の分は自分で受け取る。
支払いは伯爵家からということで、セオがまとめて払ってくれた。
テーブルに移動して座る。席が空いているか心配していたが、テーブルはどの席も全て無人だった。
これは正直貴族の子たちが座ろうとしているのに先に座れる人などいなかったのだろう。
―――すみません。ありがとうございます。テーブル1つで十分ですので、残りの席はどうぞ座ってください・・・。
「美味しい・・。」
「本当、美味しいね。」
ノアが小さな声でつぶやく。
それが思わず漏れたという感じで本当に感動しているのだと思った。普段高級な料理を食べ慣れているノアが感激するほどの味。
採れたて果実のジュースは冷えていて美味しい。
砂糖など入っていないので、甘さは控えめで素朴な味だが、それだけにいくらでも飲めそうだった。
ちなみにセオにも一緒に席に座ってもらう。
最初立って控えていようとしたセオに、落ち着かないからと言ってノアと二人がかりでお願いして座ってもらった。
すっかり3人でのピクニックに慣れて、もう使用人と言うよりお兄さんという感覚なのだ。
ノアも同じ気持ちらしい。
―――あ、そうだ。
ジュースも飲み終わったところで、フワリと広がったスカートのポケットから、先ほど購入したお土産を取り出す。
護衛の人が持ってくれようとしたのを、自分で持ちたいと無理を言ったのだ。
「これはノアに。これはセオに。さっきのお店で買ったお土産だよ。」
「え!?僕に?」
「・・・・私にもですか。」
買うところを見ていなかったノアもだけど、見ていたセオまで本気で驚いている様子だ。
地の魔石のお守りなんて、セオ以外誰にあげるというのだ。
2人は早速包みを開けてくれた。。
「すごい、風の魔石か。綺麗だな。ありがとうシア。大切にする。」
「どういたしまして。」
ノアが喜びを隠しきれないとばかりに微笑んだ。
貴族の子どもはバッグなど持たないから、ノアは少し考えた素振りをした後、ベルト部分に早速チャームを付けてくれた。
「嬉しいです。私も、一生大切にします。ありがとうございます。シア様。」
「い、一生ってそんな。これから一緒にいたら、いくらでも魔石なんて採れるよ。」
セオが何だか壮大なお礼を言ってくれるので、逆に焦ってしまう。
「私も、お二人にお土産を買ったんです。大したものではありませんが。」
そういってセオが包みを取り出したので驚いた。
お店の中ではほとんど一緒にいたのにいつの間に・・・。
セオが何かを買っていたことに、全然気が付かなかった。
「わあ!カッコいいな。」
早速取り出したノアへのお土産は、シンプルな青の石の髪留めだった。
男性用にもなるだろう。
少し髪の毛に長さのあるノアは、邪魔な時髪を纏める事もある。オシャレだけど実用性もあるのが、セオらしい選択だった。
そして私の包みを開けてみると・・・・
「・・・・わあ・・・・。」
それ以上に言葉が出ない。
さっきの店で、買おうか迷った石を組み合わせて作られたお花の髪飾り。
魔石を買った後急いでノアと合流したので、少し気になったけど今回は買いそびれていた。
本当にいつの間に・・・・。
「嬉しい。一生、大事にする。」
さっきのセオをバカに出来ない。
これはもう、一生大事にするしかないだろう。
そう言うと、セオは「これからいくらでも買って差し上げますよ。」と笑っていた。
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