第9話 街へ

!ミッション


☆☆ トマトマトの駆除―5匹

☆☆ バリーフの採集―5本

☆☆☆ 星のかけらを集めよう―5個

☆☆☆☆☆ 街の男の子の無実を晴らそう



セオとノアと私の三人で、暇さえあれば屋敷の庭で出来るミッションをクリアする日々が1か月続いた。

3人とも大体レベル20位になっている。


ゲームなら画面をタップして、スワイプして10分も掛からないようなミッションが、現実では1日がかりだったりする。

シアにはそれが、とても楽しかった。


「レベル20という基準は良く分かりませんが、お二人ともその辺の護衛と同じくらいには強くなっていますね。魔力量はこれだけあれば魔術師にもなれます。」

「そうなんだよねー。まあでもまだまだこれからだよ。早く街に出かけたいな。」


シアは水魔法が得意なので、防御シールドと回復を優先して鍛えている。

ノアは風魔法なので攻撃を中心に。



―――ノアはそのうち浮遊魔法とかもチャレンジしてほしいなー。私も一緒に空を飛びたい。



セオは攻守共にそこそこ出来て、あとは情報伝達とか防音隠密対策とか、日常的にあると役立つ能力を強化してくれている。


とてもバランスが良いチームだと思う。


しかし今はまだ簡単なミッションばかりだから良いが、強い魔獣相手になってきたら攻撃力が足りないかもしれない。


―――ノアに頑張ってもらうしかないかなぁ。水魔法使いの私が攻撃力を磨いても効率が悪い気がするし。明らかに防御と回復の方が成長が早いんだよね。




「トマトマトは、植物ですが一応魔獣に分類されるので、伯爵家の敷地内にはないですね。バリーフは薬草園に植えてあると思います。今日はバリーフを採集しましょう。」



またしても屋敷内の、しかも薬草園で採集するだけでミッションクリアしてしまう。

伯爵家バンザイだ。


―――ま、本当は自分の足で1本1本捜し歩くのも楽しそうなんだけどね。


 それはもっとレベルが上がって、両親から屋敷の外へ出かる許可が出てからのお楽しみとしておく。



バリーフは栄養があって食べたら体力が回復するハーブだ。



―――今日の夕飯はバリーフソースをたっぷりとかけたチキンソテーをリクエストしよっと。


トマトマトというのは植物系の魔獣で、名前の通りトマトそっくりだ。食べようと近づいてきた小動物を逆に食べてしまうという。


人間も、子供などが知らずに近づくと手を嚙み千切られたりするので要注意だ。


でも隙を見て茎をスパッと切ってしまえば後は手も足も出せないただのトマト。魔獣の森の中の貴重な食料として、冒険者や旅人に重宝されている。



星のかけらとは、妖精の落とし物と言われている魔力の欠片だ。

これはどこに行けばあるという物ではなく、たまーに落ちている事がある。

見つけた人は幸せになれると言われていて、拾って大事にしておくものだ。

売ることも出来るしいざという時にちょっとだけ魔法を使う事も出来る。本当に幸運の石だろう。

実はシアも今まで1度だけ見つけたことがあり、大事に机の引き出しに仕舞っている。





「ねえ、セオ。そろそろ街に行けないかな。街の男の子の無実を晴らすっていうミッションが気になって。」

「そうですね。ただ街に買い物やお食事をしに行くと言うことなら、可能ではないでしょうか。もちろん護衛を連れて行くことになりますが。」

「私もノアも、その辺の護衛と同じくらい強くなったんでしょ?私たちだけで大丈夫じゃない?」



「護衛は、連れて、行きましょう。」


やけにワザとらしい微笑みを浮かべながらハッキリと区切って言われてしまった。

もうだいぶ丈夫になったというのに、セオは前と変わらず過保護のままだ。


「もうすぐお母様の誕生日だ。お母様に内緒でプレゼントを選びに行きたいとお父様に頼めば、僕たちだけで街へ行けるんじゃないかな。・・・もちろん護衛は連れてだけど。」


そう。最近私たちがお庭でピクニックをしていると、お母様が一緒に付いてきたがる事があるのだ。

お母様にお茶会の予定がない日など、何度か一緒にただのピクニックをしている。

それはそれで楽しいし、ノアも少し嬉しそうだから良いのだけれど。


街へ買い物に行きたいなどと言ったらお母様も一緒に、と言う事になるだろう。


そこでお父様に先に頼んでしまおうという訳か。



「それ良い。ノアナイス!」





数日後、シアたちは無事街へ出かける事が出来た。

伯爵領で一番栄えている街。


つまりは国の東部で一番栄えている街とあって、かなりの規模だ。


治安も良いらしくて、整備されていてとても綺麗だ。


「いくら治安が良い方だとは言え、日々ちょっとした犯罪は発生しています。絶対に私や護衛から離れないで下さいね。」


実はお忍びで行ってみたかったのだが、セオに「無理に決まっているでしょう。」と却下されてしまった。

まあシア達はどう見ても良いところのお坊ちゃんお嬢ちゃんとバレバレなので、隠れて護衛する手間が無駄とのことだ。

開き直って、伯爵家の紋入りの馬車で乗り付けて護衛を引き連れて行くことにする。



―――まあこんなお坊ちゃん、庶民と言うのが無理よね・・・。


馬車の中、シアは隣に座るノアを見る。


「・・・・・?」



シアがじろじろ見るのでノアが何だ?というように小首をかしげる。

サラサラの金髪がハラリと落ちた。

アクアマリンのように透き通った、淡い緑がかった水色の瞳は、正に宝石のよう。


―――こりゃ無理だ。


そんな風に思っているシアも、髪がサラサラかフワフワなだけの違いで、後は全く同じような顔をしている自覚がない。


2人のその様子を見ていたセオは、これは気を抜けないなと気合を入れなおすのだった。

頼んだぞとばかりに、膝に座るクロエを力強く撫でながら。









街へ着くと、早速母親へのプレゼントを選んでしまうことにする。

ミッションが始まってしまっては、プレゼントが買えなくなってしまうかもしれないからだ。

最近人気だという雑貨店に直接馬車で乗り付ける。

馬車は他の場所に移動して待機してもらって、ここからは直接足で歩いて街を散策する予定だ。



「わぁー、素敵。」


店の中には、様々な可愛い小物がいっぱいだった。

入ってパッと一通り眺めただけで、目立つように飾られたおしゃれな帽子や日傘が目に入る。


更に棚に近づいてみると、細かな素敵なペンや髪飾りなど。

あらゆる物が所狭しと並べられている。


高級店なので貴族らしい人の姿もちらほらいるが、普通に庶民も見に来ている。



そしてこの店の店長らしき人が、近づいてきた。初老の紳士で、さすがの貫禄がある。


「お父様からご連絡いただいております。ノア様、シア様、本日はご来店ありがとうございます。精いっぱい務めさせていただきますので、何でもご用命ください。」

「ありがとう。今日はお母様のプレゼントを買いに来たんだ。何かおすすめの物はある?」


迫力ある店長さんの挨拶に、ノアが堂々とした態度で応えている。

8歳といえ、貴族の跡取り。


―――やっぱり伯爵家の跡取りとして日々頑張っているだけあるなー。


「はい。今ご婦人に人気の物ですと・・・・。」


そう言いながら店長さんがノアを案内するが、シアは一度自由に店内を全部見てみたくなり、スッとその場を離れた。



―――ゴメン!でも案内されたものだけじゃなくて、店の中には色んな珍しいものや綺麗な物が溢れているんだもん。全部自由に見たい。




店の中は警備が万全のはずだし、大丈夫だろう。


シアが離れたのに気づいたセオが、一瞬だけ迷った素振りをして、護衛に目配せをしてノアに付かせると、一緒に来てくれる。



「シア様。自由に見て回るのは構いませんから、一声かけて下さい。」

「うん、ゴメンなさい。ありがとうセオ。」


すぐに目に入ったのは髪飾りなどの装飾品の棚だった。若い子向けのようでお母様が付けるには可愛らしすぎる。


でもビーズや宝石を組み合わせてお花や蝶々の形にした髪飾りは、見ているだけでとても楽しい。


「みてこのお花!可愛い。良いなぁ。」


お母様へのプレゼント用のお金以外にも、シアは普段からお小遣いをもらっていた。

使う機会などそうそうないので、貯まる一方だ。


しかもシアには例の、前の世界で稼いだお金もある。

―――自分で買ってしまおうか。



「本当だ。シア様にとても似合いそうですね。」

「うん!他にも色々見てみる。」



「これは何?」

「恐らくぺナレ地方の細工ですね。このサイズはアンクレットでしょう。」


やっぱりお買い物は楽しい。

始めて見るようなものも多くて、見ているだけでワクワクする。


「これは?」

「これは魔石で作られたお守りですね。質が良さそうだ。」


魔石とは、火・水・風・地・闇・光の魔力が自然と集まって力を帯びた石の事だ。

特に自分の魔力と相性の良い魔石は、持っていると持ち主を守ってくれることがある。


闇と光の魔石は生まれにくくて貴重なのでさすがにないようだが、その他は質の良い石らしい。

バッグなどに付けられるように、綺麗な鎖が付けられたチャームになっている。


「これ、見せてもらえませんか?」


店長さんとは別に、付いてきてくれていた女性の店員さんに声を掛ける。

それまで黙って自由に見せてくれていた感じの良い店員さんはニコリと笑うとさっそく棚から取り出して並べてくれる。



―――ノアは風。セオは地。私は水。お父様は風で、お母様は水。お姉さまも水。


うん。


「あの、風のお守りを2個、地を1個。水のお守りを3個下さい!」

「かしこまりました。ありがとうございます。」


迷ったのは一瞬だった。


自分で冒険に出られれば魔石などどんどん採れるだろうが、いつになるか分からないし。

それにこれはとても綺麗にカッティングされていて装飾品としてもオシャレだ。買って損はないだろう。



どの魔石か分かるように、包装紙の色を変えてもらうように頼む。



包んでもらっている間、さてノアの方はと見てみると、こちらを見て早く来いといった感じなので、急いで近づいていく。


「もう何か買ったのか?お母様へのプレゼント、別々に買う?」

「いいえ、ただのお土産です。お母様への誕生日プレゼントは一緒に買いましょう。」


ノアが見ていたのは、大人の女性用のシンプルな髪飾りやブローチなどだった。

普段使いができそうだし、お母様に似合いそうだ。


「これ素敵!」

「うん。僕もそれがお母様に似合いそうだなと思っていた。」



深い緑の石のブローチ。

お母様の濃いブラウンの瞳と髪に似合うだろう。




そうして大満足の買い物ができ、店を出る事となった。






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