第7話 ミンタ草
次の日、快晴なり。
今日も日向ぼっこしたい!セオも一緒が良いもん!
朝食の席で、シア必殺の可愛い我儘を発動し、セオと一緒に庭園を散策できることになった。
セオによると、うちの庭にもミンタ草の自生しているところがあるらしい。
ミンタ草は丈夫でどこにでも生えるが、不思議と人が育てようとしても育たない。
勝手に生えているのをそのままにしておいて、疲れた時などに採取して回復ポーションにして飲むのが、庶民にも貴族にもお馴染みなのだそうだ。
セオと庭へ行くことが決まった時のノアは、もの凄く不満そうな顔をしていた。
ノアは家庭教師の先生が来るので、一緒には散策出来ないらしい。
シアはまだまだ小さいし、病弱だしという事で、殆どフリーだ。
―――ごめんねノア。今度時間ある時に誘うからねー。
料理長に頼んで、サンドイッチと果実水を用意してもらう。
果実水は疲れやすいシアの為に、ミンタ草と混ぜたスーッとするオリジナルブレンドだ。
今日はセオが一緒なので、護衛が離れて付いてくるだけで見た目は少人数。
クロエが防音結界を張ってくれているので会話が漏れる心配はないらしい。
クロエ万能!って思ったけど。セオが従僕・執事に役立ちそうな能力を中心に特訓しているのだそうだ。
―――元々の能力だけじゃなくて、努力の成果なのね。
クロエとモモちゃんは早速仲良くなったのか、2匹でじゃれ合いながら付いてくる。
「ねえセオ。庭とか屋敷にいたずらネズミはいないの?いたら駆除すれば、そっちのミッションもクリア出来るのだけど。」
「いたずらネズミなど伯爵家にいません・・・・と、言いたいところですが、どこにでもいますよ。庭から完全に除去するのは不可能ですから。でも今のお嬢様の体力では、ネズミにかじられただけで死にかねませんので、まずはミンタ草の採取からにいたしましょう。」
ネズミにかじられただけで死ぬ体力・・・否定できない。もう7歳の子どもが、ただ庭にでるだけで、ぞろぞろと護衛が付いて来るのもそれが原因だ。
それにしても辺境伯の敷地は広い。なんと庭の中に小川もあるし池もある。
シアの足だと庭の散歩というよりも、ちょっとしたハイキングのようだった。
体力をつけるのも目的の内なので、自分の足でゆっくりだが進んでいく。
セオは、ごつごつとした石畳を歩くときなどは時々手を貸してくれながら、歩調を合わせてゆっくりと歩いてくれた。
途中少し躓いてしまった時も、危なげなく抱きとめてくれる。
「ほら。気を付けてくださいお嬢様。」
そう言って頭をポンポンしてくれる。
―――うっ、何か悔しいわ。前世の私のほうが、ずっと年上なのに。
池の近くまでいくと、様々な植物が生い茂っている。
手入れはされているだろうが、人の手が感じられない、自然な雰囲気と温かさを残した、素敵な池だった。
そういう風に計算して、手入れされているんだろう。
「この辺りに沢山生えています。まずは休憩されますか?それとも・・・・。」
「さっそく採ってしまうわ!」
シアの身体は疲れも感じていたけれど、それよりも初ミッションをクリアしたい気持ちが勝った。
寝る間も惜しんでゲームをしていた廃ゲーマーの心は健在よ!
色鮮やかな緑の、丸みを帯びた柔らかい葉の草がミンタ草。
―――うわーゲームで良く見た葉っぱがそのまんま。
ゲームの画面で見た者が、現実の物として目の前にあるのが、不思議な気分だった。
「根は残しておくとまた生えてきます。根から抜いても、土から離れたらどのみちすぐに枯れはじめるので、根を残して、茎から綺麗に切ってしまいましょう。」
セオがお手本を見せてくれる。
意外にも、7歳の令嬢にナイフを持たせてくれる。そういうところは日本よりも緩いのかもしれない。
あっという間に、ミンタ草は5本集まった。
「・・・・・?」
集めたは良いけれど、どうやったらミッションをクリアすることになるのだろう?
5本持った瞬間クリアになるものだと思っていたが、特に変化がない。
―――うーん。ミッションクリア!!なんちゃって。
そう心の中で念じた瞬間、シアの前に再びステータス画面が現れて、ミッションクリアの通知がきた。
―――あら。これでオッケーなのね。
最初なので、ミンタ草を5本集めただけでレベルが2に、魔力量・体力も2に上がった。
まだまだ弱いけど、いきなり今までの倍と考えたら、すごいことだろう。
「どうされたんですか?」
先ほどからミンタ草を見つめて動かないシアに、セオが声を掛ける。
「うん。ミンタ草5本集めても何もならないから、心の中で『ミッションクリア!』って思ったら、クリアになったの。」
セオも集めたミンタ草を手に、何か考え込むような仕草をすると。
「物は試しなので、私もやってみますね。『ミッションクリア!』」
「・・・・・・!?」
「どう?何か変わった?」
「ほんの少しですが、何かが変わった気がします。あの、このミッションは、一回しかできないのですか?」
なんと意外なことに、ミッションはシア以外の人にもレベル上げとして有効なのかもしれない。
「これはいつでもいつまでも出来るミッションだよ。ほんの少ししかレベルアップしないから、そのうちやる意味なくなるけど。」
「そうですか、ではシア様。意味がなくなるまでやりましょう。」
「気が合うわねセオ。私もそう思っていたところよ。」
それから私たちは、ひたすらミンタ草をかき集めてミッションクリアしていく単純作業をし続けたのだった。
「そろそろお昼にしましょうか。」
「さんせーい。」
夢中で周辺のミンタ草を刈りつくしてしまった。
大量のミンタ草は、全て回復ポーションにするべく、護衛の一人が先に持って帰ってくれた。
少し早いがちょうどお昼時だ。
勝手にそこら辺で遊んでいたモモちゃんたちも、ちゃっかり戻って来ていそいそと敷物の上でお昼ご飯を待っている。
美味しそうなサンドイッチを準備してくれているセオを眺めながら、私は少し考えることがあった。
「どうぞ。・・・何かお考え事ですか?」
「あー、うん。セオって、どのくらいレベル上がった?」
「レベルというのは私には良く分かりませんが、多分魔力量も体力も2倍以上にはなったと思います。魔力量は本来生涯殆ど変わらないと言われていますから、これはすごい事ですよ。」
「・・だよね。私は最初が低かったから、5倍くらいになってる。」
これからもシアは、どんどんミッションをクリアしていく予定だった。
だってあれだけ望んでいたゲームの世界に、本当に転生することができたのだから。
ミッションをやらないなんてことは、ありえない。
でも7歳の令嬢では出来る事に限りがあるので、これからもセオに協力してもらうことになるだろう。
そうすると、セオとシアだけどんどんレベルが上がっていくことになる。
「・・・・ねえ。これからノアも一緒にミッション誘っても良い?」
まだ仲直りしたばかりだけど、昨日堪えきれない悔し涙を流していたノアを思いだす。
シアが遊んでいる間、ノアが年齢に似合わないほど努力して勉強や魔法の特訓などしている事を知っている。
ノアが必死で頑張っている間に、モモちゃん達と散歩して、草刈って、ピクニックしてレベルが5倍になるというのは、さすがに気が引けた。
それと・・・・ここは東の辺境。
ゲームの中でもラスボス級の闇のドラゴンが住む地域。
ノアだってレベルを上げておいて損はないだろう。
「良いですね。是非、次からはノア様もお誘いしましょう。」
セオはとても優しい、嬉しそうな笑顔で賛成してくれたのだった。
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