第2話 ハルセカ

目を開けたら高級そうなベットの上に寝ていた。

なんだっけこれ・・・天蓋?っていうの?

滑らかな生地のレースで覆われている、物語に出てくるお姫様のベッドだ。

柱には繊細な細工。

見た事ないからこそ分かる。これは相当高い。



「・・・転生きた?・・・・・!?」

自分の声に驚く。

声が高い。

子ども時代に転生パターンかこれ!



「・・・・シア様!」

その時である。誰かに声を掛けられた。


私の名前だよね?

誰かがいることに今まで気が付かなかった。


力が入らなくて起き上がることが出来ない。

なんとか少しだけ顔の方向を変えてその声の人物を探す。


「シア様お目覚めになられましたか・・・・・。今旦那様にご報告を!いやその前に少しでも水分を・・・。」

言われて気が付いたが喉がカラカラだった。

身体がポワポワして感覚が鈍い。それなのに関節の節々が痛かった。高熱の時の症状だ。


「失礼いたします。」

私の事をシアと呼んだ人物は、漫画とかによくでてくる執事みたいな恰好をしていた。

姿勢が良くて、ハキハキしていて、いかにも仕事が出来そう。


その彼が背中に腕を差し入れて、ほんの少し体を抱き起こしてくれる。

水差しを口にあてて、少しずつ流しいれてくれる。


ただの水ではないようで、ミントに似た香りがした。


「回復ポーションです。これでもう安心ですよ。」


執事のような彼の、自分を安心させるような優しい微笑みが逆に怖くなる。


これ、私メッチャ重症だったんじゃない?


その液体は、今まで飲んだどんなものよりも美味しく、体に吸い込まれるようで、夢中で飲んでしまった。

そして気が付けば、また深い眠りに落ちていた。



これ絶対、私光の勇者じゃないな・・・・。


あーあ。令嬢転生ものか・・・・・・・・・・・。


夢うつつにそんな事を考えながら。






*****






それからも何日か、寝たり意識が戻ったりを繰り返した。

その間に、何度も家族が見舞いに来てくれる。家族仲が良いみたいだ、良かった。




この微睡の日々で、体の持ち主の記憶が少しずつ戻ってきた。


シア・イーストランド伯爵令嬢、もうすぐ7歳。それが私だった。


シアが消えたわけではない。

シアが生まれてからずっと、中に私がいたような、今でも私の中にシアがいるような、リンクしているような、どうなっているのか分からないが不思議な感覚だ。

高熱の中、ゆっくりと2人が混ざり合っていくような気がした。

とにかく私は数野すみれであり、シア・イーストランドだ。


優しく若い両親に、年の離れた姉。・・・姉はなんと王都の学園から私のお見舞いに駆け付けてくれたらしい。


・・・・絶対私、危篤レベルだったでしょ・・・・?

そうなんでしょ??


そして両親に連れられてしぶしぶお見舞いにやってきた1歳上の兄。

コイツは記憶によればちょっと私にイジワルだ。

シアはこの兄が大っ嫌いだったんだけど・・・・。






大人の目線でみてみれば、なんていうか、親の見ていないところで、小突いて逃げる・・・とか?

大事なオモチャ隠す・・・とか?


何かカワイイな!

8歳だもんな!!


しぶしぶ来ましたみたいな顔しているけど私が生きていて安心したのかちょっと涙ぐんでいて目の端が赤いよカワイイな!



それにしてもイーストランド伯爵かぁ。全然聞いたことない。やっぱり数野すみれの知らない世界のようだ。




この国の名前は何ていうのだろう?

7歳児のせいか知識が曖昧だ。


とりあえず『遥かな世界』の世界じゃなさそうだ。誰も精霊獣連れていないし。



『遥かな世界』、通称『ハルセカ』の世界だったら誰か一人くらい精霊獣連れているだろうから。



ちなみに精霊獣とは、ハルセカの人気要素の一つ。なんと相棒ポケモ・・・じゃなくて相棒精霊獣と契約することができるのだ。


ハルセカの世界には妖精界というものが存在する。

その妖精界に住んでいる人型羽根ありの生物?が妖精で、動物型なのが精霊獣と呼ばれている。

精獣は妖精界から召喚しても良いし、その辺でバッタリ出会ったりもする。

1度契約すると、大体変更が効かない。



大体と言うのは・・・実はゲームでは高額課金すれば変更できるのだけど。まあやる人は稀だ。

どんな精霊獣でも、一度契約すると愛着湧くからなー。

契約ぶつ切りなんて出来ない!


その辺で出会う精霊獣は運頼みでレベルは様々。

召喚するとその人のレベルに会った精霊獣が出てくるので、出来るだけレベルを上げてから召喚する方法がメジャーだった。


ちなみに私のゲームでの契約精霊獣は・・・・フェネックだった。

あのちっちゃい狐みたいな超可愛いヤツ!




いや・・・可愛くてさ。

ゲーム始めてすぐにその辺にいるの見つけて。可愛さに負けて餌あげちゃったら懐いて付いてきて。

そうしたらまた餌あげて?飼ってるみたいになってくるでしょ?


本当はドラゴンとかグリフォン、フェンリルとかのS級を狙いたかったんだけど。


もうこの子以外に考えられないなーってなって、契約してしまった。

あんな小動物絶対レベル低いだろうけど。


・・・・でもフェネックって、ネットで調べても情報全く出てこなかったんだよね。

レアはレアだったのかも。




日に日に体調が良くなっていく。

「ねえ、暇だから何か本でも持ってきてよ、セオ。」


最初に目が覚めた時に私の世話をしてくれていたのは、セオと言って執事補佐――従僕というらしい。

良く見ればまだすごく若い。

執事は別にベテランの年配の人がいて、何度か見舞いにもきてくれたが、私の看病はセオが主にやってくれたんだって。


本当ならメイドや従者が身の回りの世話をするものだろうけど、私の状態が目を離せないから、信頼あるセオが付きっきりだったと。


・・・・良く生き残ったな私。


セオは大分体調が良くなった今でも付きっきりでいてくれている。

ちなみにスラリとした長身の美形で目の保養になる。

短すぎないブラウンの髪の毛がさらりと整えられている。



「・・・そうですね。もう大丈夫でしょう。最初は少しずつですよ。」

「うん!じゃあ国の仕組みとかが分かる本とか、歴史系の本をお願い!」

「・・・・国の仕組み・・・ですか?」

「うん!」


セオが怪訝そうな顔をしている。

7歳の子が急にそんなこと言い始めたらビックリするだろう。

でも前の世界でだって。5歳で何千ピースのパズルを完成させるスーパーキッズもいたし、電車の名前を全ていえるような子供もゴロゴロいた。


もうシアも家庭教師による教育も始まっている年齢。

国の仕組みやら歴史好きくらいなら、セーフな範囲だろう。


「病み上がりですし、いつものおとぎ話にしてはどうですか?」

「国の仕組みか歴史の本!周辺国との関係でも良いよ!」


「・・・・・・・かしこまりました。」





セオが持ってきてくれたのは、子ども向けに簡単に国の説明をしている理想通りの本だった。

よくこんな丁度良い本があったわね。

きっとこの世界の子どもがこの国のことを学ぶときに使う本なのだろう。





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『カトレア王国とは?』


カトレア王国は国のほとんどが海に囲まれた半島国家です。

自然豊かで、妖精や精霊獣が満ち溢れている。


東の山岳地帯には何千年も前からドラゴンが住んでいるので、近づいてはいけない。


北の森は、長年敵からの侵攻を防いでくれています。

森には妖精や精霊獣も沢山住んでいます。


だから大切に守っていきましょう。


南の海に行けば運が良ければ人魚に出会えるかも。

魔獣のセイレーンと間違わないように気を付けて。



王家の祖先は光の勇者だったと言われているため、周辺国からも尊敬されているんだ。


この国で生活していたら、いつか君も生涯を共にする精霊獣に出会えるかもしれないよ。


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「・・・・・・・・・・・・・・ハ」

「は?」

「ハルセカ!・・・・きたーーーーーーーーー!!!」









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