遥かな世界の物語

kae

第1章

第1話 乙女ゲームに転生したい

火の王子

水の宰相令息

風の魔術師

地の賢者

闇の暗殺者


あなたは誰と恋をする?


相棒精霊獣と成長し、仲間と共に世界を救おう!


『乙女系育成ゲーム 遥かな世界~KIZUNA~』







*****






「あ~このゲームに転生したいな~。」



数野すみれ25歳。

職業ニート。


ついこの前まで会社員だったが、広告が気になって始めたアプリゲームにハマりすぎ、一日中やりたいがために辞職した。



・・・・っていうのはまあ自分への言い訳で。

本当はパワハラ上司に増え続ける残業時間、毎日うんざりするくらい殺伐として満員電車が、イヤでイヤで逃げ出したんだ。


仕事以外の事が段々できなくなっていって、食事も美味しくないし、友達からのメールに返事もしなくなっていた。

ほんの一文「その日は仕事で行けない」と、送る気力さえなく、そのせいで友人を何人も失った。


アプリゲームにハマって仕事辞める方がやばいでしょって? 

私にとってはそうではない。

会社が辛くて逃げだしたっていう現実の方が目をそらしたいんだ。


ゲームにハマって辞めたって方が、何かネタっぽいっていうか。

仕方のない奴だなー、みたいな?


って、誰にも聞かれてないけど。





学生時代は楽しかったな。

小さいころからやっていたバスケでは大体レギュラー取れてて、その時その時で彼氏もいた。

頭の出来は普通だったけど、バスケに集中してましたって言ったら就活も余裕だった。


私の代は売り手市場だったし、大手企業からいくつもの内定を勝ち取った。

その中で一番名前が知れていて、一番自慢できそうな会社に入った事が間違いだった。


頑張っても頑張っても怒鳴られる日々。

ミスを押し付けられるし言う事違うしで最低の上司。



同期達は楽しそうに活き活き働いている。


なんで私の配属された部署だけこんななの?

所詮はスポーツ枠での採用。

期待されてない奴が回されるゴミ部署だったってことなのかな。





・・・・そんな事よりゲームだゲーム。


夜遅すぎて余裕で座れる仕事帰りの電車の中で、ウザいくらいに出てくるゲーム広告を出来心でダウンロードした。

なぜその時乙女系ゲームをダウンロードしたんだか。


・・・・何かその時にはもうパズル系とか頭使いたくなくて、優し気に微笑む王子の絵に吸い込まれるようにタップしてしまったんだ。



そしたらハマった。

ちなみに意外にもこのゲームは男性主人公か女性主人公かを選ぶことができた。


え、乙女ゲームで男性主人公?BL?って思ったけど、男性主人公を選ぶと最終的に一番好感度の高い攻略キャラの大親友エンドになるらしかった。



男主人公なら光の勇者。女主人公なら光の聖女。


私が選んだのは男性主人公だった。

いやもう恋愛する気力もなかったのよ。

癒しだけを求めていた。



しかしこれだけハマっているにも関わらず、実は私はまだ誰とのルートもゲームをクリアしていない。

いざゲームを始めてみれば、王子とか令息だとかの好感度なんてどうでも良くなってしまった。


私がハマったのは主に自分と契約精霊獣を育成してのミッションクリアとか、レベル上げとか、金稼ぎとか。



この世界では薬草や鉱物を採ったり錬金したり、事業を始めたり農業をしたり、商品を仕入れて売るなり・・色んな方法で金を稼ぐことができる。

私は主に投資によって、今このゲームのプレーヤーの中で1・2を争う大富豪となっている。



あああああああああああああーーーーーーー楽しいぃぃぃ!!!!!

このゲームの中で私は無敵だった。


妖精の女の子が奴隷商人に囚われているのを、「解放したいなら幻の薬草をとってくるんだな・・・それが無理なら3億払ってもらいましょう。」っていうミッションで3億ポンと払ってやった時は気分爽快だった。


って実はそのミッション普通にやりたかったんだけど。

札束で解決したら面白くね?って思って一発ネタみたいに終わらせて実はちょっと後悔している。

普通にミッションやればよかった。



そういえば放置してる闇のドラゴンそろそろやばいわ。

光の勇者か光の聖女にしか解決出来ないらしくて、ドラゴンが住んでいる山岳地帯が日に日に闇が濃くなってドロドロしている。


このミッション、楽しそうだけど解決するには仲間がいるみたいなんだよ。

攻略対象のうち2人は連れて行かなきゃいけないの。

連れて行くには好感度50%以上なきゃいけないの。


仕方ない。そろそろ攻略対象との仲を深めるか。

・・・・最低限で良いや。





昼夜なんて関係ない。

腹が減ったらネットスーパーで頼んだ冷凍食品食べて、眠くなったら寝る。

あとはずーーーーーーっとゲームの世界の中。


私にとっての現実は、明らかにこの小さな四角い機械の中にある。

家の外の世界の現実の方が、夢の世界の話のようだ。


本当に転生できたら良いのに。


まずい、段々意識が薄れてきた。

もう今日は限界かなー。

ずっとこの世界にいられたら良いのに。


寝て起きたら転生してたりしないかな。


転生・・・・・・でき・・・た・・・・・・・ら・・・・・







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