第3話 精霊獣といじわる兄さま

「ハルセカ・・・とは?」

「気にしないで。」


訝しんでいるセオには悪いけど、それどころではないの。私はこの運命を、天に感謝するのに忙しいから。


貴族令嬢なんぞに転生したので、てっきり令嬢ものかと思っていたわ。

遥かな世界の中にも普通に貴族はいたものね。


あ、そういえば。




「ねえ、セオって精霊獣はいるの?いるんでしょ!?どこにいるの!?何で今いないの!?」

「何でと言われましても、病人のお部屋ですし。今は大人しく妖精界にいるようですよ。」

「もう元気だから。見せて、お願い!」



ちなみに私の容姿は正に貴族令嬢といった感じで中々可愛らしいのだ。

金のフワフワの巻き毛に大きな瞳。

そして必殺の子どものウルウル上目遣いお願い!


いつもクールなセオも、「仕方ないですね・・・」などとまんざらでもない様子だ。



やった!



「クロエ、おいで。」

セオの呼びかけに、何もない空中にいきなり小さな光が現れた。

その光は徐々に大きくなっていき、バスケットボールくらいの大きさになったかと思いった次の瞬間、スルリと何かが抜け出てきた。


「キャー!可愛い♡」


それは見事なシルバーフォックスだった。

艶々の毛皮にスラリとした体形。

・・・契約主と何となく印象が似るのかしら?

最高に素敵だわ!

クロエというと女の子だろうか。


「触っても良いですか?」

セオとクロエの両方にと思って聞くと、クロエは面倒臭そうにフンッと横を向いてしまった。



それをセオが優しく抱きかかえて、ベッドまで連れてきてくれる。


「どうぞ。優しく撫でてあげてください。」

「・・・・・あったかい。」


当然だがゲームでは感じられなかった暖かさや重さに感動する。

毛皮に触れると触り心地は極上だ。

実家で飼っていた猫の事を思い出し、喜びそうな耳の後ろや尻尾の付け根などを最初は優しく撫でてみる。


気に入ったのか、クロエが段々脱力してきた様子を見て、セオも手を離した。

気持ち良さそうなので、少し力を入れて撫でてみると、お礼とばかりに頭をスリスリとこすりつけてくれる。


「か・・・可愛い。」

「シアお嬢様、撫でるのがお上手ですね。クロエが女の子に懐くのはとても珍しいです。」


最後には大胆に首の上の皮をグリグリ摘まんで撫でると、もうクロエはメロメロになっている。

見たか!実家でゴッドハンドと呼ばれていたこの猫なで技術を。





それからは、セオにお願いして、常にクロエを出していてもらうことにした。

とは言え基本的にはクロエの自由にしているみたいで、気が付いたら外や妖精界に遊びに行っていることもある。

でもセオの近くが一番好きみたいで、結構部屋にいてくれた。


残り少ないベッドの上生活での楽しみとなった。






*****







「おい!お前調子に乗るなよ!!」


やっとお医者様とセオから外に出るお許しが出て、屋敷の庭園で日向ぼっこをしている時だった。

そんな可愛い子供の声が掛けられたのは。



シアの兄、ノア。

ノア・イーストランドだ。


そういえば名前から何となくそんな気がしていたが、地図を見てみるとやっぱり東の辺境伯だった。

ハルセカのゲームで、東の渓谷の闇の竜に困っている東の辺境伯いたな・・・。


あれか。


本来なら光の勇者か光の聖女であるプレイヤーが滞在して、闇の竜ミッションを頼まれるのがこの屋敷のはずだ。

闇の竜放置していた私のゲームでは、この屋敷どうなっていたんだろう。

・・・・なんだか申し訳ないわ。


「おい!聞いているのか!!」

まだ声変わりしていないボーイソプラノはむしろ女の子の声よりも高くて可愛らしい。

顔はシアにそっくりでクリックリのお目目。

金髪なのも一緒だが、シアはフワフワな巻き毛に対して、ノアはサラサラのストレートの髪を顎くらいまで伸ばして切りそろえている。可愛い。


「おい、とか、お前、という人物はいないみたいですー」


私がそう言うと、ノアは相当ビックリしているようだった。

イジワルしてきたのが伯爵令息なので、どうしたものかとオロオロしていたメイド達も、驚いた様子だった。


シアはいつもは1歳年上のこの兄の事を、怖がって震えていたからね。

言い返すなんて思いもしなかったんだろう。


セオはさすがに今日は通常業務を行っていてこの場にはいない。

しかし代わりとばかりに、クロエを貸してくれている。

クロエは今、庭に敷いた敷物の上、私の隣に気持ちよさそうに寝そべっている。



「な・・・な・・・・・!!!!」


お兄様は言葉が出ないようだ。

じゃあこっちからいくよ?


「お兄様。人を『おい』呼ばわりするのは止めて下さい。止めていただけないなら、お父様に報告します!」

「な・・・や、止めろ!ヒキョウだぞ!」

「卑怯?お父様に言われたら困る様な事をしていたんですか?」


パワハラ上司には給料を握られ逆らえなかったが、前世では常に陽キャグループにいたのでこういうのには慣れている。


この兄みたいに優等生系で、裏で虐めてくるタイプは先生や親に言いつけない相手を選んでいるんだよねー。

騒ぎにしたくないからって大人しく耐えていたら、コイツは言いつけないからとまた虐められるループになっていく。


こういうのはさっさと言いつけるよ私!

騒ぎにするのは言いつける側ではない。

イジメた時点で既に騒ぎは始まっているのよ!!


「う・・・え・・・・。」

「お兄様!今までの事、謝ってください!」



「う・・・・・うえぇぇぇ~~~~~ん!」


ヤバい。泣かせてしまった。8歳児相手にちょっとやりすぎたかな。


・・・ううん。これくらいは当然のことだ。

なんならシアはこれ以上酷い言葉を言われたこともある。

そしてシアは悲しくても泣かずに堪えていた。


「ちょっと言い返されたくらいで泣かないで下さい。」


「うわ~~~~~~~ん!!」


増々泣いてしまったノアは、泣き止むキッカケが掴めないのかそれから優に10分以上泣き続けた。

その間私は慰めもしないでお茶を飲んで静観していたのだった。





慰め待ちか?と思ったけど、どうやらノアは自力で泣き止んだ。

良かった。慰め待ちの子って嫌いなんだよね。

慰めれば慰めるほど泣くようになるし。ウザい。

その間他の事出来なくなるし。


でもノアは、本当に我慢できずに泣いたって感じだった。



「・・・・・・・ごめんなさい。」


泣き止んだノアは、小さな声で、しかし意を決したかのような顔で謝ってくれた。

「うん。いいよ。」

素直に謝ってくれたので。これから反省してやめるなら良いよ。



大人から見れば可愛い子供のいたずらでもね。

シアはとっても嫌がっていたんだからね!





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