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 大人たちはしょっちゅう嘆いたり怒ったりしていたが、やえは何となく、普通であれば決してお目にかかることのない大転変の気配に、胸がわくわくと昂揚しないでもなかった。

 「錦切れ」「芋」と呼ばれる連中がどっと入ってきたせいで食べ物が手に入らなくなり食事が貧しくなったのには閉口したが、父も母もサンもいて、長屋の九尺二間がある限り悲惨ではなかった。

 長屋からぽつぽつと人が消えていく中、弥吉は千駄ヶ谷の伯父のもとに疎開しようとはせずに頑張っていたが、辻斬りが横行し始めようやくほぞを固めた。

 江戸では幕府方と官軍方の睨み合いが続いている。

 彰義隊は旧幕の肝煎りで金が潤沢なのに任せどんどん若い者を引っ張り込み、上野のお寺を牙城として今や徳川がふたたび天下を獲らんばかりの勢いだそうである。

 自分の家以外で寝泊まりするのはやえにとっては初めてのことでもあったし、いつもと違う生活への興奮は相変わらず続いていたのだったが、なぜか胸の奥底に不安が黒い染みとなって、徐々に広がっていくのを感じてもいた。

 移ってからしばらくの後、朝から夕方まで、どうん、どうん、と胸にこたえる音が雨の中聴こえてきた日があった。

 大人たちは何も話してくれなかったが、それが、自分の生まれ育った場所で鳴る戦の音であり、今までの混沌を精算する破裂と崩壊の音だということをやえは直感で理解した。

 その翌日現場を見に行った弥吉が、帰ってきて、町が焼かれたことを語ったのだった。

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