第55話 天元突破




 11/10。

 少しだけ時は遡る。

 凍野家にダンジョン五階層で絶賛修行中だった。


 時系列的には分身が絶賛ニャメに拷問されている最中で、このままでは対抗できないと分かったからである。

 拷問に飽きた時点で自宅襲撃に来る可能性が高いので、そんなに時間的な余裕はない。分身が頑張って苦しむ演技でニャメの気を引いてはいるが、演技のバリエーションにも限界はある。


 それにしても肉体的苦痛を伴なう拷問など、1000回以上死んでる俺に何をやっているのだろう。

 初々しい反応を見たければ人を選ぶべきだ。

 そこからもあいつは表面的な事にしか感心が無く、人間の細かな情動について興味もないのだと分かる。


 自分が起こした行為にリアクションが返ってくれば満足なんだろう。

 その程度の感情の機微しかわからないなら、アニメ観賞で満足すればいいのに。


 起きない未来を想像していても仕方がない。


 敵対関係は明確なので、理想的にはダンジョンに封印したい。分身を一体楽園に送り込んで、ミトラスに相談しているが、いずれにせよ俺自身が絶対的に強くなるのが絶対条件だろう。


 修行自体はミトラ教本部の楽園で、神の襲撃の可能性を知ったあとから続けていて、既に全てのスキルLvは9に達している。チュートリアルダンジョンをクリアした時の報酬が如何様(いかさま)というスキルで、効果が以下の通り。


 如何様 …… 不均衡な取引をできる。Lvに応じて取引できる項目が増える。


 本来なら釣り合わないものを支払う事で、色々なものを得られるというスキル。このスキルで、1,000億相当の経験値を支払う事で所持スキルのLvを上げたのだ。


 しかし、その上でも尚、ニャメには届かないであろうという確信がある。


 正直なところ、これ以上強くなることには抵抗感が強い。

 いけるだろうな、という確信はあるのだが、これ以上は人間を止めることに等しい。

 まあ、既に大分人間からはみ出てはいる気はするが、次の一歩はもう取り返しがつかないのではないか、と。


 だが、必要なのだ。

 他の誰がやってくれるわけでもない。

 なら、自分がやるだけだ。


 家族があのクソみたいな神に蹂躙されるところを想像して、怒りを湧き起こす。

 その怒りを最後の一線を超える踏ん切りにして、宙に駆け上がった。


 これは天駆というスキルで、マナウスのダンジョンをクリアした時に報酬として得たものだ。空中を歩くことが出来るスキルで、付帯効果として落下ダメージ無効になる。高所恐怖症が完全に治ったわけではないが、荒療治で何度か飛び降りて死なないということを体に覚えさせたので、何とか使えるようになった。


 お陰でニューヨークのダンジョン23階層もボス部屋一直線で攻略できたし。


 上空1000m程まで駆け上がると、眼下に広がる広大な海を眺める。

 そして、おもむろに視界全ての海を収納する。


 一瞬で海水が消え、剥き出しの海底にぼたぼたと敵性体が落ちる。何匹かのクラーケンが落下ダメージで分裂する。そこから剥き出しの海底を深さ10kmに渡って収納。


 更に落ちていく敵性体。

 穴の周囲に残土で土手を築いて海水の侵入を防ぐ。


 それから穴の中に適度にブレスを放って、底にいる敵性体にダメージを与え、クラーケンをどんどんと増殖させていく。


 適度に増やした後、空中にゼミオのダンジョンを出す。

 分身一体が中に入り、ダンジョンコアを弄って意図的に氾濫を発生させる。入り口近くに雑魚として配置していたデビルスライムが、ぽんと空中に身を躍らせ、穴に落ちていく。


 フレンドリーファイアを可能としたデビルスライムである。

 溶解液を撒き散らしながら落下していくデビルスライムは、直ぐにレベルが上がり始め、攻撃を喰らった敵性体は直ぐに即死するようになる。


 必要なレベルまで上げるために、事前に個体数を増やしておいたのだ。

 目標は1200。

 レベル1の状態でこれを倒したときにレベル差により尋常ではない経験値が手に入る。


 しかしレベル1でスライムが倒せるのか? 実の所、窒息無効が無いので、このまま埋め立てれば死ぬ。しかし、如何様で全てのスキルレベルをカンストした今、レベル1とはいえ強力な攻撃を放つことも可能である。


「召喚」

 巨大な魔法陣が空中に展開し、巨大なアルマジロのようなものがぬぅっと落ちて来る。


 名前    ガイア

 種族    星霊

 アビリティ 大地の怒り


 大地の怒り …… 怒れる大地が鳴動し、全てを呑み込む。1億/秒の固定ダメージ。


 レベル9999でも1分あれば殺しきる火力。生憎とニャメは空間を操ると分かっているので、当てることは難しい。Lv.8以下の召喚ではダメージソースとしては弱いし、こいつを喰らわせられれば話は早かったんだが。


 デビルスライムがいくらレベルを上げようが、超広範囲の無慈悲な攻撃を避ける術はない。


 ガイアが穴の中に落ち、設置した瞬間そこから更に地割れが起き、大地も海水も諸共に地殻の奥深くへ引き込んでいく。


 宙に浮けない限りほぼ回避不能の即死攻撃である。有効だとしてもダンジョン外で使えば大規模地殻変動を誘発するので、大分覚悟がいるが。


 別で経験値を監視していた分身から連絡が入った。


 取得経験値、200,923,300,256,507,000,000,000,000,000,000。

 2溝(こう)である。

 必要経験値は50じょ(禾偏に予)。50,000,000,000,850,000,000,000,000だったのだが、大幅にオーバーしたようだ。レベル差に対して指数関数的に上昇するので、思ったよりクラーケンが増殖していたんだろう。


 まあ、多い分にはいいか。


『レベルが上限値に達しました。存在進化が可能です。進化しますか?』

 脳内アナウンス。

 同時に目の前にウィンドウがポップする。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル ∞

 ロール 現人神

 スキル 神託(Lv.9) 鑑定(Lv.9) 熱耐性(Lv.9) 奇跡(Lv.9) 心眼(Lv.9) 天罰(Lv.9) 偽装(Lv.9) 再生(Lv.9) 共有(Lv.9) 分身(Lv.9) 無限収納(Lv.9) 泳者(Lv.9) 召喚(Lv.9) 雷霆(Lv.9) 

 上限突破(Lv.9) 転移(Lv.9) 如何様(Lv.9) 擬態(Lv.9) 天駆(Lv.9)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し 殲滅者 到達者 超越者


 如何様 …… 不均衡な取引をできる。Lvに応じて取引できる項目が増える。

 擬態  …… 任意のものに姿を変えられる。

 天駆  …… 空中を走れるようになる。また、空中での移動速度がLv×10%向上する。



 進化後

 ↓


 名前    凍野 杏弥(いての きょうや)

 種族    創世神

 アビリティ 創世

 称号    特異点


 創世 …… 全てを意のままに。


 特異点 …… 始まりであり終わりである。


 ご丁寧に進化後の状態を示してくれている。

 レベルとロール、スキルが消えて、種族とアビリティとなっている。称号を除けば召喚獣と同じ表記だ。この辺もまだよくわかってない仕様があるんだろうなぁ、と思う。


 ともあれ、目的は果たした。

 レベルの軛からすら解き放たれるとは思わなかったが、これでしち面倒くさいレベル上げともおさらばである。


 というか、これはその気になれば宇宙創造すら出来ちゃう奴では?

 なんというか、行きつくとこまで行きついたなと、ため息を吐くのだった。



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