第50話 救援要請
自宅のダンジョンが狙われる可能性があると聞き、急いで戻るも平穏そのもの。
焦って戻って損をした、とまでは言わないが、ちょっとだけ拍子抜けである。
何も無ければそれが一番だが、それが将来的に渡って保証されたものでは無い。
ミトラ教本部を亜神が襲撃した理由がミトラスの想像通りであれば、遠くない未来にやってくる可能性がある。
あまり無防備にはしていられないだろう。
再度分身を楽園に送り込んで、ミトラスから敵状についてもう少し詳しい話を聞いたのち、早めに引き返して対策を練ることとした。
そんなこんなで、11/9。
表面上は平和な日々が続いている。
ニューヨークのダンジョンも最下層に到達して、ダンジョンコアまで辿り着いたが攻略を保留した状態にしてある。
最下層の攻略だけであれば二時間もあれば終わるので、ギリギリまで待つつもりである。
その間にニャメ一派の誰かが乗り込んで攻略する可能性も無きにしも非ずではあったが、氾濫が止まるなら別に構わないかなとも思っている。
ただ、神、亜神とはいえあくまでダンジョンによって生み出された敵性体であるということを踏まえると、そもそもダンジョンを攻略できるのか、攻略扱いにされるのかという疑問はある。
敵性体になり得ない身では確認のしようもない。棗の検索でも回答が無かったことから、設定されてないのかもしれない。ということは、基本的に起こり得ないと考えていいだろうか。
ニャクイクスの根拠地である蟻塚というダンジョンも、未だ所有者が変わったわけではないようなので、当たらずとも遠からずと言ったところだろうか。
ダンジョンの所有者変更自体はダンジョンコアまで辿り着けば出来るので、可能であればやっているだろう。単に面倒なだけという可能性もあるが、ニャメ本人でなくとも配下で充分攻略可能だと思うので、やらない理由は見当たらない。
どの道、希望的観測の域は出ないが。
しかしそうなると、どうやってダンジョンを押さえるつもりなのか。
目的となるダンジョンはそう多くはないようだが、全てに歩哨を立てるとか? 亜神4体では足りないという話になるが、増やす算段でもあるのか、単に無計画なのか。
人類に対する嫌がらせとやらも良く分からないし。
いずれにせよ関わらないという選択肢は無いんだろうなぁ。
「ん?」
のんびりと風呂に入りながらそんなことを考えていると、心眼に引っかかるものが。
「兌? 何しに来やがったんだあいつ」
アポなしで来るなどと。いや、アポがあってもお断りだが。
仕方なしに風呂を出る。
「ぱぱー、おふろもういいの?」
桃が浴室のドアが空いた音を聞いて駆け付ける。この場合の「いいの?」は桃も入っていいのか、という意味だ。
いつもは俺が体を洗い終わったら一緒に入っているので、お風呂だと思ってやってきたようだ。
「ごめん、桃。ちょっとお客さんみたいだから、悪いんだけど今日はママと入ってくれる?」
「えー、ぱぱとがよかった」
「ごめんね? 明日は一緒に入ろう?」
「ぶー。もうしょうがないなー」
生意気な事を言ってリビングの方に戻っていく。
体を拭いて服を着ると、そのまま玄関を出る。
兌は家の前で座り込んでいた。隠密を使ってるのか監視の自衛隊が気付いた様子はない。11月の夜の外気は風呂上りには寒いくらいだ。
「……何しに来た。二度と来るなって言ってあっただろ」
「ご主人様。ごめんなさい。でも、頼れるのはご主人様だけ」
よく見るとあちこち怪我をしてボロボロである。
隠密持ちの兌が怪我をしている時点で奇妙だが、心当たりはある。
「亜神が来たか」
「知ってたの? さすがご主人様」
「知ってるというほどでもないが。予測をしたのも俺ではないし」
ミトラスの見立てが正しかったという事か。となれば、ここにも早晩――。
「……泳がされたな、兌」
「え?」
上空に目をやると、奇妙な物体が浮いている。直径2mほどの円盤の中央に顔がある。円盤の周囲には幾本もの触手がうねうねと波打っている。空飛ぶ人面ヒトデとでもいうべき見た目だ。一般人が見たら卒倒するだろう。
名前 Nenaunir(ねなうにる)
レベル 6,170
スキル 悪辣(Lv.9)
称号 虹の源泉
悪辣 …… 全ての攻撃が相手の最も不利な属性に変換され、ダメージがLv×100%増加する。
虹の源泉 …… 不利属性攻撃のダメージ100%up。
やはり亜神。
それにしても、嫌らしい顔をしているが中身も酷い。なんだよ、Lv×100%の上に称号で更に100%? もはや不利な属性が云々の説明がいるだろうか? 全ての攻撃が対象なら単純に攻撃力増加でいいんじゃ? ああ、弱点属性を持っていると更にダメージが跳ね上がるのか。もはや倍率がよくわからなくなるな。
だがそれでも、ダンジョン内であれば桁違いのレベル差なので何の問題も無いんだが。ここはダンジョン外で、レベルもちょっと治りが早い程度の意味しかない。
「グアラグアラグアラ! 死を前にして向かった先は愛する男の元であったか! グアラグアラ! 良いぞ良いぞ。ではその男を八つ裂きにして、更に絶望を呉れてやろう!」
ヒトデモドキは独特の笑い方を披露しながら物騒なことを叫んでいる。近所迷惑だから止めてくれないかなー。
「あ、ああ、ご主人様、ごめんなさい――」
敵を誘引してきたことを謝る兌。
「謝って済むか。ああ、めんどくせぇ」
なんでこんな化け物と争わなくてはならないのだ。しかも自宅の前で!
「さぁ、存分に泣き叫ぶが――」
「うるせぇ! 近所迷惑だろうが!」
秒間二十発の雷霆を放つ。
「ぷぇえ!」
奇妙な鳴き声を上げてスタンする珍妙生物の真下にゼミオのダンジョン入口を出し、上から大量に余っている残土を落としてダンジョン内へ押し込む。
零れた残土を収納に仕舞って、ダンジョン直上に転移。俺もダンジョンに飛び込む。
「ぷぇぷぇ! いきなり何をしおるか、この痴れ者めが! 亜神たるこのネナウニル様に何たる無礼を! 楽に死ねると――」
「ヤカマシイ」
ちょっとばかり知性があって言語能力もあるようだが、珍妙な形態の為に俺もこれを知性体と認知していない。
何が言いたいかというと、ぶち殺すのに躊躇がいらない。
レベル6,000台がなんぼのもんじゃい。こちとらレベル5万。HP換算で60倍である。
ここまで違えばスキルで攻撃力が10倍や20倍になろうが拮抗することすらない。
絶望的な格差だ。
ネナウニルが触手を延ばして刺し貫こうとするが、指一本で止められる。デコピンを喰らわせれば触手が千切れ飛ぶ。
「な、なななんあ、なんじゃああきさまはぁあああ! か、神に対してなんたるなんたる不遜!」
「だからうるせぇ」
キャンキャンと。弱い犬程なんとやらである。
転移して背中(?)を殴りつけ、吹き飛んだ先に転移してもう一度殴りつける。
「ぎょええええ!! なんじゃこのばけもの!! た、たすけてニャメさまぁあああ!」
ネナウニルは主人の名を叫びながら消滅した。
放っておけばボス部屋でリポップするだろうが、生憎攻略した際に設定を切ってるので、スライムしかポップしない。
「化け物に化け物と言われましても」
心外である。亜神相手にダンジョン叩き込み戦術は成功したが、果たしてニャメにも通用するだろうか。
レベル差も二倍程度しかないし、なかなか難しいかも?
人間だと下に見て、盛大に油断してくれることを祈ろう。
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