第47話 魑魅魍魎
11/4。
ゼミオのダンジョンを攻略して2日が経過。
世界は今の所平穏である。
しかし、俺はそれが仮初の平穏であると知ってしまった。
状況を把握するために棗の検索で、色々と調べものをしているうちに2日が経過していた。
自分で使えれば便利なんだけどなー。おそらくその利便性からしてユニークスキルだろうし、そうそう得られるものでは無いだろう。
棗を通すと、結果に神の介入があるんじゃないかと不安もある。
そう、神である。
何がって?
ゼミオのダンジョンの平均レベルが高いわりにレベル1の敵性体しかいなかった原因である。
どうも、あのダンジョンの階層ボス――ダンジョンの途中の広間などが階層扱いだった――が異常に高レベルに設定されていたようだ。
どのくらい異常かと言うと、上限突破している。
小ボスがレベル6,000台。中ボスに至ってはレベル24,000超えという暴挙。
ダンジョンの複雑さとかではなく純粋にレベルで殴りつけるスタイルだったらしい。そりゃあ、上級者用と銘打たれるわけである。
――ってアホか!
小ボスでも普通にダンジョン攻略していたのでは無理ゲーだし、中ボスに至っては神の領域ではないか。
ダンジョンの氾濫で野に放たれたそいつらが、どこで何をしているのか、他にそんな物騒なダンジョンが無いかという点を調べていたのだ。
最高レベルで検索しなおして、抜けが無いように上位10ダンジョンを列挙してもらい、他に類似例は無い事を確認。後は、多少レベルが低くとも数が多いとか、感染性の何かとか、生態系を著しく変貌させる特性のあるスキル持ちだとか、人類滅亡シナリオに繋がりそうなダンジョンが無いかを検索ワードを変えながら潰していく地道な作業。
見落としが絶対に無いとは言えないが、ある程度網羅できたとは思う。漏れがあった場合はアドリブで頑張るほか無いだろう。
ダンジョンを抜け出した高レベルの奴らは、どうやらアフリカのミトラ教的組織の根城にいるらしい。表向き平穏を保っているのは、その組織――nyqyx(にゃくいくす)――が通常営業を続けられているから、らしいのだが。
意味が分からない。
ニャクイクスという組織のトップのレベルが187。ニューヨークのダンジョン攻略に掛かる前のジブリールと同程度で、とても上限突破した敵性体をどうにかできるとは思えない。
可能性があるとすれば、レベルを無視して作用する類の凶悪なスキル持ちの可能性だが、棗が検索した限りなさそうである。
放っても置けないが、迂闊に触って暴発されると困る。
ダンジョン内ならまだしも、ダンジョン外で高レベル帯の敵性体相手に俺がどこまで戦えるのかは正直良く分からない。便宜上ダンジョン内は魂魄を鍛えるために、剥き出しの魂の力=レベルが絶対の指標となるが、ダンジョン外では物理法則を無視しえない。つまりは肉体という制約を受ける。
レベルの恩恵で自己再生能力は強化されるしスキルは機能するので、非常に死に難く、超能力じみた真似も出来るが、ダンジョン外で赤竜と出くわして完封できるかというとそうもいかないだろう。肉体という名のデバフがある限り、でかい奴が基本的に強いのだ。
逆に近代兵器も効くようになるので、組織としては対抗手段も出てくるのだが。
それでも、ダンジョンにレベル4桁や5桁と設定された敵性体が、並の能力なワケも無く。
「まあ、それでも迂闊に動かないで暗躍しているのだとすれば、それなり以上に知性もあるということかな?」
或いは何かゲームめいたことでもしているのか。
非常に温厚で有効的な奴であればいいのだが。
いずれにせよ、最大限警戒しつつ、何が起こっても即応できるように準備だけは怠らないようしよう。
とはいえ、一体何をすればいいのやら。
嘗てない脅威の出現に、頭を悩ませるのであった。
◇◇◇◆◆◆
ニャクイクス。
アフリカ全土を縄張りとする組織で、成立はミトラ教と同等程度には古いらしい。
蟻塚と呼ばれるダンジョンを保有しており、人類はその蟻塚から生まれたとの主張をしている。
ミトラ教はダンジョンによる災害から遍く人類を救済することを目的とした組織。
星道会はダンジョンを利用した人類の自己進化による滅亡回避を目的とした組織。
ニャクイクスは、ダンジョンから現れた神に帰依することを望む組織。
ミトラ教と星道会はダンジョンによる亡びの回避という点においては共通しているが、ニャクイクスはダンジョンによって齎されるモノを受け入れるというスタンスである。
曰く、ダンジョンの恵みによって潤う者は、ダンジョンの意思を拒むことは出来ない。
その意思が人類の亡びであればそれも已む無し、という方針らしい。
潔いというかなんというか。
一方でダンジョン攻略にも意欲的な側面がある。
解釈として、『ダンジョンから現れた神』というのが、『ダンジョンで神の如き強さを得た人』とも捉えられるらしく、我こそは神なり、と思う信徒が日夜攻略に励んでいるらしい。
御多聞に漏れず、組織の中心となるダンジョンは現代では攻略不可能で、神になれた人はいないらしいが。
そんな組織の領域内で、レベル5桁越えの敵性体が氾濫した場合、どういった対応を取るのか。
答えは自明だろう、とジブリールが語った。
本体経由でアフリカの情報を得て、ミトラ教の見解を聞いてみたところそんな答えが返ってきた。
現在ニューヨークのダンジョンは23階層を攻略中である。
見渡す限りの雲海の中にぽつりぽつりと、針の先のような山の頂きが突き出していて、それらを太さが直径10cm程のロープが繋いでいる。
道はロープだけ。
山の頂きにはレベル250のでかい蛇がいて、近付くと襲い掛かってくる。
また、雲海の中から時折謎の触手が飛び出してきて、ロープから引きずり落とそうとしてくる。
まあまあなクソダンジョンである。
特に高所恐怖症の俺にとって鬼門となるステージ構成だ。自宅のチュートリアルダンジョンで出くわさなくて本当に良かったと思う。
階層間通路の前は安地――安全地帯の略――なので、そこでジブリールとラファエルに話を聞いていたところである。
「レベル5桁となると、本当の神が受肉したと考えるべきだ。レベル4桁の4体は配下の亜神だろう。やれやれ、本当に黙示録の様相を呈してきたのう」
ピンクの幼女は腕を組んでムムムと唸っている。
「ミトラ教の教義の中にそういう記載が?」
「教義というか、黙示録という名の破滅の預言書という形で残っておる。断片的にはキリスト教にも伝わっておるが」
「ああ、ヨハネの?」
天使がラッパを吹くと災いが起こるんだったか。いや、要約が過ぎるな。
「ミトラス曰く、ダンジョンは魂の修練場という他に、神の受肉装置としての側面もあるらしい。早々神が降臨するダンジョンがあるとも思えぬし、一つしかないというのは恐らくそうであろうが。降臨した神が善神であるから混乱が起きていない可能性もあるが……」
善き神、ねぇ。そんなもの存在し得る余地があるのだろうか。
神の目的が生命の進化であるというならば、どうあっても保守的な組織とは対立するだろう。そして、世界の国家の大半は保守的である。なにせ生命とは元来保守的だ。だとすれば、変化を求める神は基本的に人類と敵対する関係にあるように思う。
無論、手段について考慮してくれる、という意味での善神は存在するかもしれないが。
「すまぬがラファエル。本部に戻って急ぎ確認を取って貰えるか? 氾濫して一月も経って何も起きていないなどという事もあるまい」
「わかった。ジブリールは?」
「少なくとも一人は攻略に付き合わねば恰好も付くまい」
何故か胸を張って言うジブリールに、ラファエルはやれやれとため息を吐く。
「……すまないな、キョウヤ。どうやらキョウヤの料理が気に入ったらしい」
「な! そ、そそそ、そんな俗な理由なわけが、あああ、あるか!」
動揺の隠せていないジブリール。ここ数日ダンジョン攻略に付き合って貰ってる過程で、当然ダンジョン内で寝食を共にしている。食料供出は主に俺(自宅の本体作)の料理である。
「構わないよ。美味しく食べてくれるなら作りがいがあるというものだ」
「ジブリール。年甲斐も無くあまり面倒を掛けるんじゃないぞ」
「ラファエル! まったく、最近の小僧は礼儀をしらんなぁ!」
ぷりぷりと起こる幼女。しかし、この幼女実は24,000歳を越えているらしい。ババアってレベルではない。それでもミトラ教では2番目らしいが。寿命もなにもあったものでは無い。
小僧と言われたラファエルも500歳を越えており、表にいるミシェルも400は越えてるとのこと。
ミトラ教の本拠ダンジョン内の素材で、長寿の薬が作れるのだとか。
本当にダンジョンは何でもありである。
「まあ、戻ってくる前にダンジョン攻略は終わらせとくさ」
軽く請け負って、俺は空を駆けるのであった。
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