第42話 人類卒業




 ラファエルからの五層攻略のアドバイス。

 あっているかどうかは分からないが、そんなもの検証すればいいだけの話である。

 先例があるというならば、まずはそれに習うのが賢いやり方だ。


 そのための前準備として、ネットで適当な図形を検索して印刷。

 段ボールに張り付けて切り取り、あれやこれやとパーツを他の段ボールやら定規やらを使って組立て、お手製の高度方位計を作成する。


 別にそれほど精度が欲しいわけではないので、わざわざ購入する程の事でも無いし、こんなもんで十分であろう。


 五層に戻り、高度方位計を三脚の上にセットし、太陽の方位と高さ(仰角)を計測する。


 一体何をしているのか?


 ラファエル曰く、どうやらボスはあの太陽にいるらしい。

 そのままだと手が届かないが、雑魚敵を倒した数に応じてどんどんと高度が下がっていき、最終的に接地。ボスの間への通路が現れるとかなんとか。


 RPGではありがちな――だるい――ギミックである。


 五層が実際どうなのか検証の必要があるが、闇雲に雑魚狩りしても変化が微妙だった場合効果がよくわからなくなるので、数値的な裏付けを取るためのハンドメイド高度方位計である。


 階層間通路の出入口前を測定位置と定め、扉のある方角を方位0°、水平を仰角0°と定義すると、現在の太陽の位置は方位120°、仰角60°である。


 後は適当に雑魚敵を倒してみて、動きを観察するだけだ。実際の太陽の様に斜めの軌道を取るのか、それとも変な軌道を取るのか。まあ、結局は仰角が下がるのかどうかだ。


 雑魚とはいえ、レベルは200越えでボスに近しいこともあり、天罰で一掃とはいかない。スキルLvが上がって回数が増えれば出来るのだが、未だ上がる気配も無い。一日一回の制限があるので、トータルでも40回かそこらしか使ってないので仕方がないのだが。


 無いものは無いので、地道に行くしかない。


 無限収納で海水を収納。

 怒り狂って襲ってくるヘビとサメとイカを狩る。


 取り敢えず100匹くらいで様子見だろうか。赤竜ブレスで海産物の塩焼きを作りつつ、そんなことを考えるのだった。




 ◇◇◇◆◆◆




 100匹狩る毎に測定というのを、10回ほど繰り返す。

 トータル1,000匹狩った結論としては、ラファエルの助言は間違ってはいないようだが、正しくもない、という事だ。


 太陽の位置は10回の測定で確かに動いてはいた。


 しかし、どうもにも動きが一定ではない。

 少しだけ下がったかと思えば元に戻ったり、殆ど変化が無かったりと、どうにも再現性が無い。

 動いていること自体は確かなので、大まかな方針が間違っているわけではなさそうなのだが。


 測定間の経過時間の問題かと思い、何もしないで暫く観察してみても太陽の位置は変わらないので、敵性体を倒すことで太陽の軌道が変化していることには間違いがなさそう。


 では、なぜ一定ではないのか?


 これまでも理不尽と思えるギミックはあったが、一応それなりの仕様というか、理屈が根底にはあった。五層だけ完全ランダムなんて話は無いと思いたい。


 倒す毎にランダムに太陽が動くとすると、余程引きが強くなければ接地には至らない。運が悪ければそれこそ百年やっていても終わらないだろう。


 法則性があるとすれば何か?


「倒す敵によって、動く方向が決まっている?」

 考えられるとすればそんなところか。


 何を何匹狩ったかは正確に数えていないが、ドロップアイテムは回収して測定毎に集計しているので、後からでも大体はわかる。ドロップしなかったり取りこぼしもあるだろうが、体感でドロップ率はそんなに偏りが無いので、討伐の割合なら分かるだろう。


 結果を見れば当たりっぽい。

 サーペントの割合が多ければ方位がマイナス方向に動き仰角が上がる。クラーケンの割合が多ければ方位がプラス方向に動き仰角が下がる。メガロドンは特に影響が無い。


 サーペントとクラーケンを同じくらい倒すとプラスマイナスで相殺して変化が無い。


 つまり、どちらかだけを多く倒せば良いとなる。

 サーペントは仰角が上がるが、現実の太陽の軌道と同じであれば一旦上がっても下がってくるだろうとは思う。しかしどうせならクラーケンを倒した方が手っ取り早い。メガロドンは相手にする価値無しである。


 それに、クラーケンは分裂のスキルがあるため、一種類だけ狩りたいならほぼ一択である。普通の雑魚狩りでは面倒なだけのスキルではあるが、特定の種類だけ狩りたい今は有り難い。


「むむむ、しかし、結構時間かかりそうだなー」

 無理というほどでもないが、計算上クラーケン一体当たり仰角-0.05°である。60°を下げるには1,200体倒さなければならない。


 適当に集めた雑魚を狩るだけなら何も考えないで赤竜ブレスをぶっ放せばいいが、ちまちまと増やしながら狩っていくのは面倒ではある。それでも10時間もやれば終わるとは思うが、何かこう、一気にできないだろうか。


 あれこれ悩んでいる間に力技でやった方が早いというのもよくある話なのだが、こういう単純作業をちまちまやるというのがどうにも性に合わない。


 こう、まとめて増やして、しかしそうなると処理限界を超えそうだし、こんな開放空間じゃ纏めて処理も出来ないし。


 三十分ほどうんうんと悩み、一つの思い付きに至る。


「まあ、やってみるか」

 最悪駄目なら脳筋戦術に切り替えるだけだ。

 終わりは見えているのだから、後はやるだけである。




 ◇◇◇◆◆◆




 手順1 無限収納で海水を収納し、敵を誘き寄せる。

 手順2 クラーケン1匹を残して、集まった雑魚敵を殲滅する。

 手順3 星道会極東支部横に開けた大穴の残土で800m角程度の範囲を埋め立てる。

 手順4 埋立地の中心に無限収納で半径200m、深さ3,000mの孔を開ける。

 手順5 雷霆で動きを止めつつ増やしたクラーケンを順次孔に叩き落す。

 手順6 多少余裕分も考慮して、1,500匹を孔に落とし終えたら、分身に連絡してレベルを1に戻して貰う。

 手順7 余っている残土を孔に落として生き埋めにする。


 以上である。


 ダンジョンに孔を開けられるのかというテストからだったが、どうやら五層の地面は破壊不能オブジェクト扱いではないらしく、無限収納で孔を開けられた。レベルを1に戻したのは止めに関しては特に高レベルで行う必要がないので、経験値が勿体ないからやっただけである。


 クラーケンのレベルが238なので、1,500体が同時撃破とカウントされれば計算上得られる経験値は90億を超える。上限が無ければレベルは13,000くらい、分散すれば180人をレベル999まで上げることが出来る経験値である。


 同じだけ赤竜で稼ごうと思えば一体何日掛かるのやら。この機会を逃す手は無かった。


 後は分裂したクラーケンが撃破数にカウントされない場合は地道にやることになるが、その場合、特定のモンスターだけ釣り上げる方法を別に考えなければならない。


 残土の落下自体では死ななかったのか、三時間弱ほどしてから目に見える速度で太陽が沈んで行く。窒息で死亡したのだろう。


 階層間通路の出口ほぼ正面に太陽が隠れると、海底が隆起し真っ直ぐに道が出来あがった。

 この先にボス部屋があるのだろう。あるよな? あってくれ。四層みたいなのは勘弁だぞ。


 少し不安に思いつつも、通路を歩き始めようとしたところで久しぶりの脳内アナウンスが響く。

 

『経験値50億取得達成を確認しました。ウルトラレアスキルを進呈します。経験値1,000億取得達成を確認しました。ユニークスキルを進呈します。更なるご活躍をお祈りします』


 1,000億? 思ったより大分多いな。 孔に落とした衝撃とかで更に分裂が進んでいたのかもしれない。まあ、多い分には困らないが……。


 50億は恐らくレベル9999相当の経験値として設定されているのだろうから、レベル上限突破かな。ユニークは無限収納とおなじレアリティだから相当なぶっ壊れスキルだと思うが。


 ステータス、っと。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル 50,148

 ロール 現人神

 スキル 神託(Lv.3) 鑑定(Lv.1) 熱耐性(Lv.1) 奇跡(Lv.2) 心眼(Lv.2) 天罰(Lv.1) 偽装(Lv.1) 再生(Lv.2) 共有(Lv.3) 分身(Lv.2) 無限収納(Lv.1) 泳者(Lv.1) 召喚(Lv.1) 雷霆(Lv.1) 

 上限突破(Lv.2) 転移(Lv.1)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し 殲滅者 到達者 超越者


 上限突破 …… レベルの上限が10^(Lv+3)-1になる。

 転移   …… 任意の場所に瞬時に移動できる。Lv×10人まで同道できる。


 超越者  …… 肉体の死からの解放。人類卒業おめでとう。



 どうやら……、人類を卒業したらしい。

 卒業したら何になるんだ? 生憎と回答してくれる人は誰もいないのだった。




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