第40話 千客万来




 10/29。

 五層攻略をはじめて5日が経過した。

 今の所、日本国及び星道会からの介入はない。樋口さん経由で、警察や公安の調査に関しては少なくともダンジョン攻略までは政府主導で差し止められていると聞いている。


 現場の独断だとか、ドラマや映画みたいな展開も無いようで、特にそれらの訪問や連絡は来ていなかった。


 星道会に関しては正直動きが読めないが、兌曰く大丈夫だろうとの事だ。なんの信用も置けないが、それくらいしか情報が無いので仕方がない。相手はどこの国家にも帰属していない秘密結社だ。聞いたところで教えてくれる人がいるわけでもない。


 ミトラ教に聞けば多少情報が得られるかもしれないが、敵対組織と必要以上に懇意にしてまたキレ散らかされても困る。触らぬ何とかに祟りなしである。


 五層の調査だが、海上に主要構造物が無い以上、攻略しなければならない部分はやはり海中だと考えられる。泳者のスキルLvが5以上あるならまともな探索も出来るかもしれないが、一朝一夕で上がるものでもない。


 仕方が無いので、無限収納で視界に収まる範囲の海水を収納し、露出した海底地形を映像に収めてめぼしいものがないか後からチェックする、という行為を繰り返している所だ。終わった後に揺り戻しで津波が発生するので、一々ダンジョン外に出てリセットしてから戻るというのを繰り返している。


 押し寄せるのが波だけならまだしも、一緒に五階層の敵性体が襲い掛かってくるので調査にならなくなるためだ。


 名前  サーペント

 レベル 235

 スキル 水撃(Lv.9) 雷霆(Lv.9) 復元(Lv.9)


 水撃 …… 基礎攻撃力×(100+Lv×10%)の水属性攻撃。Lv×10%の確率で行動阻害(2秒)。

 復元 …… 最大HPのLv×10%/分回復する。



 名前  メガロドン

 レベル 242

 スキル 水撃(Lv.9) 斬空(Lv.9) 復元(Lv.9) 


 斬空 …… 基礎攻撃力×(100+Lv×20%)の斬属性攻撃。


 

 名前  クラーケン

 レベル 238

 スキル 水撃(Lv.9) 増殖(Lv.9) 復元(Lv.9)


 増殖 …… 現在HPが最大HPのLv×10%以下になると、10%低下毎に分裂する。


 出てくる敵性体は以上。

 個体数は多くない印象だが、漏れなく復元を持っているおかげで、一分以内に殺しきれないとほぼ完全回復されて面倒くさい。


 水撃も地味に動きを止めらるので厄介。スタンとの違いは行動阻害は移動が出来なくなるだけで、その場で迎撃などは可能という点だ。


 サーペントは併せて雷霆も持つので、常時水撃と雷霆でちくちくやられる。非常にうざったい存在である。


 メガロドンは取り立ててどうということも無いのだが、水撃での行動阻害しながら、斬空で遠距離から削ってくる。


 クラーケンはHPを10%減らすたびに数が増える。分裂した後の個体は分裂前の個体と同じ現在HPのようだが、一分経てば完全回復なのは変わらない。


 もたもたしてると敵が増殖し続け、永遠に終わらないという展開に。


 まだ本格的に攻略に取り掛かったわけではないが、多少手合わせした感じの印象はこんなところだ。

 一度水撃を食らうとハメられるので、上手く攻撃を躱しながら、一個体ずつ集中して倒していくというのが基本戦術になりそうである。


 最悪各階層ボスのブレスで瞬殺できるので、雑魚敵の処理はどうにかなりそうではあるが、今の所海底に目ぼしい構造物は見つけられていない。水平線の彼方に設置されていたら最早探しようも無いが。


 四層はまだ人海戦術の余地があったが、こうだだっ広いだけではいくら人数を掛けてもキリがないし。

 ボートか何か手に入れて沖まで出てみるか?


 しかし、並の船では雑魚敵に即座に海の藻屑にされること請け合いである。

 いや、空母やイージス艦でもそれは一緒か。多少は時間が稼げるかもしれないが。


 無限収納に入れれば持ち込み自体はできるだろうが、無限収納内はダンジョンから独立しているので持ち込みの判定がされない。


 つまり、壊れたらそれでおしまいで、リスポーンしても再生されないのだ。


 さすがに経費が掛かり過ぎる。


 取り敢えず出来る範囲の調査が終わってから考えよう。

 問題を先送りし、地道な調査を続けるのであった。




 ◇◇◇◆◆◆




 海底を虱潰しにしても何も見つからず、探索が煮詰まりつつあったその日、夕飯時に不意の来客があった。

 心眼は常時使っているので、家に近付いてくる者がいれば事前に感知できる。そう言えば先日ようやくLv.2に上がって、半径20m以内が感知できるようになった。


 これで大抵は対処可能になるだろう。音速を超えるような速度とかになるとさすがに難しいが。

 現在近付いてくるのはあくまで人間なようなので問題は無いが……。嫌な予感がして鑑定する。


 名前  艮(げん)

 レベル 1   【88】

 ロール モブ 【盗賊】

 スキル なし 【窃盗(Lv.5) 偽装(Lv.5) 血抜(Lv.5)】

 称号  なし 【人間殺し】


 名前と称号から、どう考えても星道会の関係者だ。

 問答無用でギルティ。周辺の空気を収納して酸欠で気絶させる。


「兌。お前に客みたいだぞ。表で寝てる」

 一緒に夕飯を食べていた兌に告げると、小首を傾げる。当然のように一緒に飯を食っているが、子供達は遊び相手が増えたくらいにしか思っていないようで、なぜかあっさり受け入れられていた。さすがの順応性の速さである。表向き敵意は無いとはいえ、いくらなんでも警戒心が無さ過ぎて心配である。


「誰?」

「艮とかって、星道会のなんかだろ?」

「……ちょっと出てくる」

 名前を出すとあからさまに不機嫌になって席を立つ。


 玄関を出て、暫くすると艮を簀巻きにして、家の中に持ち込んできた。


「変なもん持ち込むなよ」

 一応注意。


「申し訳ない。けど、今後の為に少し教育が必要。大丈夫、優しく教えるだけ」

「騒がしくならないようにな」

 それだけ言い含めて後は放置。


 今日の夕飯は麻婆豆腐。子供も食べられる辛み無しのものだが、俺は刺激が欲しいので激辛ラー油(自作)と花椒マシマシである。


 口の中が痺れる感覚が心地良い。栗花はおこちゃまな舌なので子供と同じ辛みなしのを食べながら、こちらを見て「信じらんない」とか言ってるが、好きなのだから仕方ないではないか。


 さっさと食べ終えて、食器を片づけていると、また来訪者である。

 先程と違って落ち着いた感じだが……。


 

 名前  乾(ちえん)

 レベル 1   【120】

 ロール モブ 【扇動者】

 スキル なし 【洗脳(Lv.5) 偽装(Lv.5) 催眠(Lv.5)】

 称号  なし 【人間殺し】


 洗脳 …… レベル+Lv×10以下の者の思考を制御する。(CT:24時間)

 催眠 …… レベル+Lv×10以下の者の行動を制御する。(CT:24時間)


 やべー奴が来た。

 即座に家族のレベルを200まで上げる。どう見ても星道会の奴だろう。危ない奴ばっかである。なぜ揃いも揃って人間殺しの称号を持っているのか。


 例外なくフレンドリーファイアできると考えた方がいい。逆に言えば、それが星道会で出世する為に必要だったりするのかもしれない。


 乾には同行者がいる。樋口さんだ。

 いつもと少しばかり様子が違うので、洗脳か催眠、あるいは両方の影響下にあると見るべきだろう。


 人質のつもりか、それともただ利用しているだけか。

 艮のように気絶させてもいいが、樋口さんへの影響が気がかりだ。


 さて、どう立ち回ろうと思っていると、別方向からまた来客である。

 というよりは、様子を伺っていたのが異常事態と見て出張って来たのであろう。


 一部の隙も無い立居振舞いで、ずんずんと乾へ歩み寄っていく。


 二人の視線が空中で火花を散らした。


「どうしたの、杏弥」

 状況を知らない栗花の気の抜けたような声。

 心眼で監視しつつ、取り敢えず俺は事態を静観することとした。


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