第30話 意気軒昂
10/16。
栗花が子供たちを送り出した後で、朝から樋口さんが家を訪れた。
要件は二つ。
偽装持ちの隊員の都合が暫く付きそうも無い事。
それから巳波が失踪したこと。
「申し訳ありません。折角情報提供して頂いたのに」
「泳がせるためには盗聴器そのままにした方が良かったのかもしれませんね。まあ、放置も出来ませんでしたし仕方ありませんよ」
どうにもならないことはあるものだ。今の所、実害があったわけでもないので、引き続き捜索して貰うという事でいいだろう。
「偽装持ちの件も都合が付く時で構いませんよ。経験値のストックはかなり出来たので、寧ろ還元の方を先にやってもいいかもしれません」
レベル上限突破のスキルが得られなければ宝の持ち腐れだ。
天眼のランキングに表示される下限のレベルを聞いて、載らない程度に栗花に振り分けたりしてるが、正直1%も消費していない。
「多少リスクはありますが、こちらに呼び出してレベルを上げてを繰り返すとなるとかなり手間なので、私が出張って纏めて支給する形態にした方がいいかと」
「こちらは助かりますが……」
「私としても雑事はさっさと片づけてダンジョンに集中したいですし。レベルを上げたい隊員を集めておいて貰えれば直ぐに終わりますよ」
分身を派遣しておけば、帰りは考えなくても良いし、万が一も無い。
何より自衛隊の戦力アップも早い方が良い。
うちのクソダンジョンを攻略できたとしても、別で氾濫が起こって社会が壊れてしまえば意味がない。
国家防衛を自衛隊には是非頑張って頂きたい。
「分かりました。日程を調整して改めてご連絡します」
「宜しくお願いします」
当面の方針を伝達して、今日も今日とてダンジョン探索を――本体が――続けるのだった。
◇◇◇◆◆◆
昨日から四層にチャレンジしている。
三層がダルすぎる階層だったので警戒していたが、少なくとも臭くないというだけで素晴らしいと思う。
なんなら今までで一番楽しいまである。
一層 いきなりボス戦。
二層 即死攻撃てんこ盛り
三層 臭い。すっごい臭い。
振り返ってみてもロクな階層が無い。
翻って四層はというと、
――外観は色んな工場をめちゃくちゃにくっつけた構造物。
――敵はゴーレムのみ。ただし、色んな種類がいる。
――臭くない。
ああ、快適である。
雑魚敵であるゴーレムも、姿形、素材によってバリエーションは豊富なものの、レベルやスキルは共通で、奇をてらった事をしてくるわけでもない。
正確に言うと、俺にとっては特に問題にならないということだが。
名前 アイアンゴーレム
レベル 220
スキル 武器破壊(Lv.9) 防具破壊(Lv.9) 硬質化(Lv.9)
武器破壊 …… Lv.×10%の確率で装備している武器を破壊する。
防具破壊 …… Lv.×10%の確率で装備している防具を破壊する。
硬質化 …… Lv.×10%物理被ダメージを軽減する。
武器は持っていないので武器破壊は意味がない。防具破壊は攻撃判定を受けると高確率で着ている服が弾け飛ぶが、誰も見ていないのでOK。高質化は三層のレイスやリッチの持つ物理無効の下位互換なので、今更問題にはしない。面倒くさいは面倒くさいが、敵の密度的も三層ほどではないので、楽になったと感じるほどである。
10%でもダメージが通るなら、雷霆より殴った方が強いというのもある。レベルが高いだけHPは高いようだが、トータル的に考えれば大分楽だと言える。
HPと言えば、ついにHPが参照できるようになった。
神託ではなく、共有Lv.2がHPの共有だったためだ。
正確に言うと最大HPの共有である。
経験値の時と同じく、自分と共有相手のHPが表示されることで判明したのだ。
俺のHPは約5,000万。レベル50の栗花が約17万であったことから、現在レベルまで必要とされる累積経験値と同値と思われる。以前解析した『レベル1から任意レベルまでの必要累積経験値の式』に代入した値と、ぴったり符合するので多分間違いないと思われる。
ゲームマスターは計算式を考えるのが面倒で使いまわしたのだろうか。推定できるようになったのは便利なので構いはしないが。現在分身2が赤竜相手にダメージ量の調査をしているので、攻撃力についてもはっきりするかもしれない。
HP共有は複数人にも使えるようなので、家族に最大HPを500万ずつ振り分けている。
そのため最大HPが1,500万ほど減っているのだが、元が膨大なので特に構わないだろう。HP500万となれば、レベル300相当となるので、不意の氾濫では盾となって身を守ってくれると信じている。
氾濫後、ダンジョン外でのダメージ計算が同じなのかは分からないが、無いよりはましだろうという配慮である。モンスターは兎も角、人間相手にはあまり意味もなさそうではあるが。
暗殺された時の事を思い出してため息。
HPは銃弾から守る盾としては機能しなかった。そう考えると、対人の対策としてはなんとも頼りないものがある。
現状家族は自衛隊の護衛がついているので滅多なことにはならないとは思うが……。
俺という存在が死んでしまえば、家族にちょっかいをかける意味も無い事だし。
「まあ、気にしていても仕方ない。とにかく四層攻略だ」
付きっ切りで守るわけにも行かない以上、割り切るしかない。
下手に生きているのがバレればそれこそ危険性が増える。
俺に出来ることは、一秒でも早くこのクソダンジョンを攻略することだ。
気持ちを切り替えて、改めて四階層を眺める。
工場の集積体。一言で表現すればそうなる。
鉄骨、鉄筋コンクリート、フェンス等の構造物や、クレーンや工作機械、コンベヤ、集塵機、ホッパー等の機械類やその付属物、フォークリフト、トラック、ショベルカー等の車両、ケーブルラック、電源盤、変圧器等の電気設備。それらをめちゃくちゃに配置して無理やりくっつけたかのような外観である。
床や階段も割とめちゃくちゃに配置されているので歩きにくいし、死角も多い。時々物陰からゴーレムが飛び出して来るのを撃退しながら進んでいるが、めちゃくちゃながらも三層の様に入り組んだ構造になっているわけではなく、基本的に一本道である。
ゴーレムを倒すには平均で50発くらい攻撃を入れる必要があるので、出てくるたびに五分程度は足を止められる。たまに攻撃を食らって服は直ぐにダメになるので、三層でレイスから基本ドロップする布切れを腰に巻いた原始人スタイルを取っている。
三層の品とはいえ、ドロップアイテムは何故か臭くない。布なので収納するまでの間に臭いが染みついてもいいようなものなのだが。それとも、それは俺が収納したいと思ったのは布であって、臭い付きの布では無いからだろうか。
そこまで任意に選択できるのであれば、無限収納で洗濯ができるのでは? 汚れ以外を収納すると考えれば綺麗な服に元通り。後で検証してみよう。上手く分離できるなら、他にも色々と応用が効きそうである。
なんとなく会社の現場を歩いている気分に浸りながら、探索を更に続けるのだった。
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