第21話 勇往邁進




 9/28。

 無限収納によるブレス対策が可能となったことで、緑竜討伐も目途が付いた。

 スキル外の即死攻撃は無い、と思われるので、雑魚敵を天罰で一蹴してしまえば肉弾戦でゴリ押せるはずだ。緑竜も赤竜も同じレベル251ということで、基本スペックは同じだろうと推測される。


 赤竜の通常攻撃であれば、相殺無しでも数百発は耐えられそうだったので、ピクシーを召喚しておけば負けは無い。例え無防備で突っ立っていても一分間でHPを削り切られることは無いと思われる。


 で、あれば後は簡単なお話。

 赤竜のブレスで丸焼きにしてやろうかとも思っていたが、殴って倒せるのであればその方がコスパが良い。ストックしたブレスはその内使う場面もあるかもしれないから、必要な時の為に取っておくとしよう。


 昨日は積年の恨みを晴らすべく、赤竜を5体ほどタコ殴りにして仕留めた。

 結構良いストレス発散である。


 相殺しないで直接赤竜を殴るとかなりのダメージを与えることから、防御テクニックとして相殺はかなり重要なものなのだと思う。体感三倍くらいダメージ量が違う気がする。数値化できないので直感的なものではあるが。


 そういう意味で言うと、心眼のスキルは対戦闘スキルとしてかなり優秀である。敵性体の位置が分かるだけであれば、自衛隊の人が持っていた鷹目と変わらないなと思っていたのだが、心眼はその気になればあらゆる情報が俯瞰的に把握できるので、赤竜のような大型の敵性体が巨体を生かして死角から攻撃してきたのも感知できる。鷹目は多分敵性体の中心的な位置が把握できるだけで、動きを把握できるわけではないのだろう。


 漸く強くなったんだなという実感が得られ、気分も爽快。

 とはいえ、二層は即死攻撃持ちばかりなので、油断してると直ぐにあの世行きである。

 立ち回りも徐々に上手くなってきているとはいえ、位置取りが悪いとアサシンバードの即死飽和攻撃によって、普通にリスポーンする。


 緑竜のいる広場に辿り着くまでに、三回リスポーンしてやり直していた。


 事前に天罰を使ってフロアの雑魚敵を一掃するのも手だとは思うが、性根の腐ってるこのダンジョンのことである。ボスとエンカウントした瞬間にリポップする可能性も十分に考えられる。それにまだ下に階層が続くであろうことを考えると、雑魚敵で一々天罰を消費していてはキリがないというか、後々詰むんじゃないかと思う。


 ゲームじみたこのダンジョン。プレイヤースキルを磨かなくては、最終的なクリアは望めないのではないか。幼少からゲームを嗜んできたものとしての勘が、そう囁いていた。


「とはいえ、だ。あれは何だ?」

 緑竜の広場前。


 森林が切り払われた円形の草原の中央に、見慣れないモンスターがいる。

 緑竜自体は一回しか戦ってないので、見慣れているかと言えばそうでもないのだが、赤竜の2Pカラーみたいなもので、初見でも珍しさは特に感じなかった。


 その緑竜の代わりに、青緑色の、龍がとぐろを巻いている。


 竜、いわゆる西洋のドラゴンっぽいものではなく、日本や中国で見られる蛇のような長いタイプの龍である。二層はボスが変わることがあるのか? という疑問を抱きつつステータスを確認する。


 名前  青龍

 レベル 444

 スキル 竜の咆哮(Lv.9) 青龍の吐息(Lv.9) 雷霆(Lv.9)

 称号  東方鎮守


 竜の咆哮  …… レベルが下位のものをLv×10秒間スタンさせる。

 青龍の吐息 …… Lv×100万/秒の木属性範囲攻撃。

 雷霆    …… 雷魔法が発動する。固定ダメージ100,000。Lv×10%の確率でスタン(2秒)。



 レベルが高い。

 名前が青龍で、東方鎮守ということは四神の青龍ということなのだろう。

 では他の朱雀、白虎、玄武もいるのか?


 答えの出ない疑問は置いとくとして、スキル構成確認する。緑竜とほぼ同じだが、雷霆の効果がヤバいな。ダメージは天罰の1/10だが、90%の確率で2秒間停止のうえ、CT(クールタイム)の設定がないから多分打ち放題。まともに突っ込むとスタンハメをくらいそうな気がする。


 高レベルの耐久でゴリ押せるか? 奇跡もあるから、2/10くらいの確率でスタンは回避できるとは思うが、HPが持つだろうか。無限収納に収納できれば良いんだが、雷の速度を視認して上手く収納できるだろうか? 予備動作無しで打てるとなれば、ほぼほぼ無理な気もするが、頭上からしか来ないなら、収納の口を頭の上に常時開けておけばワンチャン?


 むむむ、と三分くらい悩む。

 そして、考えても仕方ないと思い直し、ボスエリアに突っ込んだ。


 同時に動き出す青龍。

 東洋龍らしく宙に浮いている。スキルじゃないのでそういう生物なのだろうが、物理法則無視した動きはどうかと思う。体内の殆どが空洞で、ヘリウムでも詰まっていたりするのだろうか。


 全長は赤竜や緑竜より大きく50mくらいはあるだろうか。ただ、細長いので肉感はあまりない。とはいえ、人間から見れば十分な脅威ではある。


 形は違うが、行動原理は似ているのか、ブレスの予備動作に入る。スキルの名前は微妙に違ったが、効果が同じであれば無限収納で対処できるだろう。


 同時にフロア中からモンスター達が押し寄せてきた。


「天罰」

 流れ作業のように、真っ先にこちらに飛んできたアサシンバードに向けて天罰を放つ。

 

 驟雨の様に数多の雷がフロア中で乱れ撃たれ、雑魚敵は一掃される。

 騒音を嫌って耳を抑えていた手を離すと、青龍のブレスに備える。


 青龍の吐息。見た目も緑竜の吐息と同じ。

 問題なく無限収納に収められる。


 問題は終わった後。

 と、思っていたら頭の天辺からつま先まで、何かに貫かれたような衝撃が走る。


 体が痺れ、筋肉が硬直。

 一瞬無限収納が途切れ、ブレスを全身に浴びる。


 激痛が全身を包んだが、反射的に心眼でブレスの方向を把握して無限収納を起動。

 体感三秒ほどブレスを食らったが、即死はしてない。


 体表面が溶けて、神経がむき出しになり発狂しそうな激痛が走る。

 ギリギリと奥歯を噛みしめて耐えていると、二度目、三度目の衝撃が全身を貫いた。


 二度目も一瞬無限収納を途切れさせてしまったが、直ぐに再開し、三度目からは心眼に意識を集中して無限収納を維持し続ける。


 この衝撃が雷霆か。

 スキルの同時使用。

 考えてみれば自分もやっているのだし、出来ない方がおかしい。


 予測できていなかったから不意を付かれてしまった。

 しかし、それを反省している余裕もない。


 思考を巡らす余裕もないほど、痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!


 麻酔無しで歯科治療しているような痛みが全身に広がっている。

 雷霆で衝撃が走る度に筋肉が引き攣り、さらにその痛みを助長する。


 涙腺があればボロボロと涙を零しているだろうが、多分顔面の表面は既に溶けてない。

 客観的に見れば相当グロ注意な見た目になっているだろう。


 あぁ、そういえば服も当然溶けてるんだよな?

 このままこいつぶっ殺したらリスポーンしないから、服がおじゃんである。

 クソが、上下で24,000円だぞ!


 そう言えば視覚で捉えてなくても無限収納出来てるな。条件は視覚じゃなくて知覚してるかどうかか? 後で目を瞑って接触した状態なら収納できるか試してみよう。


 意識を努めて痛み以外に誘導しながら、なんとか一分間を凌ぎ、再生とピクシーの癒術の効果によりほぼ全快する。


 視界も戻り、なんとか体勢は立て直せた。しかし、あられもない恰好である。


「畜生め。どうせなら服まで再生してくれればいいのに」

 今度から無限収納に着替えも入れておこう。


 何が悲しくて素っ裸でダンジョン探索しなければならないのか。

 全てはこいつが悪い。


 五秒に一回ほどのペースで雷霆を叩き込んでくる、この蛇もどきが。


 ブレスを無効化しつつ、スタンの合間に徐々に間合いを詰めていく。

 青龍は近付かれるのが嫌なようで、間合いを詰めた分だけ離れていく。


 三分ほど経過し、ブレスが止んだ。


 さて、後はガチンコ肉弾戦、と思っていたのだが、青龍は間合いを保って雷霆を放つだけである。

 ブレスが終わったせいか、そのペースは三秒に一回ほどに増えている。


 ダメージ自体は大したことはなく、一分間連続で食らったところで死ぬことはなさそうである。

 しかし、間合いを保たれては永遠に終わらない鬼ごっこ状態。


 将棋で言うところの千日手状態だ。


「ぐぬぬ、ボスの癖に随分なチキン戦法取りやがって、このままこっちの餓死でも狙ってるのかこ奴」

 遠距離攻撃の手段が無ければ詰むタイプのボスだな。


 そう、遠距離攻撃の手段が無ければ、な。


 おさらいであるが、無限収納は視界の範囲内であれば任意の場所のものを収納及び取り出す事が出来る。先程知覚の範囲かもしれないと判明したがそれは今はいい。


 俺は、青龍の頭部の目の前で赤竜のブレスを開放した。


「グギャアアアアアアア!!」

 劈く様な悲鳴を上げ、炎のブレスに呑み込まれる青龍。


 僅か10秒程で、呆気なく青龍は死に絶え、地面に巨大な宝箱が現れた。

 その宝箱を無造作に収納に突っ込み、その場にへたり込んだ。


「はぁ、疲れた」

 肉体は完全に再生しているが、先程の痛みは尋常では無かった。

 痛みでよくショック死しなかったものである。


『エクストラボスの初討伐を確認しました。特典としてスーパーレアスキルを進呈します。更なるご活躍をお祈りします』


 脳内アナウンス。エクストラボスということは、たまに緑竜の入れ替わりで出現するボスということかな。赤竜討伐数がまだ30回程度とはいえ、一度も見ていないことを考えるとそれなりに低確率で出現するのだろう。単に運が悪いだけかもしれないが。


 大分レベルが高いのもあるし、偶然一発目で出くわすとかなり無理ゲー感を味わえるかもしれない。

 まあ、挙動は把握したので次回からはもう少しスマートに倒せるとは思うが、今後遭遇することがあるかは謎である。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル 999

 ロール 預言者

 スキル 神託(Lv.3) 鑑定(Lv.1) 熱耐性(Lv.1) 奇跡(Lv.1) 心眼(Lv.1) 天罰(Lv.1) 偽装(Lv.1) 再生(Lv.2) 共有(Lv.1) 分身(Lv.1) 無限収納(Lv.1) 泳者(Lv.1) 召喚(Lv.1) 雷霆(Lv.1)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し 殲滅者 到達者


 雷霆 …… 雷魔法が発動する。固定ダメージ100,000。Lv×10%の確率でスタン(2秒)。


 得たスキルは雷霆。青龍が持っていたのと効果も同じなので同じスキルなのだろう。

 だとすると、エクストラボスを倒すと固有のスキルをゲットできるというのが特徴なのかもしれない。


 天罰と違い使い勝手は良さそうなので、メインの飛び道具として役立ちそうである。


 そして、神託と再生のLvが上がっている。再生はピクシーがいるのであまりLvが上がる恩恵はないのだが、低いよりはいいだろう。常時ピクシーを出してるわけでもないし、召喚Lvが上がった際に同時召喚出来ないなら、後々ピクシーは引っ込める場面も出てくるかもしれない。


 ともあれこれで一分毎に完全回復になった。元から99.9%は回復してたので、実質0.1%回復力が上がっただけだが。それとも余剰回復分で別の効果が期待できたりするのだろうか。その辺りは後々の検証となるだろう。


 神託はLv.2でスキルの内容が分かるようになったが、今度は何かな?

 ステータス画面をぽちぽちすると、称号のところで表示が出てくる。どうやらLv.3は称号の効果を見られるらしい。

 どれどれ。


 不撓不屈 …… リスポーンによるレベルダウン無効。

 逸般人  …… 魂魄強度10000%up。

 竜殺し  …… 竜種に対してダメージ50%up。

 殲滅者  …… 範囲攻撃のダメージ50%up。

 到達者  …… おめでとう。これで初心者を卒業だ。


 ……。

 …………。


 ………………。


 おい。色々と、ツッコミどころが………………。


 おい……。



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